きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
mongara kawahagi.jpg
新井克彦画「モンガラ カワハギ」




2001.2.8(木)

 先日開催した社内教育で、部分的に受講できなかった人に対して補習授業を行いました。例によって私はインストラクターを補佐するアドバイザーでしたので、自分で講義することはなく、その点ではつまんなかったんですが、いつもより受講生の変化がよく見えて楽しかったですよ。
 今回の補習対象は4人でした。いつもより人数が少なく、じっくり観察できたから、そう思ったのかもしれません。教育内容のメインは、質問のし方。トラブルを解決するために技術屋として現場に行って、現場のオペレーターからいかに情報をとるか、という訓練です。受講生は工学系の大卒者で、技術屋としての経験も4〜5年ありますから、かなり自信を持っています。想定は腕時計が遅れるようになったという話。それを質問によって原因究明せよ、という課題です。
 経験もついてきた技術者ですから、知識も相当あります。その知識に頼って原因を考え、質問をしようとするのが一般的です。防水ですか?いいえ。丸型ですか?はい。職場に磁気を帯びている場所はありますか?いいえ。この方式で行くと、自分の知識以上の答えは引き出せません。案の定、原因究明はできませんでした。
 それに対して、こう質問した方が多くの情報が引き出せます。どういう時計なんですか?丸くて薄い高級金時計です。いつから遅れるようになったんですか?昨年の秋からです。その頃、時計に何か変化がありましたか?金属のベルトを皮製に変えました。
 答えをここで書くのが目的ではなく、それを書いてしまうと私の商売(^^;; にも差し障りがありますのでやめますが、違いはお判りいただけると思います。YES、NOでしか答えが返ってこない質問のし方では、現象を深くとらえることは難しいです。質問をされた相手が文章にして答えられるような質問のし方をしないと、問題の底にあるものは見えてきません。
 それを指摘されたときの受講生の驚きの顔は、いつ見てもいいもんですが、今回は特に強く感じましたね。どんないい大学を出ても、どれほど知識を持っていても現場のトラブルはなかなか解決しません。豊富な経験を持つ現場のオペレーターの情報は、質問のし方ひとつで集まり方が違います。正しい情報が集まれば、トラブルの原因は自ずと見えてきます。そういう技術者が多く育ってくれるのが、私の望みです。



牛島敦子氏詩集『緯線の振子』
isen no furiko
2000.9.25 東京都千代田区 砂子屋書房刊 2800円+税

 この詩集は第11回日本詩人クラブ新人賞の候補詩集です。選考委員である私のもとに送るように、事務局から依頼されて送ってくれたものです。いつもはいただいた詩集に感想を書くのですが、そういう理由で書きません。印象に残った次の作品を紹介するにとどめます。ご了承ください。

 出航

----夏の終わりは
むせ返る土とくさむらの匂い
旅立つためにはいい季節だ

父さん私は海へ行く

真っ青の空と真っ青の波
天地乾坤ただ青のなかへ
私を乗せて船は出ていく

色づけ 島国
冷えろよ 半球、
母のようにあった 四季よ 日付よ
私をほどけ 地球の中へ

父さん私は海へ出る



岩田晴幸氏詩集『約束の地』
yakusoku no chi
2000.6.16 東京都調布市 ふらんす堂刊 2100円+税

 このHPにもリンクしていただいている「Blue Water」の萌木碧水さんからいただきました。萌木さんのご友人だそうです。@Niftyの「詩のフォーラム」の常連のようで、私もまだメンバーのはずですから、作品は拝見したことがあるかもしれませんね。おっと、著者は1997年からのメンバー、私は4〜5年顔を出していないからすれ違っているかな。

 
先生

O先生は
東京都立小平高校の
数学の先生でした
鶴田浩二のような
古いタイプの先生でした

数学が苦手なぼくは
ずいぶん追試を受けて
おかげさまで追試仲間が出来たほどですが
なぜかO先生は好きでした

ぼくが卒業して十五年後
O先生は定年を迎えました
校長は
嘱託で教職に残るように
勧めたそうです
老化防止のためにも
教師を続けたほうがいいですよ、と
勧めたそうです

その瞬間
O先生は引退を決意しました
自分の老化防止のために
生徒たちを教育するなど
そんな失礼なことはできないと
席を立ったといいます

同窓会で挨拶に立ったO先生は
昔のままの頑固親父で
ぼくはとても感動したのでした

 4連目に心打たれますね。自分の利益しか考えない人間が多くなった現在、こういう話には感激します。それをとらえた著者の眼にも、物事の本質をつかまえようとする意志を感じます。それに著者の人間を見る基本に、やさしさも感じます。紹介しきれない他の作品にも共通しています。
 ただ、気になるのは最終連です。これを素直に解釈すると、引退を決意した経緯をO先生は自ら話したことになります。明治男だったら、それすらも言わなかったんじゃなかろうかと思います。言う言わないの是非は簡単には判断できません。時代の価値判断の違いを考えてしまいます。



 
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