きょうはこんな日でしたごまめのはぎしり
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新井克彦画「アカククリ」




2000.1.22(土)

 『山脈』の新年会、105号合評会が横浜でありました。今月から加わった新同人も来てくれて賑やかな会になりました。合評は、まあそこそこに、でも粒が揃った号でしたから、ほぼ満足。それより、私は自分自身に驚きました。半年前の前回合評会に比べると、指摘する点がかなり的確になったようです。
 あまり他人様の作品を批評するというのは得意ではなく、批評しても的外れだったことを告白しておきます。それが今回に限って、かなり的を射た発言になったようで、自分でも驚いているんです。なぜかな、と考えて、結論が出ました。このホームページのせいなんですね。
 この世界に足を踏み入れて30年ほどになりますから、いただく詩誌・詩集というのは以前から年間100冊くらいはあったろうと思います。以前は葉書一枚にお礼を書いて、というパターンですから、正直なところ、それほど読み込まなくても書けました。しかしHPで書くという場合はそうはいきません。かなり読み込まないと書けないんです。誰が見ているか判りませんし、私の技量が公になる怖さがあります。
 そんなこんなで批評眼が多少はついたのかな、と思う次第です。それでも以前の自分に比べれば、というだけのことで、世間の水準にはまだまだ至っていません。高い送料を払って贈呈していただいて、その上勉強の場を与えてくれている皆さんに、改めて感謝します。

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いい呑みっぷり! 横浜・野毛「今福」にて

 今回の新人はお酒が呑めません。『山脈』入会条件のひとつがクリアーできていないので(^^;; 心配なんですが、まあ、大丈夫でしょう。いい呑みっぷりをしている女性も、当初はあまり呑めなかったはずです。成長を期待しましょう(^^;


鈴切幸子氏詩集『街はきらめいて』
machi wa kirameite
2000.2.3 神奈川県横須賀市 山脈文庫刊 2000円

 街はきらめいて

笑みを浮かべるひとはいない
その席に着いたひとは

時間が
じわりと肩にくいこむ
椅子が軋み
隣りのひとは貧乏ゆすり
私はそっと息を吸う
私のほかにもう一人
女性がいることを確かめながら

マイナスのカードを引いてしまった債権者
驚きと困惑の手に書類が配られる
負の数字の上
大きな顔してあぐらをかく貸借対照表
その <貸> の字が <賃> になっている
  

----賃借対照表

悲劇にまぎれこむ喜劇
泣きたいおかしさ
「この数字を見てもわかるように」
債権者の回収できる見込みはゼロ
に等しいと弁護人は
いとも簡単に幕を閉じようとする

怒号寸前の言葉攻めも
いつしか負け犬のように
配られた紙屑同然の用紙に
取り立て不能の数字を書き入れ
ゼロ ゼロ ゼロと喘ぎながら
その部屋を出る

午後八時
倒産の余震止まない働き損の空腹よ
街はきらめいて
クリスマス・イブ

 鈴切さんは印刷所を自営なさっている方です。債権者の立場で書かれた作品ですが、私などには想像を絶する世界ですね。常々、自営の方とはすごいものだと思っていますが、この作品はまさにそれです。他人様に雇われて、とりあえず食う心配のないぬるま湯に身を置いていると、こういう現実感が乏しくなります。
 自営をして家族を養い、社員の生活の保障をして、なおかつ詩を書くというのは並たいていではないだろうと想像します。鈴切さんは『山脈』の同人でもありますから、始終顔を合わせています。おだやかな方で、こういう修羅場をくぐっている人とは、とても思えません。「街はきらめいて/クリスマス・イブ」とうたう詩人の姿を見ると、実業と虚業を見据える力強さを感じます。
 それにしても「働き損の空腹よ」とはよく言ったものです。私の仕事の中でもこんなことは日常茶飯事で、まる一日、まる一月の仕事を棒に振ることがあります。がっくりしますが、とりあえずそれとは関係なくメシは食えます。基本的なところで甘えがあるなぁ、と気づかされました。



 
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