きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画「モンガラ カワハギ」 |
2001.2.11(日)
奈良県桜井市に一泊して、中村光行氏主宰「鬼の会」の恒例になっている蔵元参りをしてきました。蔵元の話の前に、ちょっと桜井市を紹介します。いつも通り桜井駅前の鄙びた旅館に泊まりましたが、今朝は珍しく旅館の近くを散策しながら駅に向いました。いい風景が残っていますね。
奈良県桜井市 |
どうです、この風景。なつかしいですね。昭和30年代の日本の風景です。住んでいる方もきさくで、私が写真を撮っていると、左手前の家から出てきたおばさんが「長屋と呼ばれているんですよ」なんて言いながら向こうに歩いて行きました。隣近所が親しくつき合っているんでしょうね。肩寄せ合って暮らしている様子が目に見えるようです。旅館も古いままで、桜井という土地は、なにかホッとするものを感じますね。
これも恒例になっている三輪山を見物して、いよいよ蔵元です。社長に許可をもらっていますので載せますが「今西酒造」さんです。「鬼ごのみ」「三諸杉」などの銘柄を出しています。おそらく関東には出回っていないと思います。上品な味で、本来の日本酒らしい日本酒です。そこで蔵元を案内してもらいました。観光ルートではない、実際の現場です。
右が社長の今西さん |
私はもう3〜4回見学させてもらっていますから、内容はだいたいつかんでいますけど、初めてのご婦人方は興味津々でしたね。タンクの中で発酵するプツプツという音、発酵の進度によって違う香りに驚いていましたよ。
その後は客間に案内されて、奥さまの手料理・酒鍋に舌づつみを打ちながら、数種類のお酒を呑ませてもらいました。それに新しく開発したという「雷来(らいらい)」も加わって、どうやったら売れるかという討議(^^;;
もやりましたよ。和風シャンペンとも言うべき、炭酸が効いたおもしろい味でした。私はうまいなと思ったんですが、中村光行さん、筧槇二さんらには不評でした。日本酒本来の味と違う、本当に日本酒が好きな者はこんなもの呑まん、というのが主張でしたね。そこは今西社長も認めていて、今までの日本酒をやめて造るんじゃなく、若い人をターゲットにした新商品として開発した、本業はあくまでも従来の酒と防戦していましたね。
社長の気持は判るな。経営者だったら主力商品にだけ賭けるのは恐い、新商品を出して事業拡大を狙っていくのは当然ですからね。私は中村さんや筧さんに比べると若いから(^^;;
あまり抵抗がありませんでした。「鬼ごのみ」の他に「雷来」も呑めるようになるというもんです。
○詩誌『パンと雲』17号 |
1998.9.8
東京都杉並区 パンと雲の会・あいはら涼氏発行 500円 |
厄年/あいはら涼
夜 一方通行の道で
おまわりさんに捕まった
バイクを降り学生証を提示する
私は頭を下げ
けなげな夜学生として
即解放されたのだった
昼間はリハビリ室で
他人の腰の牽引を手伝う私は
リハビリ室の助手
学校で夜 勉強する私は学生
けれどバイクで家に向かう私は何者?
「こりゃあたしじゃないよ」
私が撮ったトクさんのスナップ写真を指差して
八十四歳のトクさん本人が言う
ああいうきっぱりした「私」が
私にあるか?
蒲団に横たわり私はまだ考えていた
「疲れすぎて眠れない」が私か?
襖をこじ開け猫が私の所へやってくる
ジャリジャリと私の額を舐め始めた
猫は私を知っているらしい
蒲団の中で三十三歳の女が
ゴロゴロ寝返りをうっている
カーテンの向うが白々と明けてくる
明け方の四時二十三分
私はまだ行方不明
10日の詩人クラブ例会で、「持って行きたい人は持って行っていいよ」と受付に置いてありました。で、いただいてきました。初めて拝見する詩誌ですが、女性だけ13名、しかも錚々たるメンバーが揃っています。「女性詩人を読む」という特集もあって、かなり女性詩にこだわっているような印象を受けました。
作品は発行人でもあり、10日の「マイ・ポエム・ワールド」で朗読とスピーチをやってくれたあいはら涼さんのものです。「私」にこだわり、考える姿勢がよく出ていますね。そのこだわりがあれば「私はまだ行方不明」でも、いずれ何かつかんでくるんじゃないでしょうか。若い人の自分探しがうまく表現されていて好感を持ちました。
○現代詩の10人『アンソロジー 大塚欽一』 |
2001.2.20 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2500円+税 |
無脳児
ぱっくりと開いた柘榴
のような頭蓋の中
影だけが複雑に寄り添って
ほとんど意識もないだろう
真新しい毛布にくるまれ
体を震わせながら
生きようとする意志だけが
部屋いっぱいに声とは思えない声をあげて
一日数億という驚異的なスピードで増殖する
脳細胞の発育のどこで躓いたのか
そのちいさないのちは
母に抱かれることもなく
無への供物としてそこにあった
深い謎を投げかけながら
一晩中そのちいさな肉の塊は
ベビーベッドの中で柘榴のように泣きつづけた
闇に包まれたまま
著者は小児科の開業医です。この作品の他に白血病の小児を描いたなどもあります。現場を見ている医師でなければ書けない作品だと思います。1連目で体の様子が具体的に書かれ、そこで圧倒されてしまいました。さらに「声とは思えない声」という具体性で、より小児の様子を知ることができます。「一日数億という驚異的なスピードで増殖する/脳細胞の発育のどこで躓いたのか」は判りませんが、自然の厳しさを人間の子にも見る思いです。
「闇に包まれたまま」の子をどうすることもできない医師の辛さも伝わってきます。誰が悪いのでもなく、突きつけられた現実をただ見守るしかない医師の、絶望をも感じます。詩を書くことにしか救いはないのかもしれません。
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