きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科 |
2001.12.31(月)
大晦日。アッという間の1年でした。なんでこんなに1年が短いのかと思います。でも、それは甘えなんでしょうね。今年もたくさんの本をいただいて、そのせいもあって時間が足りないのかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。具体的な数字で言いますと、昨年は792冊の詩集・詩誌をいただいたんですが、今年の集計をやってみると492冊だったんです。昨年を超えているんじゃないかと思っていましたから、これは驚きでした。数字は厳格、まだまだ読めるゾと教えてくれています。
ちなみに詩集等は179冊、詩誌等は313冊でした。皆さん、勉強の材料を提供していただいて、ありがとうございました。
写真は昨夜の月の出です。書斎の窓からフッと見ると満月が昇ってくるところでした。あまりにもきれいだったんで、すぐカメラを取り出したという次第です。前方の山は丹沢山系の西端になります、松田山です。右の樹木の影は神社の木立。街の灯りもここまでは届きません。静かな歳の暮です。
○滋賀銀行PR誌『湖』140号 |
2002.1 滋賀県大津市 滋賀銀行営業統括部編集 非売品 |
西本梛枝さんの連載「近江の文学風景」は、花登筐の『ぼてじゃこ物語』でした。本当に私は無学だな、と思いましたね。筐≠ェ読めませんでした。キョウ≠ニ読むだろうと思っていましたがコバコ≠ニ読むんだそうです。『ぼてじゃこ物語』はかすかに記憶がありますが、もちろん読んでいません。1971年の作品で、その後テレビドラマ化されたそうです。テレビで記憶していたのかもしれませんね。
「ぼてじゃこ」は琵琶湖に生息するタナゴだそうです。すぐに餌に喰いつく魚で、そんな者になるな、という意味で使っているようです。西本さんは小説の背景である琵琶湖、草津駅、瀬田川などの写真を載せて、詩情豊かに紹介しています。興味があったら『ぼてじゃこ物語』を読んでみてください。私も読んでみようと思っています。また、大津市立図書館の2階には花登筐コーナーがあるそうですから、こちらも機会があったら行ってみたいですね。大津に行く出張がないかな^_^;
○平野敏氏詩集『続 残月黙詩録』 |
2002.1.1 埼玉県入間市 私家版 2000円 |
つか
冢
あれもこれも偉大な掃溜(はきだ)め
無為の夢を影のかたちにして
そちこちの地層の透き間から
位相をかえ夕日を受けて
カタルシスを求めるように
貌(かお)を出しては吠え続け
残響の狂おしい碑銘の文字に混じって
いまさらに告白の風となって
風になる前には旅の意匠を凝らして
それぞれに冥利を語ってきたのだろうか
それとも
迷走の無念を憑きもののせいにして
生生(しょうじょう)と残りの旅を風まかせにしたのだろうか
手の旅という風のなか手さぐりの
ミステリー風の千手万手(せんじゅまんじゅ)の観音の手づくりの
死後の新しい奥の手を暗示する旅もある墓所(はかどころ)
宝の塚か
歌の精・劇の精の風韻うごめく
死少女の大きな望みを湛(たた)えている光る丘
香り高い茸が生えたり
見つからなかった言葉も潜んでいたり
故郷(くに)を出るとき持ってきた形見が色褪せても
流れる雲が昼寝を包んで
忘れられたくない自分を小さな遺産にして
とこしえに余話の人にでもなればと
廟には墨濃く
冢には深く情けを込めて
名をしるす
名を埋める
「冢」は「塚」と同じで、土を持った巣や墓所という意味になると思います。紹介した作品の場合には、素直に墓所と受け止めてよいでしょう。文字通り「名をしるす/名を埋める」場所として、「忘れられたくない自分を小さな遺産」を埋める所と解釈しています。
しかし、「偉大な掃溜め」「残響の狂おしい碑銘の文字」とは、何と己に厳しい人なんだろうと思ってしまいます。詩集全体にもその傾向は強く、まるで禅僧のような印象を受けました。身を正して拝見しなければならない詩集と言えましょう。
なお、ルビは本来の表示ができず、紹介した形のように新聞形式としました。ご了承ください。
○真神博氏詩集 『焼きつくすささげもの』 |
2001.12.25 東京都大田区 ダニエル社刊 2000円+税 |
夜中の地震と大工の派遣
夜中に地震があってから
私は何らかの事故が起こしたくなって
街の中へ出て行った
地震がもたらす衝動によって
多くの人が 夜の通りを
間違えて渡って行く
ドアが開け放たれた 公衆電話ボックスには
ついさっきまで 隣人を出し抜いて生きていた
人が電話をかけた声が
壁にへばりついていた
地震があったあとの
夜を修復するために
向かいの家に
大工が入っている
「人生」という短い仕事を建てているのか
釘を打ちながら
ひそかに自分の誕生を見ようとしているのか
不審な現場に立ち会わされて
私は思わず声を上げそうになる
人の手の届かないところで修復され
よみがえった街の
夜が明けても夜であることに
街と一緒に
私達もみんな
修復されてしまったことに
不思議な詩集です。紹介した作品のように現実と非現実が混沌となって、独特の世界を構成しています。しかしそこには人間に対する厳しい視線もあります。「隣人を出し抜いて生きていた」「「人生」という短い仕事を建てている」などの言葉は、なかなか出てこないものだと思いますね。最終連もうまい終り方と言えましょう。「大工」を持ってくるところも必然があって、でも意表を突いておもしろいなと思います。
おそらく第一詩集なのでしょうか。未知の詩人から優れた詩集をいただいて、うれしくてなりません。
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