きょうはこんな日でした【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画:ムラサメ モンガラ |
2001.10.30(火)
職場の歓送迎会。70名ほどの職場ですが、いつもは40〜50名が集ればいい方ですかね。しかし今日は久しぶりということもあったからでしょうか、60名ほどが集って賑やかでした。みんなテンションが高くなってうるさいほどでした。まあ、幹事の一員としては喜ぶべきことでしょう。
若い連中の何人かは二次会も行ったようですが、私は誘われなかったこともあって真っ直ぐ家に帰りました。以前ですと、一度酒が入ると途中でやめる気がしなくなり、二次会でも三次会でもつき合ったんですけど、近頃はそういう気が起きません。それよりも帰ってあれをやりたい、これをやりたいという欲求の方が強くなっています。で、帰って、いただいた本をちゃんと読みましたよ^_^;
○季刊詩誌『詩と創造』37号 |
2001.10.1
東京都東村山市 書肆青樹社・丸地守氏発行 非売品 |
神送り/三島久美子
台所の扉の外に
上げ潮がひたひたとおしよせている
一枚の貝が一日分の海をうみながら
地球のふちをまろびつつ
浜ヘたどりついたのだ
なにかがそこまできている
そしてすぐにいってしまう
貝は海の母だから
とどまるわけにはいかない
石蕗と紫蘇をいためて皿によそり
牡蠣と柿を大根おろしであえて小鉢にもった
寒天一切れ 南天の箸
食卓をととのえて
ゆくものを黙礼してみおくる
浜芹の茂みを踏んでわかれた男がいた
はれわたった空
なんでもない鳥が頭上に光る
ふいに
父と母の別々の老いが
沖合に
一枚岩の神のようによく視えた
女は軽い貝殻になる
うすい言莱で明晰の海をうむ
神送りの
風の声をうむ
台所から世界を見る、と言ったらいいのでしょうか、あるいは宇宙を、と言っていいのかもしれません。台所、海、貝、神というキーワードで、作者の繊細な観察と広大な思考を感じます。特に最終連は象徴的な連で、何度読み返してみてもあきません。その前の連との関連で、また切り離して、読者に解釈の自由を存分に与えてくれているように思います。表面的には「女」であることを前面に出していますが、そうとらえるだけでは不充分でしょう。男であり、それら性差を超えたものとしてとらえる必要があると思います。「父と母の別々の老いが/沖合に/一枚岩の神のようによく視えた」というフレーズのように…。
○原 利代子氏詩集『気楽な距離』 |
2001.10.31 東京都東村山市 書肆青樹社刊 2300円+税 |
詩集のタイトルポエム「気楽な距離」は、御主人の緊急入院から植物人間状態になって逝去するまでが、たったの三日だった、という内容です。とても「気楽な距離」と言える作品ではありませんが、そう言いきることで悲しみを乗り越えようとする意志が感じられました。ちょっと長いのでそれは紹介しませんが、次の作品は短くても意外な心理を突いていると思いますので全文紹介してみます。
こころのこり
庭のジギタリスの葉に
雨蛙が生ってでもいるように群がっている
時々 掃き出し口から部屋の中に入ってきてしまうので
外に出してやろうと追いかけるが
ぴょんぴょんとそれは素早く逃げていってしまう
ほおっておけば干からびて必ず死んでしまうので
気になって仕方がない
素手でつかむのは気持ちが悪いから
うちわを差し出して掬い上げようとしたり
箱を被せて捕まえようとしたりで
こちらには真剣味が足りない
むこうは捕まれば殺されると思っているから
必死で逃げて
たいていは逃げ切ってしまう
いつか部屋の隅っこで
グリーンの切り紙細工のような死骸を見つけることになる
----だから言ったでしょ----
両手 両足を跳ぶさまに思い切り伸ばしたままの死骸を
紙ですくって外へ放り出す
その軽さほどのこころのこりとともに
もちろん最後の1行に作品の全てが込められているわけですが、雨蛙に対しても「こころのこり」を感じている作者に驚きます。「その軽さほどの」と自嘲気味ともとれる言葉を使っていますが、なかなかここまで書ける詩人は少ないのではないでしょうか。この感覚が詩集全編に溢れていると言っても過言ではないでしょう。
○田口義弘氏著 『リルケ オルフォイスへのソネット』 |
2001.10.30 東京都渋谷区 河出書房新社刊 2800円+税 |
昨年、詩集『遠日点』で第33回日本詩人クラブ賞を受賞した京大名誉教授の田口義弘さんの訳詩・論集です。10代終りの京大生だった頃からの訳詩をまとめたものだというのですから、その息の長さには驚きます。それだけの意気込みをかけた著書ですから、出版された喜びも相当なものだろうと推察しています。
内容は第1部26編、第2部29編のソネット全訳、そしてそれに倍する著者自身の「註解」、さらに25頁ほどの語句索引から成り立っています。著者も加わって1991年7月に河出書房新社より刊行されたリルケ全集の第5巻とほぼ同じ内容だそうですが、語句索引は新しい試みのようです。リルケ研究には必携の書となるでしょう。
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