きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
murasame mongara
新井克彦画「ムラサメモンガラ」




1999.5.15(土)

 横浜の連勝に気をよくしています。巨人戦7:4はうれしいですね。19時から21時半までテレビとラジオに釘付けになりましたが、その時間が惜しいとは思いません。勝ったときはね(^^;
 きょうは『山脈』104号の原稿〆切日です。内緒ですが、まだ出来ていません。もちろん構想は出来あがっているので、あとは書くだけの態勢ですけど。明日、主幹の筧槇二さんにお合いすることになっていますので、それまでには仕上げておきます。
 きょうの横浜−巨人戦で、考えていた原稿の内容がどう変るか試してみたくなりました。横浜が勝ったときと負けたときで文体が変るのか、です。モノを書くという立場からは本来関係ないはずなんですが、なにせ私は気分屋です。どう変るが興味が出てきたんです。
 これから朝まで原稿書きに入ります。おっと、その前に昨日いただいた本の紹介をしましょう。


エッセイ誌『らぴす』8号
   LAPIS 8
  岡山県岡山市 アルル書店・小野田潮氏発行

 亡くなった近文社社主・伴勇さんに紹介いただいて以来のお付き合いをしている小野田潮さんから頂戴しました。詩人の小野田さんの発行ですから、当然詩誌≠ニ思って開けたんですが、一編の詩もありません。しかし書かれているエッセイはほとんどが詩に関することで、新しい雑誌のあり方と思います。

 荒木瑞子氏の『野球と夢二』は目を引くエッセイです。夢二については好きな人はたまらなく好きなんでしょうが、私はそれほどでもありません。ですから夢二が野球を好んだということは、私にはまったく初耳で、いい勉強になりました。2年前からようやくプロ野球を観るようになりましたから、書かれている野球用語もどうやら理解できます。夢二が野球にのめり込んでいく姿も理解できます。野球は散文的ですが、流れが変る瞬間なんかは詩的でもありますね。

 『詩美論風に』後山光行氏も後山さんが絵についてどんな風に考えているかが判り、好感のもてる文章です。絵はまったくの素人だと断わりながら描いていく姿勢は、観る者の気持ちを和らげ素直に入り込める作用を果たしていると思います。でも、ご本人は謙遜していますが、後山さん発行の個人誌『粋青』で拝見する絵は、素人の域を越えていると思いますよ。

 『私の鉄道八景(その二)』熊谷文雄氏は、ご自分を車窓派≠ニ位置付けています。鉄道ファンの車両派、模型派、写真派、時刻表派などに対するご自身でおつくりになった派名です。そこには他派ののような専門的な知識が必要ではなく、いたってグレードが低いと自嘲なさっていますが、どうしてどうして。ぼんやりと車窓を流れる風景を堪能するなんて、最高の贅沢だと思いますね。

 小野田潮氏『坪庭のある家』は、京都の吉田邸の坪庭を取り上げています。坪庭をみみっちい≠ニ捉えるんじゃなくて、「極小のなかに極大を見ようとする日本人独特の想像力のなせる技」とおっしゃるあたりはさすがですね。フランス文学もおやりになる小野田さんだからこそ、外から見た日本を的確に捉えることができるのかもしれません。


石井健次郎氏詩集『透琴集』
   tokinsyu
  1999.5.22 信毎書籍出版センター刊 2000円

 1997年より『山脈』同人にお迎えしている石井健次郎さんよりいただきました。1941年に第一詩集をお出しになって、今回が第四詩集ですから、かなり寡作な詩人です。しかし知る人ぞ知る西条八十の『蝋人形』にも寄稿していただけあって、非常に力のある詩人です。
 その作品も月光菩薩あり、マリアあり、ルバイヤットありとかなり宗教色が強く感じられますが、おそらくご本人の中では宗教ではなく詩として捉えているのではないかと思います。

 ルバイヤット風なる詩篇
  第百十一番 −四つの音−


フォルクローレ−菩薩−玄在の声が昿野に渡り。
ベートーベン−明王−憤怒の滝が地平に轟く。
モーツァルト−飛天−純美の裳が空に舞ひ。
バッハ−如来−救済の光が宇宙(そら)に透く。

 この作品などがそれを端的に物語っているでしょう。音楽家と仏像をうまく組み合わせた作品で、ベートーベン−憤怒、モーツァルト−純美、バッハ−救済という構図が素直に理解できます。

 クリオネ幻想

あゝ 可憐な天使、清らかなクリオネよ!
その眼は神より優れ、世界を透視してゐた。
東洋風な琴を抱いて 水宙に舞ひつつ。

或る日、クリオネは空中に舞ひ出た。
岸の上の樹に 一人の聖者が座ってゐた。
その肩に留まり、「脇から翼が−。」と告げた。

可憐な天使、蛋白石(オパール)色のクリオネよ。
君に その過去や未来を問ふてはならない。
唯、永遠の現在あるのみ。ユーラリ……。

あゝ 碧の北海の氷の中 ピンクの心臓
やがてお前は氷の宮殿に閉ぢこめられ
その身は溶けて、天国へ昇って行った。

 この作品は石井さんにしては珍しく具体的な生物を対象にしたものです。一時話題になったクリオネを素直に表現していて好感りもてる作品です。「永遠の現在」というフレーズもいいですね。
 その他、初期に『蝋人形』に発表した作品、第一詩集『囁く葦』に載せた作品なども含まれ、石井健次郎という詩人を知る上では欠かせない詩集と言えましょう。



 
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