きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2002.1.26(
)

 第172回「KERA(螻)の会」という集りが新宿でありました。今回は田中眞由美さんの詩集『降りしきる常識たち』と竹内美智代さん詩集『呼び塩』出版のお祝いの会です。出席者が感想を述べ合って、それがお祝い、というものです。私はその後同人誌の月例会がありましたから最後まで居られなかったのですが、短い時間ながらも仲間の詩集出版を祝うというあたたかい気持が感じられて、いい会でした。

020126

 両脇の女性がそのお二人です。俎板の鯉ですからね、真剣に皆さんのお話を聞いていましたよ。私は田中さんの「化学反応考」という作品が好きで、これについては少し長く感想を述べました。化学反応は詩的だという持論があるんですが、彼女はそれをうまく表現していると思います。
 惜しいことに佳境に入ったところで退席して、横浜に向かいました。月例会は『山脈』110号の合評会も兼ねていましたから、ちょっと緊張しましたね。でも、今回の特集「テロ」は好評を博していたようですし、作品も優れたものが多かったと思います。私の作品は残念ながら不評。テロ報復戦争への自衛隊加担を憤っているものですけど、我ながら紋切型だなと思っていました。そこを見事に突かれて、やはり『山脈』のメンバーは大したものだと思います。
 自分の身を安全な場所に置いて、誰も反論できないような作品を書くのは難しいものです。批判を受けながら、もう少し自分の身に引き寄せなければ駄目だなと思いました。職場でも親戚でも、徴兵制が施行されたら該当する青年はいるわけですから、少なくとも彼らの立場に立って考えないと弱くなるし感情移入できないでしょう。叫ばず、それでいて腹の底から出てくるものを書きたいものです。



詩誌『鳥』創刊号
tori 1
2002.1.15 東京都中野区
菊田守氏発行 340円

 杉並区の地域センターで開催されている「現代詩の勉強会」会員の詩誌だそうです。毎月集っていて、すでに53回を越えたようですから、息の長い勉強会ですね。

 日々/八隅早苗

五月晴れのいちにち
マンションのベランダというベランダ
口が開けられ中から分厚い舌が垂らされる
夜毎 人間の疲労をたんまり吸収した布団は
朝の陽射の中 欝憤を吐き出し
それらが蒸気となって霧散してゆくのが解る
透明な 五月の陽よ

真昼になれば 強い陽射に
ひとの心までもが透き通る
付かず離れず無言で花の間をいく老夫婦は
 言い交わしている
----しあわせね

セールスの途中だろうか
ホワイトカラーを弛める若者の
硬く結んだ口から聞こえてくる
----やってられないよ

そん明白
(あからさま)な午後の陽差を避けるように
一組の男女が危うい距離をおいてベンチに
 坐っている
無言のまま 視線を落しているから
いつまでたっても透視できない 互いの気持ち
若い二人を気遣うように 頭上には葉影が
 動揺するばかり
落ちてゆく陽を跳ね返している

太陽に癒されて ふっくら恢復した布団の内に
今夜も染み込んでゆくのだろう
あまたの人の汗が 涙が
睦言が

 指導者格の菊田さんの作品は別格としても、いい作品が揃っています。紹介した作品は巻頭作ですが、やはり巻頭だけのことはありますね。「口が開けられ中から分厚い舌が垂らされる」というフレーズにはドキリとさせられました。「舌」とは言い得て妙です。確かにそう見えますし、家という身体の臓器の一部というのは正解でしょう。おもしろい視点が詩という形に昇華している作品だと思いました。



アンソロジー『ひばり野』18集
hibarino 18
2001.12 神奈川県相模原市
相模原詩人クラブ・富永たか子氏発行 非売品

 桜/桐山規子

満開の桜の花が風にまい
川面を染めて流れていく
花びらに時をのせて

毎日少しづつの花びら一枚程の別れ
小鳥が桜をついばみ
鋭い声で鳴いた

春の日の夕暮
こわいほどに美しい花達は
知っているのだろう
本当はもう散り始めている事を

 『山脈』同人の富永さんが世話人をやっている、相模原市内の人たちの勉強会のアンソロジーのようです。年齢も様々なようですが、詩が好きでたまらないという雰囲気が伝わってくる作品集です。紹介した作品は小品ながら、なかなか鋭い視点をお持ちになっていると思いました。最終連の感覚は素晴らしいですね。すでに散ることを知りながら咲く「こわいほどに美しい花達」。生の無情、美の根源を捉えているフレーズだと思います。
 同じ作者で「うさぎ」という作品もありますが、こちらは押し寄せる白波を「ピタと背中につけ」た兎の耳として描いたものです。映像的な作品が多いようで、絵描きさんかもしれませんね。



野田和子氏詩画集『月を招いて』
tsuki wo maneite
2000.10.10 愛知県半田市 (株)ヤマト制作 3000円

 A4横組の美しい画集です。副題に伊勢型紙「源氏物語絵巻」詩画集≠ニあります。伊勢型紙について著者は「あとがき」で次のように述べています。

<ところで伊勢型紙とは、和紙を柿渋で加工した独特の型地紙です。千余年の古い歴史を持つ優れた伝統工芸で、伊勢地方、特に三重県鈴鹿市白子を中心に発展しました。元々は友禅、江戸小紋、浴衣などの型染め用のものですが、近年は美術工芸面で六名の人間国宝を輩出しました。三枚の和紙を柿渋で貼り合わせ、天日乾燥と燻煙を繰り返し、約一ヶ月程かけて仕上げます。キレ味がよく腰が強く丈夫なので、彫刻刀や錐などで精緻な彫りが出来ます。私はこの特性を生かして「源氏物語絵巻」に挑戟しようと思ったのです。>

 文字通り特殊な型紙を加工して「源氏物語絵巻」を再現したということでしょうか。図鑑などで見慣れた源氏とは違って、細部まではっきりとした絵が描かれています。著作権の関係もありますので、その絵をここで再現できないのは残念ですが、おおもね上記表紙のような感じだと思ってください。
 そういう源氏の再現というのは、あるいは多くの人がやっているのかもしれません。しかし、この詩画集のすばらしい点は、再現したご自分の絵にご自分で詩を付けているということです。これはおそらくどなたもおやりになっていないのではないでしょうか。一例を紹介します。「橋姫」の段の絵が再現され、その下に次のような説明があります。

<宇治の山荘の姫君たちが月を見て合奏しているのを薫が垣間見してその美しさに心ひかれる。揆を手に月を招き寄せるしぐさの中君、筝をひく大君。>

 この詩画集のタイトルにもなっている場面で、次の頁には以下のような詩が添えられています。

 月を招いて ----「橋姫」によせる----

たわむれに
象牙の挨で月を招いたら
月はしずしずと下りてきて宴の席に

山荘は澄みわたった明るさに輝いた
さあ筝を弾きましよう 琵琶をかき鳴らしましよう

いつも山荘は閉ざされている
降りつもる雪の重さに
無情な篠つく雨に
幾重もの霧の羽二重に
遠いみやこを吹く風に

いつもは心をいらだたせる川の音も
高らかに合奏する
けものたちの遠吠えのしのびやかな間奏
秋風のひと刷きは
ひとびとの結ぼれ心を解いていく

この時の
白玉のかがやきを
決して忘れないでしよう

 千年の時を越えた文芸の、現在との出会いと申しましょうか。「橋姫」という絵、物語への見事な感情移入だと思います。日本の代表的な古典文学を、このように現代の私たちの手元に引き寄せてくれたお仕事に敬服しています。源氏好きなら一度は見て、読んでいただきたい一冊と思います。



   back(1月の部屋へ戻る)

   
home