きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2002.4.6(
)

 日本詩人クラブの第6回現代詩研究会が開催されました。今回は作品研究会ということで、希望者の作品について論評し合いました。たまたま日本現代詩人会のゼミナールとかち合っていて、ちょっと参加者が少なかったのですが、語弊がありますけどそれが幸いしたように思います。じっくりと話し合えました。

020406
講師・三田洋、佐久間隆史両氏を中心に。

 いつもなら作品が20編近くになって、下手をすると1作品あたり5分ほどしか時間がとれないということになるのですが、今回は8編、1作品あたり15〜20分もかけることができました。今日来た人は得したなと思いますね。お互い、納得できるところまで話し合いができたろうと思います。そのせいではないでしょうが、毎回、作品の質が向上してきているようにも感じました。
 会に先だって、時間があったので高田馬場の古書フェアーに行ってきました。いい本を見つけましたよ、『小高根二郎全詩集』。伊東静雄研究には欠かせない小高根氏の詩集です。私はまったく持っていませんでしたから、うれしかったですね。さらにうれしいことに、1989年初版6000円が、たったの500円! 本屋のオヤジさんは価値を知らないんでしょうか。でも、儲けた、という気持と同じに、詩はやはり本屋のオヤジさんでも知らない世界になっちゃったのか、と複雑な思いもしましたね。



弓田弓子氏詩集『猫もうしろむき』
neko mo ushiromuki
2002.3.30 茨城県龍ケ崎市 ワニ・プロダクション刊 1500円+税

 すみませんが

ここ通してくださいちよっと通してください
すみませんが
この花束ふたつください 仏さまのですよね
数知れないきまり事そこここに
やまづみされていますから
なんにも見えないところに
なんどもなんども花束ささげて道を
つくっているのでしようか だれの道だか
なんの道だか
きまり事たどっているうちに
わかってくるというのでしょうか
咲ききったはなびら密集してなんと
重たい花束

ここ通してくださいちよっと通してください
すみません その赤い魚一匹ください
それ鯛ですよね 焼いたほうがいいですか
煮たほうがいいですか
すみませんね けっこう長いこと
生きてきてなにも知らなくて
ウロコはがしてハラワタ抜いてください
じぶんでできないこともないですが ウロコかぶり
ハラワタまみれになってしまいますので 若いころ
海にもどりたくて泳げもしないのに
ざんぶりやってしまいまして つまり
助けてもらったのが 鯛氏と
いうことで ウロコ関係といいますか
ハラワタつづきといいますかよけいなおしゃべりで
すみません 鯛が
ちらちらとこちらを見ておりますから
魚だった遠い時間がハラワタやウロコとともに
おもいだされます

ここ通してください 生きたにんじん
買いにきたのです すみませんが先日買ったにんじん
死んでいましたので
それがいいです 月桂冠のせた
息はずませている
マラソンランナーのような にんじん
生きていたとか死んでいたとか
庖丁あてるのがおそろしくなってきました といっても
生きたにんじんたべます 月桂冠
水栽培して あおあおしてきたら
煮てたべます あるいはなまで
ばりばりと

 難しい言葉は一切ありませんけど、難しい作品だと思います。場所の設定はスーパーマーケットか市場でしょうか、主婦とおぼしき作中人物が「すみませんが」と繰返して混雑した通路を進む姿が目に浮かびます。そして「咲ききったはなびら密集してなんと/重たい花束」と腕に感じて、「すみませんね けっこう長いこと/生きてきてなにも知らなくて」とここでも謝りながら「ウロコはがしてハラワタ抜いて」もらう。でもちゃんと「生きたにんじんたべます」し、「月桂冠/水栽培して あおあおしてきたら/煮てたべます あるいはなまで/ばりばりと」たべます。それらすべてが「すみません」なのかもしれませんね。
 「すみません」と言いながら、ちゃんと食べるものは食べるということへの非難ともとれますが、やはり著者の中ではモノへ対しての「すみません」なんでしょうね。「数知れないきまり事」への不満や「海にもどりた」いけど結局戻れなかったことへの悔恨という見方もできるかもしれません。提示された著者の世界を、読者が如何様にも使いなさい、と言われる詩集のように思います。



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