きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画「茄子」 |
1999.7.29(木)
連日の深夜に及ぶ会議、相次ぐ出張でヘトヘトになっています。いただいた本も溜まる一方で、ちょっとヤキモキしています。
きょうは久しぶりに陽のあるうちに帰ってきました。さあ、のんびりしようと思ったら、なんのことはない、葦簾張りが待っていました。
クーラーのない生活を始めて10年になります。田舎に家を建てましたので、隣り近所と数10mは離れています。風の通りが良好です。クーラーをやめて葦簾にした次第です。風さえでてくれば凌げます。まあ、なんとか10年耐えて、これからも耐えられそうです。
しかし、よくよく考えてみると、葦簾を張るためにテラスを数10万円で建てました。葦簾も幅1.8m長さ3.8mが3本必要で、2年に一度は更新しなければなりません。クーラーを買った方が安かったかな(^^;
○詩誌『すてむ』14号
東京都大田区 甲田四郎氏 発行
準備/甲田四郎
動かないパソコンの画面をにらんでいる
右手がヒクヒク動くのは
ぶっ叩きたいのであるが
私のいるのは二階で
トンカチはあらかじめ一階の机の引出に入れておいたので
右手は空しく宙をさまよい
パソコンはいつまでも無事なのである
消火器は予想される火元に近過ぎれば手に取れず
離れ過ぎれば間に合わない
間に合わなくて役に立っているものもあるのだ
玄関から少し離れた冷蔵庫の陰の
長さ一メートル二〇のバール
二階の私の寝場所の本棚の横の
樫の木刀
これらは間に合う場所で出番を待っている
幾星霜空しく
まことに失礼ながら思わず、アハハと笑ってしまいました。判りますねえ、これ。私のパソコン歴もそろそろ20年ですから、さすがにこんなことにはならないようにしていますが、近いことは今だにあるんです。対策はこまめにデータをセーブするしかありません。
パソコンはまだまだ過渡期の製品です。ようやく取扱説明書も薄くなってきましたが、家電製品として見た場合には最悪の扱い難さです。大型の業務用コンピュータでさえ、たまにフリーズすることもあるんですから、パソコンなんて信用すべきものではありませんね。専門家でも明確に原因を説明できないんですから、始末におえません。
しかし、それをうまく作品にしているのは、さすが甲田さんですね。この手の作品は初めて拝見したように思います。「消火器は予想される火元に近過ぎれば手に取れず」という転換はうまいですね。
その他、同じ甲田さんの「ユリ」、長嶋南子さん「チュウーインガム」、坂本つや子さん「一枚の紙」などにも惹かれました。力量のある詩人が揃っている詩誌です。
○詩誌『こすもす』36号
東京都大田区 笠原三津子氏 発行
偶然に東京・大田区の詩誌が続いてしまいました。こちらは日本詩人クラブでいつもご一緒させていただいている笠原さんが主宰なさっている詩誌で、女性同人がほとんどを占めています。
トパーズのような石/笠原三津子
胆管がふくらんだ
一センチの石を内臓して
しがらみを切り落とす
内視鏡術
胆管はあせらない
みごもるものは みごもれ
おうようだ
痛まないから あせらない
黄疸が出ない ふしぎ
あちらと こちらを隔てる距離
いちめんの雲
胆管のすき間は僅か 二ミリ
すま間は言葉を みごもる
春の雪どけヨーグルト
の ような時間
石をみごもった女が
オレンジを食べている
透明になるのよ
しがらみを切り落とす
内視鏡術
黄トパーズのような石が
かがやいて見える
指輪にしたいようだった
私は内科の手術というものをしたことがありません。外科は頻繁でしたけど(^^; ある意味では自分の身体の一部が除去されるというのは、どういうことなんだろうと考えます。その答えが「春の雪どけヨーグルト/の ような時間」と受け取り、新鮮でした。
実際に手術をなさった笠原さんには失礼になるかもしれません。あるいは私の思い込みで、的を外しているのかもしれませんが、「春の雪どけヨーグルト」と表現なさったことは、詩人としての面目躍如ではないかと思います。詩人の、詩人たる所以と言ってもいいと考えます。
現実の笠原三津子さんは、詩人クラブでお会いしている限りでは、非常に我慢強い方と見うけられます。でも、ご自身の我慢の限界を越えた時は、きちんと、理路整然と発言なさる方です。この作品を拝見して、その思いを新たにしました。
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