きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
mongara kawahagi.jpg
新井克彦画「モンガラ カワハギ」




2001.5.28(月)

 『詩と思想』という詩の専門誌があって、年に一度のペースで詩作品を載せてもらっています。きょう届いた6月号に、3月に送った詩が載っていました。久しぶりに自分の詩を紹介します。

 煙 流れる/村山精二

窓の外には静かな雨
街はいつもより落ちついてみえて
あなたはゆっくりと煙草をくゆらせた

 誰もいなくなって
 最後に私だけが残って
 結局 私が引き継ぐしかなくなったわけ
 もっといい仕事がしたいな

眠れなかった夜をぼくは考えている
頭が冴えたり
胃が痛んだり
何度も訪れた寝返りばかりの夜を
逝ってしまったあなたの
さみしい笑顔に重ねて
思い出している

そちらにはみんないますか
みんな元気に詩を書いていますか
あなたも忙しく赤ペンを走らせて
働いていますか
ゆっくりと眠れる日もありますか

暮れきったぼくの部屋には
雨の気配がする
一本の煙草を
ゆっくり喫った

 3月に亡くなった土曜美術社出版販売社主・加藤幾恵さんを偲んだものです。ほぼ同じ年齢ということもあって親しくさせていただいていました。一緒に呑んだのは、もう2年近く前になるんではなかろうかと思います。それからすぐに入退院を繰り返して、とうとう逝ってしまいました。『詩と思想』に関しては何の手伝いもできませんでしたが、依頼された原稿はすべてこなしたことがせめてもの慰めです。いい仲間を失いました。ご冥福を改めてお祈りいたします。



奥田博之氏詩集『宇宙の旅人』
ucyu no tabibito
2001.5.30 大阪府豊能郡能勢町 詩画工房刊 2200円+税

 言っても詮無いが

地球の病院に担ぎ込まれて
彼は手術の同意なしにこの世に生まれたが
甲状腺腫瘍で何度も咽喉を切開したことが
生まれながらの欠陥児の証になった
自然の恵みを受けていても
その事実はどうしようもない

この世に生まれて来る理由はなかったのに
この世にやってきて 自分とは何か
その答えを捜すことしか頭に無く
人生をそれだけに費やした

生活のことも 老後のことも考えずに
問題の解決を求めて ここまで来て思う
生まれるまえに彼を診察した人の
診断と処置に間違いはなかったのか
生命の医師はなぜ生まれるまえに
治療について充分な説明をしなかったのか
この世に生まれるまえの
彼の事前同意はない

風雨に晒され
壊れた建物の
ねじまがった鉄骨のように
血縁の廃墟に茫然自失----
彼の故郷は
どこか

 詩集全体を通じて「この世に生まれるまえの/彼の事前同意はない」という作者の思いが強いことを感じました。略歴によると、1964年から1977年までインドの僧院で修行をしたとありますから、そんな思いが作者の行動を決定づけたのかもしれません。古賀博文さんの解説では、そのことを「日本のあまたの詩人のなかで大きく特徴づけている事象」と書いています。まさにその通りの詩集と言えましょう。
 しかし、それにしても「この世に生まれて来る理由はなかった」というフレーズは考えさせられます。私個人としては、すべての人間にはすべて生まれてくる理由があった、と考えていますが、それは前出のフレーズの陰画とも言えます。人間とは何かという本質を突きつけてくる作品、詩集だと思います。



 
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