きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
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新井克彦画「モンガラカワハギ」




1999.12.11(土)

 日本詩人クラブの国際交流・忘年会がありました。早稲田大学のフランス人女性助教授が日本の漢詩について講演し、収穫がありました。漢詩はあまり興味がなかったんですが、講演を期に読んでみようかなと思い始めています。講演要旨はいずれ広報誌『詩界』に載りますから、それも参考にしようと思っています。写真は日本詩人クラブのHPに載せてありますから、どんな女性か興味のある方は、そちらもご覧になってみてください。美人ですよ。
 さて、忘年会。こちらも例年通り楽しいものでした。前出のフランス女性も二次会、三次会とおいでになり、なかなかつき合いのいい人だな、と思いました。
  991211
 写真は、デジカメを自分に向けて撮ったものです。そんなことをして遊んでいました。女性は会友で、一番若い方に属する方です。親子ではありませんぞ(^^;;


内藤紀久枝氏詩集『たけにぐさ』
   takenigusa
  1999.12.10 書肆青樹社刊 2200円+税

 

首筋に
うすい吐息を聞きながら
すりガラスをかざして
蝕を見る

日輪が
じょじょに欠け始めると
あたりはセピア色に染まり
見知らぬ街並がかしぐ

騒いでいた頭上の
ニセアカシアの枝葉まで
長い日々に交わしてきた
どんなことばも振り落として
息をひそめる

よぎる球体の計り知れない軌跡
欠ければふたたび満ちてくる壮大な営み
そにには
永遠が回っている

途上の
満ちてくる気配もない日々
ひとしずくの泪を落として
わたしはいま
欠けていくばかりの
蝕の中にいる

 蝕はいずれ元へ戻るが、「わたしはいま/欠けていくばかりの/蝕の中にいる」と規定する詩人の心境が、ようやく判るような年齢に自分もなったなぁ、と気づかされる作品です。それは悲しみとか諦めというようなものではない、とこの作品は訴えているようにも思います。「永遠が回っている」というフレーズに私はそれを感じます。
 それにしても、日蝕の状況を描写している1連から4連は見事です。ありありと情景が目に浮かび、「息をひそめる」さまが手に取るようですね。第2詩集とのことですが、力のある詩人だなぁ、と思いました。
 「蝕」の食偏は旧字です。Microsoft Word には載っていません。パソコンの漢字はやはり少ないと思いますね。日本の漢字を正当に扱ってくれ!と言いたくなります。


年刊詩集『もくせい』第18集
   mokusei 18
  1999.11.1 山口詩話会刊

 あの木がなんの木か
 わかったのは
 母に見つかってからだ
 少しばかり
 いまは照れ臭く恥ずかしいが
 ゴシゴシ ガツガツと
 木の先を齧った痕が残っていて
 母は
 これ どうしたのと訊ねた

 戦時中
 たしかに鉛筆けずりは持たなかった
 肥後守でけずるのも知っていたが
 ぼくは齧って芯を出していたのだ
 きになる木は
 母が牽いた辞書に笏
(しゃく)の材に用いる
 イチイ(一位)とあった

 あの木なんの木
 えんぴつの木  (ながとかずお氏「あの木なんの木」第7〜終連)

 これは私も覚えがありますね。この前の方の連には「いい匂いだ この香りは/ああ なんともいえぬ」というフレーズも出ています。それだから齧っても大丈夫と思ったんでしょう。確かに甘い匂いと齧って口の中に残る木の味に魅了された覚えがあります。
 ながとさんと私とは20年くらい離れていると思いますが、肥後守も知っています。その20年というのは、意外と時間がゆっくり流れていたのかもしれません。1980年代からの20年と、1950年代の20年では雲泥の差があるんでしょうね。そんなこともこの作品から感じました。


詩誌『火皿』93号
   hizara 93
  広島市安佐南区 福谷昭二氏 発行

 ルーズソックス/森 鈴

何があなたを寂しくさせているのですか
十年前 幼かった頃
お金になることばかり 教えられてきましたか
ブランドのバッグを買うように
価値のあるこどもが大切と信じていましたか
先には 高いハードルばかりあって
ゴールには 夢とちがうものが 待っている
ふと
それに気づいて 息切れがしたのですか

この前 こどもが風船を飛ばしてしまった時
走って つかまえてくれましたね
ソックスが 波のようにゆれていました
ふりこのような若い心そのままです
あの姿も あなたですね
あの心も きっと あなたなのですね

 森さんはやさしいなぁ、と思います。ルーズソックスは穿いている姿はずいぶん少なくなったので、気にならなくなりましたが、今は底の厚い靴とガングロですね。真っ黒な顔に銀色の口紅を塗った子が来ると、ギョッとしますよ。そんなときは口の中で「バカタレ」と言っておしまいにします。
 森さんはそんな子でも風船を追ってつかまえてくれる、と説きます。確かに。私たちも若い頃は髪の毛をボサボサにのばして、いろいろ言われたものです。その私たちの娘が今、高校生になっているんですから、あまり大きなことは言えません。森さんを見習って、いい所を見つける方が賢明かもしれませんね。



 
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