きょうはこんな日でした【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画:ムラサメ モンガラ |
2001.9.7(金)
日本詩人クラブの理事会がありました。今回、速報としてお知らせできることは特にありません(^^;
いえネ、昨年度までは総務担当でしたので、必死に議事録を執っていましたから詳細が判っていたんですけど、今年度からは広報担当ですで、自分の分野を言ったら、あとは気が抜けているんです。通常2時間はかかる理事会ですが、今回は1時間で終りましたから、それだけ平穏だったということですけどね。
これで終ったんじゃ申し訳ないので、ちょっと補足します。今回、入会希望者は8名。そのうち6名は問題なく承認されましたが、問題になった方がお二人いました。お一人は詩の技量が未熟ということで入会審査委員会から報告があって、それはそれでいたし方ないのですが、問題はもう一人の方です。書類不備だったのです。推薦者の自筆ではなく、紹介者の代筆だったことが問題となりました。紹介者の押印も無いのも印象を悪くしました。入会申込書には推薦人の押印欄が無く一概にそれは責められませんが、代筆はやっぱりマズイですね。私も詩集は拝見していますけど、入会レベルにある詩集だと思っていましたから、残念です。もう一度、推薦人自筆で挑戦してもらいたいものです。
これから入会を考えている方、紹介をしたいと思っている方はそういう点にもご注意ください。決して敷居を高くしようとか、難癖をつけようかと思っているわけではなく、詩人といえども一般社会の常識は守るべきだと思う次第です。詩人だからといって許されることは何もありません。
○望月光氏詩作品集20『見上げる空に』 |
2001.9.1 静岡県清水市 私家版 非売品 |
正体不明
ありゃあ なんだ
秋の落日じぶんの晴れた空に
赤く染まりながら落下するもの
(テレビのニュース映像から)
ゆっくりに見えた
飛行機事故ではないか
隕石かもしれない
宇宙を浮遊する人工物の破片が
大気圏に突入したのではないか
飛行機雲が夕日に映えているのでは
そのようにも見えた
が
そのころあたりを飛行したものの記録も
なにかが落下した情報もなくて
テレビは連日報じていたが真相は不明
三日目の手掛り
海に最後の居場所を求める人があるように
空にしてくれ という人もあるそうで
ロケットでやって という人もあるそうだ
その機体かどうかはしらない
その後のニュースもぷっつり
そりゃあ
わたしだって願望の二つや三っつ
ううん数えきれないほどだったかもしれない
だからわたしはわたしの正体不明について
夕日の中に佇むいま
ほんのちよっぴり考えるのさ
ニュースにならない願望について
うわさにならない狼籍について。
空から散骨するということが実際にあったようです。しばらく前の私の記憶ですから、アテにはなりませんが…。それから派生した「願望」についての作品ですが、「うわさにならない狼籍について。」という最終行が素晴らしいですね。「狼藉」という言葉が実にいい。こうやって書かれると、そういえばいっぱい「狼藉」を働いたな、と思い至ります。どんな「狼藉」を働いたか、どんどんどんどん思い出してきます。そして、それらが実は「願望」の裏返しだったことにも気づいてしまいます。
作品の良し悪しというのはいろいろな基準があるようですが、私は読者がのめり込んでいけるものが良質な作品のひとつの条件だと思っています。その意味でもこの作品は楽しいですね。おそらく作者にとっては「楽しい」なんて気分ではなくて、逆かもしれません。もちろん読者である私にとっても「狼藉」は楽しいものばかりではありません。思い出すのも嫌なものもたくさんあります。でも、時間が経ってみると、やはり楽しい。作者もそんな気持ちがあるから、この作品が生れているのかなと思います。詩集全体には亡くなった奥様のことも書かれており、そんな軽い読み方をしてはいけないのかもしれませんが…。一定の年齢に達しないと書けない詩集だと思います。
○詩と批評誌『玄』51号 |
2001.7.20
千葉県東金市 玄の会・高安義郎氏発行 1000円 |
だすあてのない手紙/庄司 進
あなたに逢ったのは
六月の雨の日でした
お茶の水の駅のホームで
神田川に落ちる雨を見ていましたね
一人になって
シャツにくるんであったヘルメツトを
またかぶりました
神田の坂道も
ルノワールの喫茶店の窓も
大学の立て看板も
シュプレヒコールも
みんな雨でぬれていました
あの時代のにおいを残したまま
生きて来ました
帰郷したとき
あなたの妹に出会いました
三十年ぶりです
あなたの噂を聞きました
どこでどうして生きてきました
あの日、ぬれた顔にあててくれた
浅葱色のハンカチは
どこかにいってしまいました
今日は雨です
街灯の明かりに
雨の細いすじが見えます
夜半にはみぞれにかわるそうです
また手紙を書きます
おそらく60年安保の頃の情景だと思います。私は70年安保世代ですので、ちょっとした違いを感じますが、「ルノワールの喫茶店」とありますから、70年安保かもしれませんね。しかし、仮に10年の違いがあったとしても「あの時代のにおいを残したまま/生きて来ました」というフレーズは共通のものだと思います。政治を論ずることが青春の条件であり、さまざまな挫折を感じることもまた、青春そのものだった時代と言えるでしょう。
「だすあてのない手紙」を常に持っていて、「また手紙を書きます」と言わざるを得ないのが人生なのかもしれません。そして「雨」がうまく効果を上げています。ちょっとロマンチックに過ぎる作品のようにも見えますが、実はそんな深みを持っている作品だと思います。
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