きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2001.12.10(
)

 出張で静岡県富士市に行ってきました。新しい器械を開発しようと、メーカーを訪ねて実験してみました。結果は、基本的な理論と構想はできたんですが、開発費が膨大になることが判明。うちでは開発できない、と断られてしまいました。まあ、基礎実験が終ったんで、あとは何とかなると判断してひき下がってきましたけどね。バラックを組み立ててでもできる器械ですから、場合によっては私ひとりででも組み立てられます。実験と製品の差異を感じた出張でした。



板橋区民詩集『樹林』16集
jyurin 16
2001.11.4 東京都板橋区
板橋詩人連盟・中原道夫氏編 非売品

 東京には珍しい地元・板橋区民のアンソロジーです。区立の小中学校からも投稿されていて、地元に密着した板橋詩人連盟の活躍を知らされます。そんな中で西台中学校3年生47名による連詩「戦争と平和」は圧巻でした。先生の指導によるもののようですが、現代の中学生でもこれだけやれるといういい見本だと思います。短い生徒は1行、長い生徒でも10行ほどですが、連詩という形で圧倒的な分量で迫ってきます。詩的にも優れている次の作品を紹介しましょう。

おじいちゃんは昔 兵隊だった
十六才だった
凍えそうなくらい寒い夜、満州に行った
戦争をしに、たくさんの武器と大砲といっしょに
多くの兵隊が死んだ
耐えきれない寒さの中、凍えそうな体で
必死に働いたのだ
愛する人を残し、苦しみ、叫び、泣いて死んだ

 インターネットの性格上、本名は記しませんが女子生徒です。父母の世代でさえ体験していないことを、よくここまで書けるものだと思います。教育の成果と言っていいでしょうね。こういう形で戦争の悲劇が次の世代に伝わっていくことを願って止みません。



田中眞由美氏詩集
『降りしきる常識たち』
furishikiru jyoushiki tachi
2001.11.30 東京都千代田区
花神社刊 2300円+税

 10年ぶりの第2詩集です。田中さんは日本詩人クラブでの仲間ですから、お人柄は存じ上げていますが、作品にはあまり接していませんでした。こうやって詩集になってみて、初めて田中ワールドを確認した次第です。田中さんも私も理系の分野に属している部分があるので、かなり近しいものを感じていましたけど、その通りでしたね。

 化学反応考

物体が混じり合う時には
融合と 見せかけの混合がある

融合とは
化学反応が起きて 元の物質とは
全く違う物質ができあがる状態

見せかけの混合とは
一見混じり合っているように見えるが
それぞれのままで 存在している状能

融合を促進させるためには
加熱したり かき混ぜたり 触媒を用いる
見せかけの混合は
どうやってみても 時間がたつと分離する

人と人が交じり合うには
個体同士なので 融合しにくいが
恋をして熱を上げたり
第三者が邪魔にはいって 引っ掻き回したり
仲人を文てて 互いの間を調整したりする

うまくいけば
結婚したり 友情が芽生えるが

この結果が
融合か 見せかけの混合なのかは
長い年月をかけないと結論しにくい

さて
夫婦と言う結合体にいたっては
はたからいくら観察してみても
自分の胸にきいてみても
融合しているのか 混合しただけなのか
未だに答えは 導き出せない

 化学反応というのは、ある意味で詩的で、私も昔の詩集ではそんなことを書いていましたが、この作品には脱帽です。化学反応の本質と人間社会とをうまく結びつけて、感心しました。最終連もいいですね。いわば俗なところへ帰結させているわけで、理論的な化学反応との落差があって魅力的です。
 詩集全体では、正直なところいい作品が多くて驚いています。普段のおつき合いは呑むことばっかりで^_^; ほとんど詩の話はしません。「逃がさないように/急いでつかまえた 春」の最終連が見事な巻頭詩「飛んで来た春」、お見合いの話は猫のことだったとオチで判る「インタビュー」、電車の離れた席でも夫のくしゃみだと判ってしまう「くしゃみ」、娘と一緒に電車に乗ると痴漢に間違えられそうで嫌がる夫が登場する「ラッシュ」など、田中詩を満喫させてくれます。ご一読をお奨めしたい詩集です。



村永美和子氏詩集『されない傘』
2001.12.15 東京都東村山市 書肆青樹社刊 2400円+税

 

古く黄ばみ
粘っこい歯のような 往復ハガキ
末使用を めくり
もう一回ひっくり返すと

死んだ母が
真新しい入れ歯で うす笑い

あわててもう一度もどし
しっかとそれを 指にもつわたしが
蓬髪ごとうなずく

鋏を入れ
復を 切り離す

 非常に特異な言語感覚を見せてくれる詩集です。詩集タイトルの「されない傘」でもそれはお判りいただけるでしょう。何でもない言葉が、この詩人の手にかかるとまったく別の生き物になってしまうと言えます。
 紹介した作品は、それらの中では比較的普通の使い方をした作品です。言葉の使い方は確かに特異ですが、この作品から感覚の特異さも表出します。いったいに往復葉書をして、ここまで書いた詩人が今までいたでしょうか。往復葉書を受取るたびに、この詩を思い出してしまうでしょうね。「死んだ母」の使い方が見事で、非常に印象的な作品に仕上っていると思います。たったこれだけの行で、ずいぶんと奥行きの深い作品と言えます。



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