きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
mongara kawahagi.jpg
新井克彦画「モンガラ カワハギ」




2001.4.27(金)

 日本詩人クラブの新理事による第1回理事会が開催されました。新理事会の初仕事は、会長・理事長を選出することです。新会長に天彦五男氏、理事長には中村不二夫氏が再任されました。以下、常任理事に総務担当の山田隆昭・原田道子両氏、例会担当丸山勝久氏、会計担当北岡淳子氏、広報担当は私。理事には国際交流担当に石原武・新延拳両氏、地方大会担当諌川正臣氏、入会担当金子秀夫氏、詩書画展担当小川英晴氏、現代詩選担当に佐久間隆史氏が選出され、特認として筧槇二・鈴切幸子両氏となりました。関西大会担当理事は相馬大氏です。私は広報の他に電子メディア関係も担当せよということになりました。
 正式には5月の総会で承認されてからの理事会発足となります。新任の理事は原田道子・諌川正臣・佐久間隆史・相馬大の4氏です。前理事会からの残留組は7名、女性は3名。小泉内閣じゃありませんが、ずいぶんと人が入れ替わったなと思います。大きなイベントの50周年記念祭も終わっていますので、今理事会は今後10年の枠組みを作ることになるでしょう。会員の期待に応えられるようがんばります。ご支援をよろしくお願いいたします。



詩誌『貝の火』12号
kai no hi 12
2001.4.15 神戸市須磨区
月草舎・紫野京子氏発行 800円

 非在/村岡 空

「非在」という言葉は
如何なる辞書にも載っていない
だが しかし
「不在」という言葉とは
何処か微妙に違ってはいないか

「在ルニハ非ズ」と訓読すれば
「在ラ不」と断定するよりも
あえかなる悲しみが伝わって来る

そして その悲しみは
草庵のつららの如く
幾重にも列なり
人の世の死へと結び付く

今朝
古い墓場の石の地蔵尊を拝み
その「非在」の悲哀が分かった
首が落ちても
にっこりと

 「如何なる辞書にも載っていない」というので、私も2、3の辞書をあたってみました。確かに載っていません。不思議ですね。何気なく使っている言葉ですが、載っていないんですね。
 その発見にも驚かされましたが、「非在」の具象化として「石の地蔵尊を」持ってきたのは見事だと思います。「首が落ちても/にっこりと」している「非在」、言い得て妙と言わざるを得ません。
 連想で失礼≠ニ無礼≠ノついても考えました。前者は礼があるけれど失念したこと、後者はまったく礼が無いことですから、似て非なるものと言えましょう。この作品を通して、どんどん頭の中が活性化されていくように思います。



季刊詩とエッセイ誌『焔』57号
honoho 57
2001.3.15 横浜市西区
福田正夫詩の会・金子秀夫氏発行 1000円

 馬蠅/武井 京

靴や下駄でのぼれるものか
この峠には碎けた石ばかり
いやそれよりもこの道
岩の頭
(かしら)がづきづきつん出てゐる
それこそこの細い道端には
菫もタンポポもない
馬だけが通るのだ。

山が崩れて赤い肌、
陽が當ると風もないのに
碎けた石が獨樂
(こま)のやうにまわりながら落ちてくる
馬だけが尾を振つて通るのだ。
枯れた野イチゴの骨のやうな茎に馬蝿がゐる
部落の馬が炭を背負
(しよ)つて
がくがく がくがく 下りてくると
馬蝿は金いろの目をぐりぐりむきたてる
グーンとにぶい歉聲をあげる      
つら
馬のたるんだ腹へ 細つた足へ 間抜けた面へ

ぢつくり喰ひ下るのだ。
とろ とろ 瞼を吹く風、        
くだ
こいつに だまされて馬蝿をつけて馬は峠を降る。

盆地を圍んだ山脈の起伏、
あの狭間
(はざま)にも あそこの狭間にも、
峠はある 細い道がある 春もゐる、
あの奥からも あそこの奥からも
馬は炭を積んで降る。

 昨年6月に92歳で亡くなった、日本詩人クラブ永年会員武井京さんの特集号です。紹介した作品は1940年に刊行された第一詩集『馬蠅』のタイトルポエムです。この作品は1937年に日本詩人会主催、読売新聞社後援で開催された詩の朗読コンクールで優勝したものだと福田美鈴さんが紹介しています。
 作品は今から65年ほど前に書かれたものと想像しています。武井さんは長野県諏訪のご出身ですから、おそらくその地方の情景をうたったものだと思います。農家に馬がいた記憶は私にもあり、なつかしく思い出しています。「馬蝿」は諏訪地方の方言のようですが「金いろの目をぐりぐりむきたてる」蝿は確かにいました。ちょっと大きめの蝿ではなかったろうかと思います。その蝿に悩まされながらも健気に峠を下りる馬、それに対する武井さんの愛情がよく伝わってくる作品だと思います。歳に不足はないのかもしれませんが、惜しい人を亡くしました。私も何度かお会いして言葉をかけてもらっています。ご冥福をお祈りいたします。



 
   [ トップページ ]  [ 4月の部屋へ戻る ]