きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
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新井克彦画「モンガラ カワハギ」




2001.6.15(金)

 日本ペンクラブの6月例会があって、千代田区の東京會館まで行ってきました。しばらく出席をサボっていましたから、ずいぶん懐かしい感じでした。梅原猛会長に話しかけたんですけど、しげしげと私の名札を見られてしまいましたよ。しばらくお会いしていない上に、髭もボサボサでしたから、きっと怪しまれたんでしょうね(^^;;
 例会に先だって理事会があり、電メ研の秦委員長が電子文芸館構想を提案することになっていたんですが、残念ながらこちらは時間切れで提案できなかったとのこと。うーん、残念。でも、急いでやらなければいけない仕事でもないので、次回まで待ちましょう。電子文芸館というのは、ペンのHPに会員各作家・詩人の作品をアーカイブとして載せようというものです。今年度電メ研の主たる仕事と考えています。

010615

 写真は恒例の新入会員紹介です。日本詩人クラブからも会員になった方がおいでです。優れた詩人がペンの会員になってくれることは、どちらにとってもうれしいことですね。
 会場で沼津のお医者さん・望月良夫さんにお会いして「越乃寒梅」を2合呑ませてもらい、二次会は有楽町の「ひろしまや」という店に中原道夫さん、北岡善寿さんに船木倶子さんともども連れて行ってもらって、升酒で「賀茂鶴」を2合呑みました。その他にもワインを呑んでいますから、私の限界の5合を越えただろうと思います。しかし、悪酔いなんかせず、いい心地でした。酒はそういう呑み方をしなくちゃ、ね。



船木倶子氏詩集
あなたとおなじ風に吹かれた
anatato
2001.6.5 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

 これからは

黒い身じたくであのひとはいま
車にのりこむ
そのとき あのひとを抱いた

わたしのなかに入っていてね
そしたら死なない
わたしといっしょに生きるのよ

立ったままだったけれど
あのひとは嬉しそうだった

ドアを閉める音がして
とまとの枝がわずかにゆれた
かおりが青くわたしを流れた

ゆめのなかだったけれど
あのひとにもういちど伝えた
わたしといっしょに生きるのよ

 船木倶子さんのご主人は、昨年54歳の若さで亡くなった俳優の粟津號さんです。この詩集は粟津さんへの鎮魂歌です。それを見事に表現しているのがこの作品と言えましょう。夫婦の深い絆を感じます。死してなお「これからは」「わたしといっしょに生きるのよ」の呼びかけられた粟津さんの、魂の安らぎを感じとることができるように思います。
 詩集の帯文に粟津さんの言葉で「倶子の透明感のある詩作品を愛するものです。」とありました。夫君ならずとも船木詩の透明感は感じるものですが、夫君の言葉として改めて拝見すると、このお二人の結び付きは並のものではないなと思います。船木倶子詩集ですが、粟津號さんの精神も込められた詩集と言えるのではないでしょうか。



和氣康之氏詩集  
『夢夢
(Bou Bou)
bou bou
2001.5.31 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2400円+税

 麦秋

しゃくり泣くお前を
むりやり女子寮へ追い返した日
銀の万年筆を
麦畑に放り投げて
お前は
振り向きもせず帰っていった
遠ざかるバス

熟れ麦のにおいが
息苦しくて
僕は
道端に立ち尽したまま
目がしらを拭った

血を怖れていた
二人に流れている同じ血
骨や肉の間に燃えあがる
熱い血

兄と妹は離れている方がいい

黄昏
麦藁を焼く煙が野面をつつむ

いつかお前に返そうと
万年筆には
三十年分のインクが
たっぷり詰まっている

 最終連がいいですね。余情と言うのでしょうか、ちょっと屈折した妹さんへの思いが伝わってきます。私にも妹を描いた作品があって、それとは違いますが、妹を見る兄としての眼に同質のものを感じます。弟とは違って、異性の妹への思いというものは、ちょっと複雑ですね。
 この詩集には、父上・母上を始めとした親族への鎮魂が多く収められています。帯文で丸山勝久さんは「由緒ある旧い生家と石蔵、その中で肉親の業績を墨守し、芸術と文化の伝統を継承する宿命を負った詩人」と紹介しています。まさにその通りの詩集で、どちらかと言えば暗いイメージの作品が多いのですが、私はその中にも作者本来の明るさを感じとっています。上の作品とは矛盾するかもしれませんけど、血への自信、とでも呼べるものだと思います。ちょっと今までにない詩人・詩集という見方をしています。



詩と批評誌POETICA29号
poetica 29
2001.5.20 東京都豊島区 中島登氏発行 500円

 黄昏の咆哮/中島 登

遠くでライオンが吼えている
たてがみをふり乱して吼えている
森はこのところ静寂をたたえているのに
また何か問題を起こそうとしているのは
誰だろう

遠くで山が噴火した
山火事も起きたらしい
溶岩が平和な村々を焼きつくす
生き延びるのはいつも悪魔ばかり

用心しろ
森が危険にさらされている
川は逆流している
桟橋も危ない
海は荒れ狂っている

選挙でかろうじて勝利をおさめた
ライオンはしきり咆哮している
雄ライオンのたてがみが
風になびいている

どこまでもどこまでも
際限なく伸びて行く
そのたてがみは
近隣諸国を脅かす

遥かな暮色の街をこえて飛ぶ
赤錆びたミサイルが
緑の球体いちめんに
汚物をまき散らしている

 「ライオン」とは無論、小泉純一郎首相のことです。驚異的な支持率で関心を集めていますが、詩人の眼はさすがに鋭いですね。「そのたてがみは/近隣諸国を脅かす」と、小泉首相の危険な面をきちんと見ています。世論は世論として、詩人はこういう直感をちゃんと持っている必要があるのではないでしょうか。
 私にとっての小泉首相というのは功罪相半ばと言ったところでしょうか。ハンセン氏病控訴取り下げは、歴代の自民党党首では考えられなかったことですが、靖国神社公式参拝や歴史教科書問題はやはり自民党だなと思います。それでも政治に関心を持たせる原動力に小泉首相が果たした役割は大きいですね。おそらく作者もそこは認めた上での批判ではなかろうと想像しています。



 
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