きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
nasu
新井克彦画「茄子」




2000.9.16(土)

 幼・小・中学校合同の運動会が予定されていたんですが、雨で延期。児童・生徒諸君には申し訳ないけど、私は大喜びでした。降って湧いたような一日、まるまる使わせてもらいましたよ。いただいた本もほとんど読み終わったし、久しぶりの昼寝も楽しみました。ごめんネ。
 しかし夜は自治会の組長会議。当初は運動会の後の反省会と称する呑み会で、先生方とドンチャン騒ぎをやるつもりだったんで欠席、としておきましたが、雨で運動会が流れたのはみんな知ってるからなあ、サボるわけにはいきませんでしたよ。まあ、たいしてモメる議事もなく、淡々と進行。気楽なものでしたがね。ようやく自治会の行事も一段落、といったところです。


詩の雑誌『鮫』83号
same 83
2000.9.10 東京都千代田区
<鮫の会>芳賀章内氏発行 500円

 あの歌はうたわない/仁科 龍

ざわめきが消え
集まった四百人ほどもの人たちが
一せいに椅子から立ちあがる
事前に郵送されていた日程表には
確かに載っていなかった事がらが
歯車の回転するように 一瞬の間をおいて
大合唱のとどろきにつつまれる
おお またこうしてはじまるのだ
あの歌の斉唱が

受付けをすませた会場のロビーで さっき
タバコを吸って私と談笑していた人物も
ベテランの感性で私に意見していた男も
私とはよく議論しあう親しい初老の人物も
おずおずと見まわした周辺のあちこちで
今はあの歌の歌詞を
謹厳な面ざしで あるいは照れ気味に
また ムッとした顔つきで
 サザレイシノ イワオトナリテ
なぞって歌っているのが見てとれる
口を閉じたまま
音声のかたまりがしずまるまで
ただ じっと 無言のまま立ち続ける
今も 今後も私はその歌を歌うことはない
 コケノ ムスマデ 歌うつもりはない
国の法律で制定されたことがらに
思うところあって 従わない私は
たぶん 現代の非国民にカウントされるか
たとえ四百人相手でも プロテストしなかったのだから
ヒキョウモノになるか
まわりに合わせて
それを歌うことは これからもない
とあるボランティアの 研修会の片スミで

 おそらく抜き打ちのように君が代斉唱になったんでしょう。「事前に郵送されていた日程表には/確かに載っていなかった事がら」とありますから。こんなことがこれからも色々な場面で行われるのではないかと思うと、少々憂鬱になります。品定めをするように、ふるいにかけるように抜き打ちでやられるんでしょうね。
 日の丸はただ立っているだけですから、無視すればいいと思っています。しかし君が代は起立、斉唱と続くので座ったままでいると嫌でも目につきます。この作者のように「ただ じっと 無言のまま立ち続ける」しかないのかなと思います。
 私事ですが、それは目前に迫っています。中学校PTAの副会長をやっていますから、卒業式には出なければなりません。その時にどうするか。事前に校長や教頭と話し合おうと思っていますが、さてどうなることやら。その時には作者のように「あの歌はうたわない」と断言してくれる方がいることを心の支えにしようと思います。


馬場晴世氏詩集       .
『ひまわり畑にわけ入って』
himawari batake ni wakeitte
2000.9.25 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

 海馬

八歳のころ
沼津の海で大きな波にさらわれ
溺れそうになったことがある
私をつれ去ろうとする波の強さを
まだはっきり覚えている

もっと幼い頃 五歳の秋に
父と修善寺の温泉に行った
駅の売店で買ってくれた絵本
『元気なあひる』は初めての本≠セった
読んでくれた父の声 父の手の感触も
覚えているのに

いまゲール語の文法を
なかなか覚えきれない
ひとの名前も思い出せない

脳の一部に
海馬と呼ばれるところがあり
記憶に関わっているそうだ
近頃 私の海馬は
遊んでばかりいる

今日も辞書をひいていると
青い海の底へ
一緒に行こうと誘うのだ

 「帽子が飛んで」という作品にゲール語の説明があります。「ゲール語はアイルランドでのケルト語のことで、アイルランドの第一国語」とのこと。また、あとがきでは「ゲール語は一つの動詞の変化が二十一通りの八倍(人称)もある難しい言語で」とあります。そんな難しい言語を覚えようとしているのに「近頃 私の海馬は/遊んでばかりいる」とは!
 海馬が減少していくのは、どうやら事実のようですが、挑戦するという自意識が増加もさせるんじゃなかろうかと、なかば期待の気持ちもあります。刺激を与えなければ我々の脳は活動しようとしないようですからね。私より一回りも上の作者が果敢に難しい外国語に挑戦していることに頭が下がります。うかうかしてはいられんな、と自戒させられた作品でした。



 
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