きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画「モンガラ カワハギ」 |
2001.4.29(日)
朝はゆっくりとホテルで目が覚め、朝食もゆっくりととることができました。大リーグのイチローをBSで見て、ゆっくり帰って、昼食もゆっくりとって、陽は出ていなかったけど、いい一日でした。たまにこんな日がないといけないなと思います。できれば温泉があって、マッサージでもやってもらえたら言うことなしですね。ちょっとジジむさい感じがしますけど、本当に最近そう思いますよ。自分のために、月に一度くらいはそんな日を作りたいものです。
○詩誌『海嶺』16号 |
2001.4.15
埼玉県浦和市 海嶺の会・杜みち子氏発行 300円 |
あこや貝/桜井さざえ
菰から磯物の香りと湯気が立ち昇る
待ち針に突きさして
われさきに食べる子供たち
私の歯に カチッと触れたもの
舌で探りあて 掌につるりと落とす
あこや貝の内側に しのびこんだ異物は
涙のあとのような波の泡粒に覆われ
歪んだ形のままに育った
黒ずんだ緑と乳色のまじりあった珠は
どの宝石よりも
母に馴染む指輪になった
巻頭の作品です。さすがにうまくまとまっているなと思います。男にはちょっと及ばない母娘のいい関係も見えて、安心して読める作品と言えましょう。「宝石」はもちろん真珠ですね。あこや貝も食べられるということを初めて知りました。真珠をとったあとのあこや貝も食べるのでしょうか。
「菰」は正確には「子」がありません。今の私のパソコンでは表現できず、やむなく「菰」の字を使っています。作品とは関係ないことですが、困ったことだと思っています。字が使えない道具は、道具としては不完全です。なんとかしてくれ!
○詩誌『Sayon・U』2号 |
2001.4.20
東京都三鷹市 なべくらますみ氏発行 500円 |
雪の残り/多賀恭子
辞めるまであと二ヶ月
職場の人の見る目が
変わってきた
一日は短いのに
日が経つのが長い
こんな時代に
あてもないのに
残った雪が
いつまでも溶けないで
道路の端に固まっている
いつも立ち寄る
コンビニの灯が見えてきた
豆腐の入ったみそ汁をつくろう
豆腐と食パンを買うんだ
歯をくいしばるように
そう思った
あとは しんとした夜道を 帰った
短いけれど、しんみりとしたいい作品ですね。巻頭作品であることが判ります。「そう思った」なんて言葉は本来使えないんですけど、この場合はぴったりと決まっています。この言葉がなかったら、この作品の質はずいぶん落ちてしまうだろうなと思わせるほどです。「歯をくいしばるように」というフレーズがその前にあることが奏効していると思います。それにしても、この作者の淋しさはどこから来るのだろうかと考えしまいます。
○詩誌『帆翔』23号 |
2001.4.20
東京都小平市 帆翔の会・岩井昭児氏発行 非売品 |
皿/坂本絢世
皿の裏側まで
こころを配るゆとりがなくて
手垢と時間の澱を積もらせた皿は
食器棚の中で沈黙していた
毎朝
トーストと目玉焼きとトマトをのせ
わずかな食欲のために
テーブルを色どる皿たち
皿の裏側は遠かった
蛍光灯の下の流しで
指先に力を入れて磨きあげると
皿の裏はまぶしいほど白さをとり戻し
白い物語を語りはじめる
けれどそれは語れない声
食器棚の中にふたたびひろがる沈黙
胸の奥の空洞をそのまま皿に受けて
高く掲げるか
明日の朝食は。
皿の裏側はきれいになったけど「胸の奥の空洞」は無くなったわけではない、という解釈でよいと思っています。その空洞とは何なのか、この作品からは「語れない声」としか読み取ることはできませんが、それは読者が勝手に考えればよい、とも思います。その意味では、この作品は読者を突き放していながら、読者に参加を求めていると言ってもいいでしょう。「高く掲げるか/明日の朝食は。」という最終行は作者の開き直りともとれて、それが逆に読む者を心地良くさせているとも思います。短い中に様々な技法を用いた、高度な作品と言えるでしょう。
○詩誌『猗』11号 |
2001.4.20
埼玉県所沢市 書肆芳芬舎・中原道夫氏発行 500円 |
空/江口あけみ
「あらたは
明日から来なくていいです」
突然 私への勧告
どうせ 未練のない職場
東京平野の旅に出る
真昼どき
妙に 静かな交差点
右に行こうか
左に行こうか
貧乏人の 時間大尽
やっと これで
少しは自由になれるか
そういえば
遊びほうけた子どものころ
缶蹴りやかくれんぼ
「めっけ」の声に
チェッとかなんとかいいながら
何かほっとした気持で
出てきたものだ
「あけみちゃんめっけ」
大きな声で云ってみる
目を上げれば
真っ青な空
さすがにうまい作り方をしているなと思います。「空」というタイトルと最終連をうまく結びつけて、重い素材をきちんとこなしていると言えましょう。「何かほっとした気持で/出てきたものだ」という心理描写も、作品の質をうまく高めています。リストラという大変な事態なのに「東京平野の旅に出る」「貧乏人の 時間大尽」というフレーズにしたたかさを感じます。転職の経験もリストラの経験もない私なんかが、変に口だしできる立場ではありませんが、作者のしたたかさに思わずエールを送りたくなる作品です。
作品とは関係ありませんが「猗」にはサンズイが付きます。今の私のパソコンでは表現できません。ご了承ください。
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