きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
murasame mongara
新井克彦画「ムラサメモンガラ」




2000.12.1(金)

 今日から師走ですね、、、って、12月4日に書いてますけど(^^;;
 江東区に出張していました。会議が途中でも17時には退席するからね、って言ってあったんですが、16時半には終わりました。良かった、良かった。
 18時からは神楽坂で日本詩人クラブ理事会。今回の目玉は、創立50周年記念祭の会計報告があったことです。総収入620万円ほど、総支出は570万円ほどで残金50万円弱。一次は赤字になるかもしれないと覚悟していたんですけど、結果として大幅な黒字になりました。理事一同、ホッとしているところです。
 結果としては会場費が大幅に安くなったことに起因しているようです。サンシャインシティホテルってところが、いっぺんに好きになりましたよ(^^;; 宿泊しましたけど、いいホテルで、そういえば宿泊料も安かったなあ。1万円いかなかったように記憶しています。
 東京でお泊まりの節はどうぞ池袋サンシャインシティホテルを! なんて宣伝してどうする!



現代詩の10人
『アンソロジー 望月苑巳』
anthology mochizuki sonomi
2000.2.25 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2500円+税

   *
 綾夢の玉手箱----綾夢に

ガラス箱の中で夢みている
娘はまだらな蜃気楼だ。
ゆらゆら苦しんでかき消える
水の糸
水の皮膚を一枚ずつ丁寧にはがし
かわりにまゆをつむぎ
陽のエプロンにくるまりたがっている。

窓辺の仮の夢見部屋。
そこでは森も丘も羊も友達
その箱は綾夢にとって
一番大切な玉手箱。
いくつもの化石の夜があり
いくつもの雪もだえがあろうとも
すくすくとその欲情を
分泌してゆくにちがいない。

めくるめく
終りのない螺旋階段を登りつめ
やがてあらわれる光の現身に
綾夢は何をみとめるのか。
傾いた心で鎹
(かすがい)をあてて
親としての役割にムチをうつ。

硝子の綾夢は
蜜の生理をむさぼり
あくびのテーゼを証明しながら
抒情の夜明けへ手をのばす。
すると乳母車は光に溶け----
女の潅木を茂らせるまで
だれがこの
硝子の玉手箱をあけられようか。

 
*長女・綾夢は未熟児として生まれ約一か月人工保育器に入っていた

 望月さんが現在まで出版した『反雅歌』『聖らむね論』『定家卿の思想』『増殖する、定家』『紙パック入り雪月花』『BACHのクローゼット』という6冊の詩集がほぼ網羅されたアンソロジーです。紹介した作品は1987年刊行の『増殖する、定家』に載っていました。この詩集は第38回H氏賞の候補にもなったようです。
 自分の幼い子供を作品化すると、だいたいが失敗作、と言われていますが、この作品はそんなことはないと思います。保育器に入ってるわが子を見る望月さんの眼が、愛しさと冷静さの両方をちゃんと持っているからでしょう。私の娘も新生児仮死で生まれて、保育器は一週間ほどだったものの、親としては不憫な思いもしましたし最悪のことも考えました。そんな経験があるからよけいにこの作品の冷静さが判る気がします。詩人の眼としては当然備わっていなければならないものなんでしょうが、実際にその立場に置かれるとそうもいかないものです。
 保育器を「窓辺の仮の夢見部屋。」と呼ぶ望月さんの心境を思うと、表現をよくここまで抑制できたなと敬服してしまいます。詩人である前に「親としての役割にムチをうつ。」という姿勢があったからかもしれません。父親のひとつの典型を見た思いです。

個人詩誌『点景』23号
tenkei 23
2000.11 横浜市金沢区
卜部昭二氏発行 非売品

 センチメンタルヒューマニスト/卜部昭二

たまには床でも掃除と小物体を動かすと
黒騎士と見紛うゴキブリ一匹
仮眠それとも瞑想じっと静止のままだ

晩秋の朝 独り家にありて
七二時間振りに生きものに出合う
懐かしさもなくはないが
季節外れの黒騎士の出現は出遅れ武者か

人間生来われのようなどじもいるが
俊敏なゴキブリ族にもそれがいるか
声がする
 あなたまたまた逃がした逃げられた
 欲も闘志も薄過ぎて駄目なひと
突然沸き起る嘲笑に手にした箒を振り下ろす

予想だにせぬ襲撃に
甲冑ごと潰された瞑想もしくは夢想騎士
手足もぞもぞ無念のあがき
わが青春の闘争模様に似たるかな
それも束の間 失神から自我取戻し
満身創痍の勇者シラノの如く歩き出す

強靭な意志生命力に
二の襲撃とどめも忘れ
ただ唖然と行く方見守れば
深手の落武者物影に寄り同化し
立ち尽くすは箒一本手にしたどじ男
 あなたまたまた逃がした逃げられた
 生殺しは一層残酷
 優しいだけのセンチメンタル
 ヒューマニスト
背後で声がする

 「ゴキブリ」と「どじ男」がよく描けているなと思います。「晩秋」のゴキブリの様子、「甲冑ごと潰された」ゴキブリの「満身創痍の勇者シラノの如く歩き出す」様子など、まさに誰もが経験していることで、思わずその通り!≠ニ言ってしまいました。
 「声」の存在も重要ですね。この「声」によって「どじ男」の姿がくっきりと浮かび上がってきます。おそらく奥様という設定なんでしょうが…。それに全体としてリズムが軽妙で、ついつい口に出して読んでみる気にさせられました。「あなたまたまた逃がした逃げられた」というリフレインもリズミカルでおもしろいと思いました。



 
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