きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
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新井克彦画「モンガラカワハギ」




1999.11.16(火)

 日本ペンクラブ電子メディア対応研究会に行ってきました。電メ研用に買ったノートパソコンを持っていったんですが、軽いですね。2kgを切る重さというのは、こんなに軽いのかと実感しました。パソコンメーカーの努力を思いました。
 で、パソコンは私が保管するということになり、そのまま自宅へ。このパソコンを今後どうやってペンクラブの役にたつようにするか、考えなければなりません。正直なところ、ちょっと負担ですが、まあ、委託されたんだから、考えてみようと思います。
 研究会そのものは、先月に引き続いて電子メディアにおける著作権の勉強をしました。でも、知れば知るほど難しいなぁ、というのが本音です。紙の本の概念を思い切って考え直さないといけないかもしれません。私は印税でメシを食っているわけではないので、実感としては判りませんが、逆にそういう立場で考えてもいいのかな、と思っています。

 電メ研が終わるとすぐに、日本詩人クラブ会長の高橋渡さんのお通夜に行ってきました。成城学園にあるカソリック協会で通夜は営まれました。キリスト教の葬儀に行くたびに思うのですが、賛美歌(宗派によっては聖歌と言うそうです)はいいですね。無神論の私でも讃美歌だけは好きです。生前の高橋会長が思わず目に浮かんで、ガラにもなく目頭が熱くなりました。
 でも、どうしていい人は早く亡くなるんでしょう。神が存在するなら聞いてみたいと思います。なぜ神は悲しみを与えるのか、理由がよく判りません……と言ってもしょうがないですね。高橋会長の冥福を祈るばかりです。アーメン。


詩誌『海嶺』13号
   kairei 13

  埼玉県浦和市 杜みち子氏 発行

 11/13の日本詩人クラブ例会で、桜井さざえさんよりいただきました。女性4人だけの小さな詩誌ですが、どうして、どうして、なかなかなものです。詩2〜3編とエッセイ1編、それにあとがきまで全員が書いています。力の入れようが判ります。

 兄と妹/桜井さざえ

母の通夜の席に
老人ホームからすえ叔母さんが来んさった
父はいきなり荒々しく声を張り上げた
「おまえが死にゃえかったのよ
 ようヒサを苛めよったがワイこそ死ねや」
叔母さんは 「まあまあ それを言んさんなや」
笑いながら父に擦り寄っていく

五人の子をおいて若い男と駆け落ちしてから
父に勘当されていた すえ叔母さん
母のとりなしで家に来んさったが
敷居はまたがせてもらえんかった
乳飲み子を抱え 縁側に横座りしとられて
涙と鼻汁を拭ったチリ紙を山のように積みながら
「子供を皆引きとってくれると−酒も呑まんし
 ええ人で−ようしてくれるんよ」
門の外に待たしとるけん会うてくれんさいや
泣き口説いたが 父は横を向いたままじゃった

すえ叔母さんは 根はやさしい人間じゃのに
男運が悪うて ええ人には死に別れ
繰り返し所帯をもって そのたび子を賭けたが
子供たちに見向きもされんと 今は老人ホーム
白内障で目が悪いがほかに悪いとこはありゃせん
「わるいのは根性くれと頭じゃろが
 ヒサを苛めぬいて−」 父は繰り返し言う
責められても ひるまない たじろがない
あげくの果てに手をだして小遣いをせびっている

九十八歳の兄から
八十四歳の妹が嬉しそうに小遣いを貰うている
父も すえ叔母さんも知っていなさる
遠からず ゆく場所を

 おそらくさざえさんの親族を描いた実話だと思うんですが、驚きましたね、98歳と84歳の兄妹ですか! この作品では、その年齢が大事なんだと思います。「男運が悪うて」というのは50年も60年も前のことでしょう。それでも今だに「父は繰り返し言う」というのですから、個人の歴史は時間ではないという思いをします。
 この作品で救われるところは「あげくの果てに手をだして小遣いをせびっている」ところですね。やっぱり兄妹、血は争えないなあ、とホッとしています。
 そしてやっぱり、作品として優れているのは終連ですね。「遠からず ゆく場所」が判っているから、なんだかんだと言っても許し合うんですね。ドラマチックで、暖かみもあって、その上考えされられる、いい作品だと思います。


詩誌『布』10号
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  埼玉県戸田市 阿蘇豊氏・他 発行

 ここのところ気になっていた詩人、阿蘇豊さんにお会いすることができ、その上、同年代の4人でやっている『布』までもらうことができました。感謝!
 その阿蘇さんの作品を紹介しましょう。

 漢方薬/阿蘇 豊

走り去る電車の窓から見かけた
花の名前
 あれは ええと
中吊りに目をおとしてしばらく
 ああ おだまき

花の 名前を知っている
それって
なんだ?
それより
毒きのこを見分けられるほうが
それよりもっと
有利な資産運用法のほうが

帰省して
陽のあたる廊下で
春先の庭をぼんやり
 これは鯛釣り草
 これは山うつぎ
 いかりそうにえびねもホラ
 しっかり根づいて
一年ぶりの母の
声もぴんと張り
近所の人の
口元もほころぶ

花の 名前
ことばの 漢方薬

 「漢方薬」というタイトルで?と思って、読み進んでいってもなにが漢方薬なんだか??で、最後の1行で、おっ、と思って…。やっぱり読ませるなあ、と思います。それにやさしい。言葉も人や現象を見る目がやさしいですね。そんなところに惹かれるんでしょうね。
 ちなみに私は「有利な資産運用法」なんてやってませんが(やるほどの資産が無い、という言い方もできる)、ここに出てくる花の名前は完璧に判りません(^^;; 漢方薬が必要だなぁ。



 
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