きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
mongara kawahagi.jpg
新井克彦画「モンガラ カワハギ」




2001.2.25(日)

 日本詩人クラブ3賞の最終選考委員会がありました。私は新人賞の選考委員として出席しました。受賞が決定したお三方、ならびに作品名は以下の通りです。おめでとうございます。

 第34回日本詩人クラブ賞  :松尾静明詩集『都会の畑』
 第11回日本詩人クラブ新人賞:佐々木子詩集『砂の声』
 第1回日本詩人クラブ詩界賞秋吉久紀夫訳詩集『現代シルクロード詩集』

010225
決定した3賞を報告する中原書記長

 私は新人賞の内容しか知らないんですが、興味を持っていたのは詩界賞です。何と言っても第1回ですからね。作品は存じ上げていませんが、きっといい本なんでしょう。いずれ買って拝見したいと思っています。なにはともあれ、無事に決まってよかった。



久宗睦子氏詩集『千年ののち』
1000nen no nochi
2001.2.26 宮崎県東諸郡高岡町 本多企画刊 2000円+税

 地名

ただ それだけのことが
妙に忘れられなくて
地名を見るだけで
その日の風の色や
小さな滝の音を
梔子の匂いとともに
耳もとに囁かれて
いるように 思うのです

ただそれだけの こと
何も無かった といえば
無かったのだし
それからはじまった 長い
くりかえしの 糸口にも
なっていると 考えれば
とても重い映像にも
あたたかみにも 冷たさにも
みんな繋がる ことでしょう

ここに居て ここにいない
想いは ふっと 旅に出る
なにかの拍子に 時刻表の
印のついたページがめくられると
さわさわと瀬を流れていた
水の燦めきまで
まぶしく いま を射るのです

 地名とは不思議なもので、地図や時刻表の地名に魅入ってしまうことがしばしばあります。知っている地名、知らない地名にはそこだけの歴史があって、それに魅かれるのかもしれません。しかし、作者はそんな浅い私の思いとは別の視点を見せてくれます。「それからはじまった 長い/くりかえしの 糸口」というフレーズで、ある意味では地名に縛られる人間を表現し、「まぶしく いま を射るのです」というフレーズで時間の継続を表現しています。私などはせいぜい第1連しか思い浮かびませんでしたから、この視点は新鮮に感じました。
 特に「いま を射る」という言葉は重要でしょう。地名が綿々と時間を奪っていると言うか、時間を超越していると言うべきか、そんなことを考えさせられます。単なるノスタルジーではない、一本、筋が通った感性を感じました。



鬼の会会報『鬼』346号
oni 346
2001.4.1 奈良県奈良市
鬼仙洞盧山・中村光行氏発行 年会費10,000円

 いつ除夜の鐘は
 あしたとは明るい日と書く。なぜ、明日は明るい日か。素朴な疑問が起こるだろうが、昔はあしたといえば朝、ゆうべといえば夜だった。平安時代の書物でもあしたは朝、ゆうべは夕闇が迫ってから、という用い方をしている。興味ぶかいのは、この時代の一日が朝からはじまるのでなく、ゆうべからはじまることだ。深夜の神事は多い。大晦日の夜半から、新しい年にかけてつくのが除夜の鐘である。

 そういえば「あした浜辺をさまよえば」という歌のあしたは朝と書かれていなかったでしょうか。そんな記憶があります。誰の作品か忘れましたが、明治か大正生まれの人だったかもしれません。とすると、かなり最近まで朝という言い方がされていたのかもしれませんね。
 深夜の神事も多いんですが、平安時代の政治は深夜が多かったようです。夜中に牛車をゴロゴロ転がして、なんて表現が「源氏物語」あたりに出てきませんでしたっけ? 一日の始まりがゆうべから、というのも納得できる気がします。今よりも時間が悠長に流れていたんでしょうか。



個人詩誌『色相環』9号
shikisokan 9
2001.3.5 神奈川県小田原市
斎藤央氏発行 200円

 熱帯魚

身を翻して泳ぎ回る
おまえのなかで
水は騒いでいる
きらびやかに発色する
未来が誘惑するので

見つめる周囲の目を惑わせて
おまえは
投げかける言葉の網を
すり抜けてしまう

不確かなものを
信じてみたいのだ
ガラスの透明な壁に囲まれた
狭い世界を壊して
抜け出してみたいのだ

水の動きに紛れて
おまえの姿が
ふいに見えなくなる
所在のない私は
もう現れるはずのない
遠い日のおまえの残像を
私のなかで
泳がせてみたりする

 「熱帯魚」を言葉通りにとってもいいんですが、私は女性に置き換えて読んでみました。特に第2連は「投げかける言葉の網」とありますから、熱帯魚に投げかける言葉というよりは、女性に投げかける言葉ととった方が無理がないように思います。それに最終連の「もう現れるはずのない/遠い日のおまえの残像」というフレーズは、熱帯魚に対してのものではありませんね。女性に対しての思いととるべきでしょうか。
 間違っているかもしれませんが、そんな読み方もあっていいんじゃないでしょうか。「水の動き」をもう少し細かく分析する必要があるかもしれませんが…。



 
   [ トップページ ]  [ 2月の部屋へ戻る ]