きょうはこんな日でしたごまめのはぎしり
akakukuri.jpg
新井克彦画「アカククリ」




2000.1.26(水)

 自治会の住民へ「集落整備法」の説明を市がやる、というので行ってきました。私の住んでいる所は市街化調整区域で、特例を除いて住宅を建てられません。それを取り払う「集落整備法」を住民が望んだので立案した、ということでした。100坪程度の宅地を100戸分確保するそうです。私の住居と土地は対象外になっていましたから、とりあえずヤレヤレなんですが、問題は道路です。
 新しい幹線道路がうちの150mぐらい先にできそうです。それが実現したら困るなあ、というのが実感です。この地区には8年前に特例で家を建てて住んでいますが、車の音がしない静かな場所だったから選んだんです。現在の幹線道路は300m先です。それが近くなったらどうなるか、心配です。まあ、そんな程度で文句を言っているようでは、この住宅事情で贅沢かもしれませんが、モノ書くときは静かでないと困るんだなぁ。しばらく静観です。


月刊詩誌『柵』158号
saku 158
2000.1.20 大阪府能勢町
詩画工房・志賀英夫氏発行 600円

 工場の風/佐々木誠

いつもと変らない
朝のミーティングで
酒井君が職場を去るというので
挨拶をした。
「二年と半年、おっちょこちょいのこの僕を、温かい目でフォロー
 してくれてありがとうございました」
とてもはっきりとした口調で
彼は続けた。

自ら辞めていく若い青年は
家族の生活を支えていくために
目先の収入に絆
(ほだ)された。
リストラの風が吹き荒れた
この工場
(こうば)
叫びが 木霊する。

本当は、ずっとここに居たいのだ。
ここが好きなのだ。
できれば辞めたくないのです。
でも、生活ができないのです。

製品単価の段階的値下げ。
納期厳守に 数量増加。
作業者が少ない中での仕事は
ストレスが溜まっていく。

「今日を限りですが、自分の信じた道を信じて、よかったと言える
 ようにしたいです」

僕らが残業のさなか
ひとりひとりに挨拶をしてゆく。

工場の風は
君のにおいを消し去り
だまって
背中を押して
明日への
君に
エールを送る。

 佐々木さんが『柵』に今号から登場すると聞いていましたから、楽しみに拝見しました。なかなか書けない素材だと思います。現実をこのように直視し、きちんと自分の言葉にしていくことは大切なことです。重箱の隅をほじくれば表現の工夫が欲しいところもありますが、そんなものがなんだ、と言わせる説得力があります。
 こうやって若い人たちは進路を決めかねているのか、と思うと忸怩たるものがあります。工場の技術屋として生産性向上、人員削減をやってきた者としては、正直なところ避けたい部分であります。私たちが良かれと思ってやってきた結果として、自分の息子さえ就職できないほど省力化をしてしまったわけです。いったい何のために働いてきたのか、という自責の念を持ってしまいます。
 難しい課題ですが、佐々木さんも含めてモノを書くことを選んだ人間は正面から見据えるしかないのでしょう。それが去らざるをえなかった「酒井君」への答えになればいいなと思います。


一人詩誌『真昼の家』12号
mahiru no ie 12
2000.2.5 埼玉県三郷市 高田昭子氏発行 非売品

 

広い河川敷は
やわらかな草々におおわれて
その上を五月の風が渡ってゆく
木々の繁みのあたりでは
風が立ち止まり また風になる

鳥が運び
あるいは川の流れに運ばれ
風とともに空を渡ってきた種子たちが
偶然の川辺の地の共生を
無口に受け入れて
たがいの来歴をたずね合うこともなく
草も木もおなじ風に揺れている

わたしは橋の上で風に吹かれながら
重いヒトの来歴の影を落として
たたずんでいる

ヒトの想像力は
永い水の旅を
どこまでさかのぼり
そして流れてゆけるだろうか

断想のように
ヒトは川に橋をかける
川に交差してゆくヒトの流れ
そこを渡ってわたしは父と姉の墓参りにゆく
そして
姉の死すら知らない幼子になった母に会いにゆく

 なんとも痛ましい作品です。橋と草木と風と、そして生きている人間と死んだ人間が見事に描写されて、作品としての完成度も高めているように思います。
 第二連を読むと、人間も「偶然の川辺の地の共生」であったのかもしれないと気付かされます。たとえ肉親でもそこには偶然があったわけですから、そんな見方もできるだろうと思います。しかしその後の人間には肉親としての関係が生まれ「たがいの来歴をたずね合うこともなく」という状態ではなくなります。
 それが幸か不幸かは、私には判りません。生物学的には別の見方もあるのでしょうが、それが人間に与えられたものなら受け入れるしかないと思います。私も3年前に最愛の継母を亡くし、自分の感情が生物学的にはどうなんだと考えましたが、結論には至りませんでした。それと同じようなことを作者が考えているような気がしてなりません。



 
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