きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科




2001.11.14(
)

 大腸ポリーブの1年定期検査。昨年の今日、3つもポリーブが発見されて、1年後に検査するからね、と言われていたようです。すっかり忘れていましたけど…。カルテにはしっかり書いてあって、年貢を納めたところです。今日の検査でOKだったら、次は2年後なんだって。車検だね、まるで。
 2リットルもの下剤を1時間で飲め、なんて無理というものです。2時間かけてチビチビ飲んでいたら、美人の看護婦さんが怒って来ましたけど、なんとか1.8リットルくらいで許してもらいました。そのせいかな、また1個発見されたんだって。思わず「去年の見逃しじゃないのかヨ」と医者に言ってしまいそうになりましたけど、ここはグッと堪えましたね。あーぁ、これで2年車検が切れて、1年車検に戻ってしまったなあ。
 でも、いいこともありましたよ。午前中の長い待ち時間に詩集が5冊読めました。午後の待機時間はベッドで仮眠できたし、検査中は麻酔が効いて夢ウツツ。しっかり休養しました。検査中に医者に何か文句を言っていたような記憶がありますが、忘れました。検査後の説明で、医者がムッとした顔をしていましたから、絶対、何か言ったんだろうと思います^_^;



田中勲氏詩集『脳髄の川』
nozui no kawa
2001.11.11 大阪市北区 彼方社刊 2000円+税

 不肖の梢

連なる文宇の小径に
雪の結晶が貼りつき滲みだす
声にすれば一層もつれる
目の裏の事故がある
渓谷を下る川のような人の流れは塞き止められない
一滴、二滴の毒を踏む
華やかで悲惨な光景にとまどいながら
先々の予見を書き換えてきたのだ
眼帯の人は雄弁である
ささやかな確信は
生まれてすぐに消え去った児の
水でも空気でもない
小さな足あと、蒙古斑とともに
いまも私の腕の中で時を刻んでいる不整脈がある
消却すべきことが多くあり過ぎて
先々の予見を書き換えてきたには来たが
じっと見ればあてのない空欄ばかり、梢をめぐる空の桝目を埋めていた
(足元が昏い!)
生まれてすぐに消え去った児の
連なる文字の小径に
色腿せたしおりを挿んだまま
机の止に放り出したのは誰
「鰐の目薬」を
棚の上から持ち去ったのは誰

 比較的長い作品も多く、難しい詩集の部類に入ると思います。しかし難解ではありません。著者のイメージと読者のイメージを重ねるのに時間がかかる、何度も読み込んでいく必要がある、という難しさです。紹介した作品は、その中でも短い詩で読者の手掛かりになると思います。
 キーワードは「文字」だと思います。「生まれてすぐに消え去った児」という言葉は、私は「文字」ともダブられて読んでみました。二重構造になっていると言えましょう。「鰐の目薬」というのは、よく意味が判りませんが、危険な場所や状況を喩える鰐の口≠ゥらの派生語としてとらえてみました。「眼帯の人」あるいは「予見」と対になっていて、本当にそういう名前の目薬があるのかもしれません。
 そういう表面的な解釈にとらわれることなく、「不肖の梢」というタイトルを含めた二重構造を楽しんだ方が良いと思います。「(足元が昏い!)」というイメージも鮮明に浮かび上がってくるではありませんか。一筋縄ではいかないだけに、何度も読み返したくなる詩集です。



ブックレット『耳木蒄通信』1号
mimizuku tsushin 1
2001.8.15 東京都杉並区
『ハンセン病文学全集』編集室発行 非売品

 小泉内閣が将来、高い評価を受けることがあったとしたら、第一にハンセン病国家賠償訴訟を控訴しなかったことがあげられるでしょう。このブックレットはハンセン病関連の出版を続けている皓星社が出したもので、日本詩人クラブ11月例会の席で高田昭子さんよりいただきました。
 大岡信、加賀乙彦、鶴見俊輔、大谷藤郎の4氏が編集委員となり
『ハンセン病文学全集』全10巻が計画されているとありました。第1回の編集会議ではらい文学≠ノするのかハンセン病文学≠ノするのかで熱い議論がされたようです。文学的にはらい文学≠フ方が本来の趣旨にも沿うものですが、元患者の意見を採り入れてハンセン病文学≠ニなった、とありました。どう呼ぶかは重要な問題ですが、ここは妥当なところに落ち着いたなと思いました。
 個人的にはハンセン病患者や文学とまったく接点がありませんが、同じ日本人として90年に及ぶ国の誤った政策には憤りを持っています。ブックレットから具間見える患者の生き方には、胸が熱くなるものがあります。一日も早い出版を願ってやみません。



木村恭子氏詩集
ノースカロライナの帽子
north carolina no boushi
2001.11.10 東京都文京区 詩学社刊 1500円+税

 更地

何かのついでに
こちらに還られた時にでも
立ち寄って下さい
玄関の合鍵を埋めておきますから
向かって右側の
犬走りを通って裏に回り
湿った風を確かめてから
脚の欠けた椅子をのけて
地面を掘ってみてください

いつかある日
私がいなくなり
家がとりこわされ
地が掘り返されて
更地に還る時にも
あなたが困らないように
深く理めておきます

その時にも
私はずっとここにいますから
どうぞ立ち寄ってください

ひとこと
お礼が言いたいのです

 詩集最後の作品です。「家がとりこわされ」ても「玄関の合鍵を埋めておきます」という矛盾に満ちた詩ですが、そこがとてもいいと思います。「私がいなくな」っても「私はずっとここにいます」というフレーズとも呼応して、詩的雰囲気を出していると言えるでしょう。その理由が「ひとこと/お礼が言いたい」だけだと知ったとき、作者の精神の在り様が判ります。

 「春の帽子の作り方」では不思議なエロスを感じました。他の作品とはちょっと異質です。でも、そういうエロスも書ける詩人だと判って、ちょっとホッとしましたね。詩集全体では理知的な女性の姿が浮かびます。近寄りがたいとまでは言いませんけど、ご自分の世界を頑なに守っている人という印象を一瞬受けたのですが、「
春の帽子の作り方」を拝見して考え直しました。なかなか簡単に把握できる詩人ではなさそうです。



詩とエッセイ誌『野蜂』3号
nobachi 3
2001.7.25 埼玉県草加市
田中美千代氏発行 300円

 発行者の依頼により、内容を削除しました。2001.11.25 村山精二記



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