きょうはこんな日でした【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画「モンガラカワハギ」 |
1999.11.18(木)
沼津に行って「柳家小満んとあそぶかい」というのに出てきました。これで3度目か4度目になりますが、いつ行ってもいい会です。プロの落語を膝詰で聞いて、一流の会席料理を食べて、銘酒「越の寒梅」を呑めるだけ呑んで、それでいてびっくりするくらい安くて、言うことなしです。
日本ペンクラブで知り合った、沼津在住の開業医・望月良夫さんのお誘いです。今回は東京にお帰りになる小満ん師匠と、小田原までご一緒するというおまけまで付いて、ラッキーでした。落語家とご一緒するなんてことは、私なんかにはそうそうあるもんではないですからね。いろいろしつこく聞いてしまいましたよ。
それにしても「越の寒梅」はすばらしい。2日ほど前に某大手メーカーの日本酒を3合ほど呑んだですが、ひどい二日酔いになって、参りました。そこにいくと「越の寒梅」はいくら呑んでも二日酔いになりませんものね。混ぜ物が入ってないんだろうなぁ。なかなか呑める機会がないのが玉に傷だけど…。
○詩誌『RIVIERE』47号
大阪府堺市 横田英子氏 発行
のちの日のために/岩城万里子
日向は少し暑さが残るけれど
木陰はすでに季節が移っていてどこかほの暗い
どんぐりが落ちているのだ
ここにも あそこにも
檪がこんなにも大きく枝を広げて深い森をつくっていたなんて
気づかなかった
同じように白い布の帽子をかぶった
老女がふたり
姉は太っていてしっかりした足どり
妹はやせて不自由な体をかばっている
拾っても 拾っても
抱えきれないどんぐりが こんなに
役割も言葉づかいも呼吸も
おそらくふたりは童女のときも
そうであったように
森に陽がかげって
ふたりの持ち時間はあとわずか
---- あ お姉さん待って
消えてゆくふたりを追うわたしは
時の流れにあらがうように
胸のなかで何度もシャッターを切りつづけている
タイトルがすばらしい。最終連とうまく呼応していて、唸らせます。作者の年齢は判りませんけど、こういう風にふたりの老女を見ることができるんですから、私とそれほど違わないと思います。間違っていたらゴメンナイですけど。
巻頭の作品だけのことはあると思います。石村勇二さんはあとがきの「編集ノート」で「前半は比較的こころにやさしく入ってくる詩を集めた」と書いていますが、確かにその通りです。この作品もその範疇に入るのかもしれません。
でも、よく考えてみると、そう単純でもないように思えます。なぜなら、またタイトルに戻りますが「のちの日のために」と言うのは、自分の「のちの日」を書いているととらえるべきで、それほど心やさしく考えられないからです。老いるということが「やさしい」と考えるなら違いますが…。
もし「のちの日」が老いを指して、それが「やさしい」とするなら、こんなに達観した作品はありませんね。実は私も老いは怖くないと思っています。老いることにはそれ相当の意味があるし、死もまたしかり、です。死は解放、ととらえると、こんなうれしいことはありませんからね。
○貞松瑩子氏詩集『花笛と少女−歌曲のために』
2000.1.1 書肆青樹社刊 非売品
私がまだ10代の頃から、おつき合いいただいている貞松瑩子さんから頂戴しました。あとがきには「現代詩であっても微妙に異る分野、歌曲のための詩集」を纏めたかった、とあります。まさに歌曲のための詩のみを集めた詩集で、ちょっと他では見当たらないでしょうね。
女声合唱『遠野物語』より 作曲/小山順子 94年初演/コール・メイ 指揮/(テノール)
河野正幸
仙人峠
仙人峠は 十五里のぼり
くだり十五里 風のなか
仙人峠は 昼でも怖い
まして夕暮れ なお怖い
仙人峠に お堂が一つ
お堂の壁に 旅人が
山で出遭った 出来事の
不思議を記す 習いとか
仙人峠に お堂が一つ
あとはドットと 風ばかり
仙人峠は 十五里のぼり
くだり十五里 風まかせ
歌曲はまったく門外漢なんですが、これはおもしろいと思いました。遠野の民話を題材にとっていること、「風」の扱いがうまいことなどの理由によります。民話としても「不思議を記す 習い」なんてのはいいですね。あるいは作者の創作かもしれませんが、そうだとしたらなおさら独創的でおもしろいですね。
風の扱いも最終連の「風まかせ」がよく効いていると思います。くだりの「風まかせ」ですから、吹き降ろしか上昇風かどちらか判りませんが、どちらに取っても「まかせ」という認識でよく理解できます。これがあるから、その前の「風ばかり」「風のなか」も生きているんだろうなぁ、と思います。
この詩集に収録されている歌曲のための詩は、一番古いので1971年というのがありました。私が貞松さんと出会った直後に初演されています。つくづく古いつき合いだなぁと再認識しています。詩集の中には聞いた記憶のある「海ほおずきの思い出」なんてのもあり、懐かしく拝見しました。
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