きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
新井克彦画「ムラサメモンガラ」




1999.8.29(日)

 日本詩人クラブの9月例会のお知らせをします。

  日時 9月11日(土)午後2時より
  場所 神楽坂エミール(教育会館)
     電話03(3260)3251
     地下鉄東西線神楽坂下車赤城神社隣り
  内容 マイ・ポエム・ワールド(朗読とスピーチ)
      君島蓮晶 鈴木有美子 武田 肇 の各氏
     講演 一色真理氏「詩と無意識」
  会費 会員・会友無料 一般500円

 どなたでも参加できますから、お気軽にどうぞ。二次会も予定されています。こちらは2000円。どちらかと言うと、こっちの方が楽しかったりします(^^;;
 さて、いただいた本の紹介です。


張香華氏・今辻和典氏訳詩集『愛する人は火焼島に』
   aisuru hito wa
  1999.8.20 書肆青樹社刊 1800円+税

 わたしの愛する人は火焼島にいました
 そこは美しい山も 渓流もなく
 青い水や渚もなく
 あるのはただ凶々しい巨大な波
 烈日と風沙
 乾いた蔬菜
 途絶えた飛鳥の跡
 格子窓の白雲は 堅い塊に凝結するばかり
 わたしの愛する人は そんな日々
 獄房でオールドブラックジョーを歌っていました
 うらぶれたその歌声の中に
 わたしの姿を埋め消していました
 あの人の衰えた視力は
 わたしの顔さえ判別できなくなり
 わたしの疲れ果てた心も汲みとれないままでした
 わたしよりもっともっと疲れ果て
 絶望に疲れ果てていたので  (「愛する人は火焼島に」第2連)

 巻頭で表題にもなっている作品の部分です。「火焼島」の意味が判りませんが、次の訳者注釈で理解できます。

 *(訳者註)この火焼島とは、かつて蒋介石政権が治安維持法や戒  厳令などによって、反体制の思想家や活動家を徹底的に投獄隔離した緑島のことであり、特に本省人が対象とされ過酷な処遇や生  活環境など最も恐れられていた暗黒の島であった。この詩人の夫は著名な文学者柏楊氏であり、評論書「醜い中国人」(光文社)で  も広く知られている。かつて蒋介石父子を批判した寸言により、懲役十年の刑を受け投獄された。

 柏氏は現在、釈放されているようです。台湾の暗い時代の遺産ですが、当事者にとっては「遺産」で済まされないものがあると思います。しかも隣りの台湾の話ではなく、日本も同じ道を逆戻りしているような気がしてなりません。
 迫害を受けてから詩として作品を残すのか、迫害を排除すべく活動するのか、詩人の役割とは何かをも考えさせられる詩集です。本当の国際化≠ニは、このような問題も含めて、アジアにも目を向けることだと思います。


詩と散文・エッセイ誌『吠』8号
   bou 8
  千葉県香取郡 山口惣司氏発行

 リコパイ修整液/蔡 秀菊(頼 安 訳)

以前
書き間違えたら
必ず指先を唾でぬらし
けんめいに消していった
それでも恨めしい痕がのこり
かつてあった汚れを常に思い出させていましめてくれる
あの物質の缺乏していた時代

経済が高度に成長したあと
リコパイが必需品となった
ほんの小さな一滴で
総ての粗忽をきれいにおおい隠してくれる
やがてただ振り動かすだけさえも億劫になり
液体が小さなテープに代ってしまった
軽くころがすだけで
いとも簡単になお心にのこっているほんの僅かなしこりをも消し取ってくれる

リコパイに包まれた幾層もの経帷子(きょうかたびら)の時代
いいかげんな嘘をつくことも面倒になり
承諾した保証をひっくりかえして
太陽の光の中に晒し
リコパイを塗りたくった甘いことばをちぎり捨て
最初の筆跡をあらわにする
真相は依然として一かたまりの霧のような謎

これは混沌とした虚々実々の時代である

  訳註………立可白(リコパイ)はペンテル修整液の北京語商品名


 うまい作品だなあと思います。特に3連の展開の仕方はいいですね。1連の書き間違いの記憶も、鮮やかに甦ってきます。そうでした、指を唾で濡らして、、、。そうやっていろいろなものを被い隠してきましたよね、確かに。
 修整液の時代も終わって、修正テープの時代ですね。私の手元にもあります。転がすだけで勝手にテープを貼ってくれる優れものです。でも、代りに何を失ってしまったのでしょうか。作者の突き付ける課題には重いものを感じました。



 
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