きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
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新井克彦画「モンガラ カワハギ」




2001.3.8(木)

 日本ペンクラブの電子メディア対応研究会がありました。この1年ほど研究を進めてきました電子出版契約の要点・注意点がまとまりました。3/15の理事会で承認されたそうですから(この日記は3/19に書いています)、ここに全文を掲載します。掲載にあたっては、正確を期すため秦恒平座長のHPより転載したことをお断りしておきます。なお全文はペンクラブのHPに近々公表され、ペンの会員にはパンフレットとして全員に配布されます。

 このHPでの全文は、22KBほどの容量があります。関係する方、興味のある方がご覧になってください。かなりの時間を要しますのでご注意ください。
 私個人としては出版契約などしたことがなく、原稿料をもらえる仕事も数えるほどしかありません。しかし、そんな個人的なことは問題ではなく、電メ研研究員の仕事として取り組みました。蛇足ですが、ご承知おきいただければ幸いです。



* 2001「電子出版契約の要点・注意点」に関する報告書
                  日本ペンクラブ電子メディア対応研究会

(内田保廣 紀田順一郎 倉持光雄 坂村健 城塚朋和 高橋茅香子 高畠二郎 中川五郎 西垣通 野村敏晴 牧野二郎 莫邦富 森秀樹 副座長・村山精二  座長・理事 秦恒平)

 「出版」という私たちの職業にとって大きな関心事が、前世紀末このかた、電子メディアの拡充と浸透により深甚の影響を受けてきたことは、ご承知の通りです。
 影響の範囲も内容も日ごとに複雑の度を増し、当座の対策すら正確に示すことができません。時勢の速やかなことに驚くばかりです。
 しかし、手を拱いておれない「問題」は、もう目前に幾つも幾つもあります。中でも大きな一つが、従来の冊子本(紙の本)出版とは、いろいろに事情を異にする電子本の「出版契約」問題です。草創期とも過渡期とも激しい流動期ともいえて、各所で各種の試行錯誤がばらばらに進められている現状です。とても、ややこしい難問です。
 しかし、そういう時期にこそ、よく押えて置かねば将来に悔いを残しかねない「要点」が在ろうと思います。今は事細かにものごとを決めつけても効果は望めませんが、おおまかにでも、アバウトにでも、この程度は心得ていた方がいいと思える範囲は、事柄は、指摘も示唆も出来るかも知れません。しなければなるまいと考えます。
 電子メディアに関心や関係をもちながら、なお多くは馴染んでいない会員にもご理解いただけるよう心がけながら、以下に、「電子出版契約の要点・注意点」を、あらましを、パンフレットに取りまとめました。多くの不備は承知していますが、せめてここ暫くはお役に立つようにと願い、「電子メディア対応研究会」で討議を重ねた一報告書です。    (文責 座長 秦 恒平)

    電子出版契約の要点・注意点

はじめに:電子出版と電子本の定義と仕分けについて
T. 電子出版の基本的な要点・注意点
 1.冊子本(紙の本)出版と、電子本出版とは、全く「別の物・事」と考えましょう。
 2.「排他的独占権」の契約は努めて忌避しましょう。
 3.電子本の著作権使用料(いわゆる印税率)は、十分注意して契約しましょう。
 4.著作権使用年数(出版期間)は、現状では「短期」契約しましょう。
 5.著作者人格権の確保を十分心がけましょう。
 6.こういう差異にも、留意しましょう。

U. 通常書籍(冊子本=紙の本)出版契約に意図して含まれがちな、「電子本」出版契約の「要注意点」
 1.電子出版への二次利用や排他的独占権契約に、安易に同意しないで下さい。
 2.「原作」としての二次利用の「排他的独占権や優先権の設定」にも、安易に同意しないよう十分注意しましょう。
 3.コピー(複写)に関する「注意点」を挙げてみます。
 4.以下のような条文には、よく「注意」しましょう。
 5.契約内容に納得できない場合の心構え。

おわりに:


 はじめに:電子出版と電子本の定義と仕分けについて
* 電子出版には、大別して、
  @ CD方式=CD-ROM(ドーナツ型の円盤)による販売・購入方式。
  A アクセス方式=版元へアクセス(接続)してユーザーの器械にコンテンツ(作品等)をダウンロード(取り込み)する課金・支払方式。
の二種類があります。つまり、同じく「電子本」と謂いつつ、@CD方式本には具体的な形があり、製作(在庫)部数も販売前に認識できますが、Aアクセス方式本では、物の形として存在せず、販売の数字は、アクセス購入(支払い)されて初めて表され得ます。

 これは、基本的な大きな差異なので「注意」の必要があります。
 今一つ大きな「仕分け」の注意点があります。
 「出版」といえば、冊子本の場合、出版社と著作者とは「別の」存在でした。しかし電子出版と電子本の場合、さきの、@CD方式本も、Aアクセス方式本も、必ずしも「出版社」に委託して作らねばならないわけでなく、著作者(個人またはグループ)の器械に「ホームページ」等を設け、そこに表出されたコンテンツ(作品)は、理論的にも実際にも、比較的容易に、上の二種類の「電子本」として、ユーザー(読者)の手に手渡す(販売する)ことが可能なのです。すでに実践例も少なくありません。
 この場合は「出版契約」問題は生じません。著作者と読者との間に「売買」の取り決めが適宜成されるか、無料提供されるか、だけです。無料で公開提供されている「電子出版=電子本」の、想像以上に数多いのも実状です。

* まず、電子出版とその契約、著作権をとりまく問題の全体像をつかんでいただきたく、できるだけ具体的なケーススタディとして、対策の要点・注意点が、順次、項目別に列挙してあります。数多く各社各種の「電子出版契約書」を比較検討した内容です。

T. 電子出版の基本的な要点・注意点
1. 冊子本(紙の本)出版と、電子本出版とは、全く「別の物・事」と考えましょう。
* 二次利用の形で、冊子本契約書に、別途「電子本」化を版元に一任するふうの文言が入っている契約書例があります。
 電子メディアでの著作権が模索途上にある今日では、どちらも「本」の出版ということで「安易に混同」されがちですが、質的にも技術的にも経済面でも「全く異質」と見られる「紙の本」と「電子の本」とを、どさくさに同一視した安易な契約・約束は、極力避け、両者には「明瞭に一線を画して」おこうとお薦めします。「電子本」と「冊子本」とは「別契約」ということを大事な基本の認識としたいと提言します。
2.「排他的独占権」の契約は努めて忌避しましょう。
*「排他的独占権」とは、著作者が、契約期間内に同じ作品を他社でも出版するのを禁じた出版社の意向です。初版部数への印税支払い等が約束された従来の冊子本出版では、妥当な約束として定着していました。
* しかし電子出版の場合、殊に初版部数や最低保証部数の算出が全くできない
Aアクセス方式の場合など、「排他的独占権」契約を結んでしまいますと、アクセス数が無く、従って収入が全く無くても、新たに他社での出版を試みる自由と権利を失います。作品が無意味に埋没するおそれが生じます。初版製作部数を保証されない限り、事情は、@CD方式でも同じです。
* 契約書条文に、「排他的独占権」という文言が書いてあるとは限りません。例えば、「甲(著者)は上記(電子出版)の利用に関する権利につき、自ら行使し、あるいは第三者に対して許諾してはならない」などと謂った文言で抑えられている例もあり、注意して欲しいと思います。

 補足1:例えば契約有効期間が短く(半年ないし一年と)設定されている場合は、排他的独占権を出版社に与えても良いかという考え方もありえます。言い替えれば、出版環境や条件に予期し得ない激変も予想できる電子メディア出版の場合は、「出版契約期間」を永くても「一年間」に限定して対応するような姿勢が必要と思われます。冊子本時代の「三年ないし五年」といった長期契約はぜひ避けたいと考えます。また契約延長も、いわば自動継続でなく、そのつど内容をより適切に「更改する姿勢」が必要と考えます。
 補足
2:例えばA社が、甲の著作物を、@CD方式で出版したところ、契約に「排他的独占権」が明記されていないのを理由に、B社が、同内容の著作物をインターネット(Aアクセス方式)を通じて重ねて売り出したため、競争の結果、A社のCDはまるで売れずA社は大損失を被ったという、こういった場合も無いとは言えません。このためにも、「出版権」の期限を適切に短くし、その期限内の「排他的独占権」を容認するという妥協も考えられます。適切な期限の短さ(長さ)は「半年ないし一年」が穏当かと考えられます。データベースでの原稿二次利用に関する日本文藝家協会と大手新聞社との契約も、目下は「一年」ごとに協議し更改する約束になっています。
3. 電子本の著作権使用料(いわゆる印税率)は、十分注意して契約しましょう。
* 冊子本(紙の本)の場合、製本部数×定価の例えば10%というふうに著作権使用料が支払われましたが、電子本の、とくにAアクセス方式の場合、こういう算定が事実上不可能です。
@CD方式の場合は、売り出されるCD-ROMに定価が付けられますので、冊子本にほぼ準じて考えることが可能です。紙の本では、製版組版製本その他倉庫保管費や運送に至る諸経費がかかりますが、@CD方式の電子版だと、現在の技術では格段に製作経費は廉価に済み、いわゆる印税率に準ずる数字は、少なくも数十%を求めても不当とは考えられません。
 まして、Aアクセス方式での配信の場合など、極端な場合、直接製作費はゼロにさえ近く、極めて安価に済むことも考えられます。著作者が、自身の作品を、電子メディア(通信・CD-ROM等のディスク)を用いて版元に提供した場合など、80%ないしそれ以上を支払われていいのではないかとまで、極論されるほどです。

 これらは、「冊子本との大きな差異」として、ぜひ、著作権者は念頭に置いていていい「要点」です。
* 外国では、40%(あるいはそれ以上)の契約例も事実行われているようです。
* 日本では、版元による15%程度の著作権料提示が現にされている例があります、が、上の事情からも、不当に安過ぎると思われます。
* インターネット配信、つまりAアクセス方式での著作権料は、可能性として優に50%以上100%にも近い「当然権」を著作者は持ちうると考えられますが、冊子本のいわゆる初版部数に相当する「算定基準」が把握できないという、難しい未解決の問題があります。
 算定しやすい、@CD方式の出版をと希望するか、特にAアクセス方式の出版の場合は、最低保証部数契約に相当する「具体的な交渉」が事前に成立していないと、「保証の見えない出来高払い」となり、経済的にごく不利・不安定な出版になりかねません。金額の多寡にもよりますが、契約内容の確定が難しいものになります。
 補足1:最低保証部数(最低保証金額)の設定のある場合も、アクセス数や販売部数のその後の推移の「確認可能」な「取り決め」が、ぜひ必要です。そうでないと、著作物の著作権が野放しに、行方知れずに他人手に渡ったままになる恐れも生じます。出版契約期間を短く限定して、更改時に、正確に、判断や判定を、契約を、し直す姿勢が必要です。
 補足
2:直接経費・間接経費を問わず製作費不明で不審ののこる場合などは、著作権も、暫定使用料といった臨機の提案により、「更改交渉の余地」を残しておくことが必要かと思われます。
 補足
3:Aアクセス方式の場合、ダウンロード(読者の取り込み)に対して精確な「課金」技法の確定していない場合、売上算出は「概ね不明」となります。契約に際しその可否と確認とを怠っては、契約自体が無意味になります。売上が確認できる場合、売上額またはアクセス数に応じた「段階的」な著作権使用契約を結ぶことも可能かどうか、考慮・交渉に値します。例えば、売上げ100万円までは30%、101〜200万円までは40%、201万円以上は50%など、と。
 補足 4:その月ごとの、または妥当な期間ごとの「売上報告義務」を契約事項に加えておくのも有効です。
 補足
5:インターネット配信の場合、Aアクセス方式の場合、個別の作品配信に対する流通・製作コストは、技術的には安いものですが、システムの設置・開発等に要する初期費用や改善・改良・保守の経費には、各社の良識と姿勢でバラツキを生じます。
 また経済利害だけでなく、どんな営業内容か (マンガ・図像出版と文芸・文字表現との比率など) までよく見極めて折衝した方が、著作権者として賢明かと思われます。

4. 出版契約期間は、現状では「短期」契約にしましょう。
* 繰り返しますが、冊子本(紙の本)と異なり、電子メディア環境は、少なくもここ当分めまぐるしく変動して行くと思われます。長期に固定的な出版契約はつとめて避け、こまめに短期更改の申合せを重ねましょう。半年ないし一年契約を目安にと、重ねてお薦めします。
* 電子出版では「排他的独占契約条項の無実化」を考慮し、契約期限が一年を越す場合など、「途中解約の可能条項」を設けるようお薦めします。
5. 著作者人格権の確保を十分心がけましょう。
* 著作権者「氏名」の表示方法は、契約時に確認しましょう。
 例えば「本著作物の電子出版利用における著作者表示の有無及び方法は、乙(出版社)が任意に決定することができる」といった条文は、必ずチエックが必要です。著作者人格権の放棄に直結の危険性が濃厚です。

 電子出版の場合、とくに引用が膨大になる「編集もの」の場合など、引用部分にそれぞれの著作者氏名を表示するのが煩雑なため、他の著作者と纏めて目立たぬ場所に単に一括表示されたりします。どれ・どの部分が自分の著作なのかが不明・行方不明になる怖れが頻々と生じます。事前に「氏名表示方法を確認」し、よく納得して個々に合意・契約する必要があります。

* 著作品の「同一性保持」は、堅持しましょう。
 例えば「甲(著作者)は本著作物の電子出版利用において、乙(出版社)またはユーザーが本著作物に修正・加工等の変更を加えることを了承する」といった条文には、厳重な注意とチェックが必要です。これを見のがしますと、自作とは全くべつものに変改・変形・歪曲された商品の、著作「責任者」になってしまいます。

6.  こういう差異にも、留意しましょう。
* 電子出版を版元に委託する場合に、次の2種類は少なくも分けて考慮しましょう。
 @二次電子化本: すでに冊子本(紙の本)で出版された著作品、または雑誌・新聞等の文字媒体に公表済みの著作品を、「再度新たに電子出版する」場合。
  A新電子化本: 冊子化や活字化を経ず、「最初段階から電子出版する」場合。
* @二次電子化本の場合、冊子本の版元出版社または活字媒体版元との間に、
  @-A:契約関係や版権等がなお継続・残存ないし留保されている場合と、
  @-B:契約関係や版権はすでに消滅しており、相互に「元の版元」というある種の情誼や認識だけの残っている場合、  が、あります。
  @-Aの状況では、さまざまの問題が生じ、既成の契約事項かのように出版社の意向が押しつけられる危険性もあり、ここでも、「1.
冊子本(紙の本)出版と、電子本出版とは、全く『別の物・事』と考え」て、「慎重に新契約」を結びましょう。
 「冊子本」と「電子本」とでは、あまりに「出版」の姿形も手順も質・量・経済問題も異なるからで、安易に、何事にせよ他者(出版・編集・担当者)に「一任」してしまうことは、著作権者の立場を自ら放棄することに繋がってしまうからです。この点に関しては、後でも、改めて言及します。

 @-Bの場合は、最初に、また繰り返し提言しましたように、「冊子本(紙の本)出版と、電子本出版とは、全く『別の物・事』と考え」て、以前の版元関係に拘束されることなく、自由に適当な版元を選んで「新規の契約」をすべきです。

* 冊子本(紙の本)の新規出版契約に際しては、契約内容を「紙の本」だけに限定し、将来の二次利用や電子化に関する「安易な事前の取り決め」を、(たとえ便利・好都合に思えても、電子メディア環境がもう少し安定し確定するまでは、)慎重に避けられるよう、つよくお薦めします。「冊子本(紙の本)出版と、電子本出版とは、全く『別の物・事』と考えましょう。」


U. 通常書籍(冊子本=紙の本)出版契約に意図して含まれがちな、「電子本」出版契約の「要注意点」
1. 電子出版への二次利用や排他的独占権契約に、安易に同意しないで下さい。
* 「甲(著作者)は乙(出版社)に対し、本著作物の全部または相当部分を、あらゆる電子媒体により発行し、もしくは公衆送信することに関し、乙が優先的に使用することを承諾する」といった趣旨の条文に従いますと、冊子本の著作権契約に無条件に電子本の契約権が取り込まれてしまうことになります。たとえ「具体的条件については、甲乙協議のうえ決定する」とあっても、電子出版は電子出版として別途の出版契約を必要に応じて交わすこととし、簡明な分かりいい契約内容にしておきましょう。

* 著作物の将来を未然に安易に一任しますと、他社からのより有利ないし魅力ある電子出版の条件提示に、可能性を閉ざしてしまうことになります。著作と著作権は、極力著作者の配慮下に「フリーハンド」に所持されるよう薦めます。

 補足1:出版不況の中で、苦労して出版した版元が、二次利用を他社に持って行かれたくない気持ちの現われと解釈できる条文例ですが、強引な「取り込み」「囲い込み」「ツバつけ」には相違なく、このような受諾を強要の契約条文で電子本著作権が冊子本契約の中へ未然に押さえ込まれることは当然避けるべきです。著作者と版元との自然な信頼関係のもとに、電子本には電子本の「新規」契約がなされるべきで、自由競争の本来にもその方が適っています。この烈しい流動期に、異質の本の出版権を一つの契約書に盛り込むことは、少なくも著作者には簡明でもなく、有利でもありません。著しい不利と不自由に繋がりかねません。

 補足2:作品を社のホームページ等へ無断で二次利用する出版社もあります。著作者がこれに慣れて油断していると、電子出版も契約なしにで既成事実を作られてしまうことになりかねません。出版社の姿勢をホームページで確認しておくことも必要でしょう。

2. 「原作」としての二次利用の「排他的独占権や優先権の設定」にも、安易に同意しないよう十分注意しましょう。
* 他社からの映画化やアニメ、ゲーム化など提示・折衝の道が閉ざされます。
  補足:二次利用について許諾契約を結ぶ場合、二次利用の著作権使用料も著作者の納得のゆく具体的な協議で決める必要があります。
3.  コピー(複写)に関する「注意点」を挙げてみます。
* この項には特に注目して下さい。こういう趣旨の条文をもった契約書に出会う場合、十分慎重に回避ないし拒絶しないと、著作と著作権の将来を大きく拘束され侵害されてしまう恐れがあります。

 一例として、「甲(著作者)は、本出版物の『版面』を利用する本著作物の複写(コピー)に係わる権利(公衆送信権を含む)の管理を、乙(出版社)に委託する。乙はかかる権利の管理を、乙が指定する者に委託することができる。甲は乙が指定した者が、かかる権利の管理をその規定において定めるところに従い、再委託することについても承諾する。」などと有ります場合、現在自分は「冊子本=紙の本」について契約しているつもりが、同作品の、将来の「電子本化」についても、いわば身ぐるみ出版社の自由な処置(転売・販売。二次・三次利用等)に委託一任しますという契約になり、出版の自由に関わる「選択肢の全てを放棄」するに等しい結果を招きます。

 これは、「版面権」という名の、法的には今なお認知されていない架空の権利の名で、あたかも「版面使用料=著作権料」かのように、電子出版と冊子出版との間で、著作権者をまるで棚上げの経済協約が成される「素地」を作り出します。この形で、著作者のあずかり知らぬ交渉のもとに、いつの間にか自作が、冊子本出版社の自由裁量で、気ままに、どこかで、電子出版されて行き、気が付かないでいると著作権料も全く入らないという「闇慣行」を生んで行きかねません。

 この恐れは、すでに各社の契約書条文面に、密かに、かつ露骨に、拡がろうとしていて、ゆゆしい問題です。厳重注意を必要とします。
* 例えば、(社)日本文芸著作権保護同盟の会員ならば、上記のような条文の契約書に署名すると「二重契約」になる恐れもあると、法の専門家からは、指摘されています。
4.  以下のような条文には、よく「注意」しましょう。
* 例えば「万一本著作物について、第三者からの権利の主張、異議、苦情、損害賠償請求等が生じた場合には、弁護士費用を含めて、甲(著作者)の責任と負担においてこれを処理し、乙(出版社)にはいっさい迷惑、損害をかけないものとする。」といった趣旨の条文に出会うことがあります。

 かりにこれが著作物の内容に原因する「著作権侵害事件」や「人権侵害事件」にかかわる問題であったにしても、「出版権」を建てて出版を是認し推進した「版元」が、こうまで全面的に責任回避する姿勢には問題があり、著者と出版社との間にあるべき信頼関係が一方的・予防的に回避されています。

 ことに電子メディアにおける出版には、著作者と版元とで一致協力して当たらねばならぬ予想外の問題の出現も考えられるのです。
* 「納入された収録媒体(ディスク等)に瑕疵が発見された場合には、甲(著作者)は乙(出版社)の選択に従い、甲の費用をもって速やかに瑕疵のないものと交換、瑕疵の補修、または瑕疵の程度に応じた代金の減額に応じるものとする」というような取り決めは、いわゆる原稿授受によって約束が成り立つ冊子本出版とは無関係な事項であり、仮にディスク等を原稿として渡す場合も、このように一方的に著作者にのみ経済負担がかからねばならない理由はありません。条項から外すようにお薦めします。

* 電子メディアの参入で、出版物の販売数量の把握は、将来ますます複雑に分かりにくくなって行きます。よく納得が行くまで確認して契約することをお薦めします。
 @CD-ROM(ドーナツ型の円盤)による販売・購入方式=CD方式の場合、名目上は発行枚数を基準とするものの、試視聴用、見本用、寄贈用、販売促進のため等に配布され、乙(出版社)に利益の発生しないもの、流通過程での破損、汚損等の事由によって破棄処分となったもの、及び卸売店・小売店から返品されたものは、すべて著作権料の対象から減殺するといった条項を鵜呑みにした場合、その確認等に著作者の判断はとても及びません。そのために曖昧な数字を一方的に押しつけられる危険も生じます。「製造=販売=著作権料の対価数」を、極力分かりよく取り決める折衝・協議・契約をぜひお薦めします。

 まして、A版元へアクセス(接続)してユーザーの器械にコンテンツ(作品等)をダウンロード(取り込み)する課金・支払方式=アクセス方式の場合は、契約に際して、法律家等の立ち会いと助言を求めるなども考慮しないと、まことに曖昧模糊とした取り決めにより著作者の権益を見失いかねません。十分注意しましょう。

 補足:「試視聴用、見本用、寄贈用、販売促進のため等に配布され乙に利益が発生しないもの」を印税部数に計算するか否かは意見の分かれるところではないかという議論もあります。冊子本の場合も電子本の場合も、要するに、よく「具体的に申し合わせ」るべきであり、一方的に出版社の言いなりにならぬようお薦めします。

1. 契約内容に納得できない場合の心構え。
 契約条文や項目に、不当・不審ないし曖昧で納得できない場合は、はっきり契約文からの「削除」を要求しましょう。
 また安易に、投げ出すように「署名捺印」してしまわぬように。もう、そういう時代では無くなっています、ことに電子出版の場合はあまりに危険です。「電子メール」上でのいわゆる「電子署名」にも厄介なトラブルを引き起こす可能性があり、十分注意し判断されるよう、お薦めします。

  おわりに
 まだまだ不足している「要点」「注意点」の多いのを恐れますが、最小限度とご承知の上、機会ごとに目を通して下さい。認識違いなどの指摘を受けることもありましょう。また、改めて、より適切なものを用意して行かねばなりません。「緊急」の『電メ研メモ』とご承知下さい。会員各位におかれても、どうか、更なる討議の声をあげて下さるようお願いし、期待します。(2001年 3 月 作成)



 
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