きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
murasame mongara
新井克彦画「ムラサメモンガラ」




1999.6.16(水)

 ご無沙汰いたしております(^^;
 先週の9日からきのう15日まで休暇でした。6/12の日本詩人クラブ丸亀大会を中心に、永年勤続特別休暇をとっていたんです。この間にいただいた本も20冊近くになり、紹介もしたいし、知らせたいイベントや問題も山積みです。一度にはできませんから、おいおい書いていくつもりです。

 まず、6/9。日本ペンクラブの電子メディア対応研究会(電メ研)がありました。これに先立ち秦座長から、通信傍受法案に対する日本ペンクラブとしての声明案を書け、との指示がありました。そして書いた私案がこれです。

 通信傍受法案に反対する日本ペンクラブの緊急声明(案)

 六月一日の衆議院本会議で通信傍受法案が可決されたが、日本ペンクラブは本法案に反対する。本法案は国民のプライバシーや思想、言論の自由など憲法の保障する基本的人権を侵害するものであり、文筆家の集団である当会は絶対に認めることができない。
 本法案は、まだ犯罪が発生していない「将来の犯罪」に対しても適用され、現在の捜査概念を覆すものである。また別件傍受も認められ、「通信の秘密」に守られた従来の国民生活を大きく変更させるものである。
 しかも電話傍受のみか電子メールの傍受も認められることは、将来のいかなる通信にも適用されると考えられ、信頼の上に成り立つ商業通信の基礎を破壊するものである。
 良識の府、参議院での廃案を切に希望する。

 6/7だったと思いますが、理事会は参議院の法案賛成会派議員に対して緊急のアンケートを行っています。趣旨は、法案をもう一度考えなおしてほしいというものです。言葉はかなりおだやかです。それに対して私の案文はご覧の通りはっきり反対だと断言しています。その点がペンクラブとして矛盾しないか、というのが電メ研では議論になりました。しかし結論としては、このくらいはっきり言わないと駄目だろうということで、決着です。
 これが電メ研としての緊急声明案となり、理事会に送られたようです。しかしきょうまでの新聞を見ても、他の情報網で調べても緊急声明が出たという情報はありません。ちょっと心配しています。

 きょうの新聞には川崎市議会が反対声明を出したとありました。私案にもありますように、モノ書きは自分のニュースソースの秘匿も含めて、無関心でいられるはずがありません。市議会ですら対応しているのに、この段階でペンが黙っているのはどうかな、と思います。本来は衆議院でやるべきだったのですが、タイミングが悪すぎました。ちょうどペンの役員改選にあたっていて身動きがとれなかったのです。ですから、参議院は最後の砦です。ここで発言しなければペンの存在理由さえ問われかねません。
 まだ会期中ですから、これから声明が出るのかもしれません。期待するしかないようですね。「ごまめのはぎしり」であっても、言うべきことは言わなければ後世の歴史家に笑われます。
 この日の電メ研は、非常に意義あるものでした。緊急声明案を出したこともそうですが、もうひとつあります。


文字鏡研究会編『パソコン悠悠漢字術』
  mojikyo

  
1999.5.25 第2刷 紀伊国屋書店刊 1900円

 現在のパソコンで扱える漢字・文字が約2万です。一般的にはこれでまったく問題がありません。しかし人名や古典を考えると、無い文字ばっかりです。古典研究者はパソコンの恩恵に与かることができず困っています。外国からインターネットで日本の古典を調べようとしても無い文字ばっかりですから、文字化けのオンパレードです。
 それではいけない、モノ書きの分野からも声を上げていこう、と始まったのが実は電メ研なんです。そのため通産省系列の「文字コード委員会」にも出かけていったり、日本文藝家協会とも連携をとったりしています。主張は、なんとか筆で書くようにどんな文字でもパソコンで扱えるようにしてくれませんか、という至って単純なものです。
 じゃあ、どのくらいの文字が必要かというと、およそ10万字と踏んでいます。もっと必要なのかもしれませんが、それだけあればおよそ9割の需要には合うんじゃないか、と私は思っています。今のパソコンなら10万字程度の実装は、技術的には可能だそうです。これは電メ研のメンバーでもある東大工学部の坂村健教授の言です。坂村先生と聞いて、おや?と思った人はいませんか。その人は相当コンピュータに詳しい人ですね。そうです「トロン」の発明者です。

 問題は、どうやって10万の文字にコードをふるのか、だれが文字をデジタル化していくのか、主にこのふたつです。これは基本的には技術の問題ですから、モノ書きはそんなところには首をつっ込まず、筆で書けるようにパソコンで扱えるようにしてくれ、とだけ言うべきだ、というのが私の主張です。文字に疎い技術屋が変な方向に走りださないように注意しているのが私たちの立場だと思います。
 しかし、そうは言っても技術屋が困ったと言えば、私たちもよく理解はできないけど、一緒に困っています(^^; 10万程度の文字が使えないようでは困るなあ、というスタンスですけど。

 それがなんと、この
『パソコン悠悠漢字術』では9万字をクリアしているそうなんです。電メ研においでいただいた執筆者のおひとり、谷本玲大氏から伺いました。日本では「大漢和辞典」の5万字、中国台湾を含めて8万字、その他ベトナム漢字、梵字などを網羅しているというからすごいもんです。
 しかも入力は文字鏡研究会のボランティア。今後も増やしていくというから恐れ入ります。さらにこの本に付いているCDはコピー無制限というから、彼らのボランタリーには頭の下がる思いです。むしろどんどん宣伝してくれ、とのことですから、このHPでも市販品ながら写真入りで紹介する次第です。

 ここまででしたら下司の勘ぐりで、本が売れることが目的か、などと思ってしまいますが、次の発言で自分の浅はかさを知りました。
 文字鏡委員会は過渡的なものだと認識していると言うんです。本来は10万字なり20万字すべてに文字コードがふられるのが望ましいが、現状ではそれぞれの思惑もあって、すぐには解決しそうもない。それなら自分たちで当面のシステムを作ってしまおう。作ってしまったから困っている人にも使ってもらおう。だから文字コード問題が解決したら自分たちの役割はおしまいで、解散。
 これほど潔い人に、最近では合ったことがありません。感激しました。電メ研の目的もほぼ達成されたと思っています。もちろん、文字鏡委員会の方針を全面的に採用するかどうかは、もう少し研究する必要があります。いただいたCDもまだ使っていません。使った後で最終的な私なりの判断をしようと思います。それは別途報告します。
 しかし、なんと言いますか、意気込みで判る部分というのもありますよね? 今回はそれを強烈に感じました。



 
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