ょうはこんな日でしたごまめのはぎしり
murasame mongara
新井克彦画「ムラサメモンガラ」




2000.3.2(木)

 今日紹介する本は昨夜から読み出したものです。おもしろくて、昨夜は徹夜してでも読んでしまいそうでしたので、やむなく途中でやめました。今日は帰宅すると、そればかり読んで、とうとう他には何もできませんでした。感銘を受けています。


保坂登志子氏訳・陳千武氏著『猟女犯』
ryojyohan
2000.1.30 京都市右京区 洛西書院刊 1800円+税

 日本詩人クラブ会員の訳者・保坂登志子さんよりいただきました。副題に「元台湾特別志願兵の追想」とあります。著者の陳千武氏は台湾の詩人として著名で、さすがの私もお名前ぐらいは存じ上げていましたが、作品に触れる機会はありませんでした。この手記で彼の人となりが理解でき、詩作品も読んでみたくなりました。
 副題でお判りのように、台湾人日本兵の記録です。小説仕立てになっていて、主人公は別名になっていますが明かに陳氏です。志願兵というのも曲者で、旧軍部が使っていた巧妙な手口での徴兵です。今、問題になっている東ティモールへ派兵された時の回想を主に書かれています。日本兵も悲惨だったでしょうが、植民地だった台湾から徴兵された台湾人は二重の苦しみと悲惨さだったろうと思います。
 従軍慰安婦として拉致されてきたインドネシア、台湾の女性たちの境遇も描かれており、憤りなしでは読めません。彼女たちに接する主人公のヒューマニズムに感動しました。手記と呼んでもいい作品ですから、通常は割り引いて読むのですが、この作品に限ってはそれを許さないものを感じます。詩人の人格と、文章の力だと思います。
 2/8、2/9付け東京新聞(夕刊)文化欄にも大きく紹介されていますから、ご存知の方も多いかもしれませんね。私たちの父親、祖父の世代が東アジアで何をやってきたか、この本を通してもきちんと学ぶべきでしょう。


詩誌『岩礁』102号
gansho 102
2000.3.1 静岡県三島市
大井康暢氏発行 700円

 白ばら/小長井行雄

白いばらの花びらが
一つ落ちた
水分が不足しているのか
翌日
二つ三つと散り初めた

愛するが故に
裏庭から切り取って
机の上に置かれている
花びんにさして
一人楽しんでいた

愛し方を間違えたのか
自然の中で育つ
ばらの行き方を忘れ
私は私の心を満足させていた

数日後
残されている枝葉を燃やし
色とりどりに咲いている
ばらの根元に散灰した

元に戻ることもない仕草を
一人暮らしの
さびしさと思いながら
人間の習性を破ることもできず
ただ
祈りをこめて見守るだけであった

 なんと感動を与える作品だろう、と思いました。人間の傲慢さ、それに気付く謙虚さをこの作品以上に受けた憶えはありません。心のどこかで自覚していながら、こうもきちんと提示されると、自分は今まで何を考えて行動してきたのか、と自分に向き合うばかりです。
 犬を飼い、金魚を育てていますが、植物は違うなと思います。動物は多少なりとも人間との心の交流が見えます。双方向のやりとりが可能かもしれません。しかし植物にはそれはないでしょう。一方的な人間の思い込みが支配するだけです。それだからこそ植物には人間の傲慢さを押しつけないように気をつける必要があるのでしょう。そんな、今まで考えもしなかったことをこの作品は教えてくれているように思います。



 
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