きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科 |
2002.4.13(土)
日本詩人クラブの3賞贈呈式が神楽坂エミールで開催されました。本年度の3賞は、第35回日本詩人クラブ賞に冨長覚梁氏詩集『そして秘儀そして』、第12回日本詩人クラブ新人賞に網谷厚子氏詩集『万里』、そして第2回詩界賞には松田幸雄氏訳詩集『鳥と獣と花』(D・H・ロレンス)に贈呈されました。
左より冨長覚梁、網谷厚子、松田幸雄の各氏 |
日本詩人クラブ賞、詩界賞は選考委員全員一致、新人賞は4:3の僅差であったと聞いています。私も経験がありますけど、やはり新人賞の選考というのは難しいものですね。ここのところ、しばらく4:3が続いたと思います。
出席者は120名ほど。新聞社、雑誌社の取材もあってなかなか賑やかでしたよ。私の今回の任務は、網谷さんに詩人クラブからの花束を渡すだけでしたから気楽なものでした。理事の任期はあと1年。そのあとは2年間の無役が会則で決められていますから、そうなればもっと気楽になれます。今から楽しみ、なんて書くと関係者からお叱りを受けるかな?
○詩誌『展』56号 |
2002.4
東京都杉並区 菊池敏子氏発行 非売品 |
春/山田隆昭
四月の大気は肉厚で
鳥の羽ばたきも重い
猫が いやにくねくねと歩いている
からだの芯が溶けてゆくから
花に鎚ってきみに逢いにゆく
風の塊がいくつも通りすぎてゆく
壊さないように
そっと押しのけ
あるいはかき分けて歩く
どこに隠れていたのか
こんなに多くのひとが
街にあふれる同じ造作の顔たち
風景がゆるんで
坂道はとても危ない
ずるり と
すべてのものがずり落ちそうだ
湿り気を含んだ空気に支配されて
街のいたるところ
水滴がびっしり張りついている
歩くたび 道に足跡が残る
この季節に完全犯罪をもくろむな
感覚というものは人によってずいぶん違うものだということは、50年も生きてくれば判っているような気になっています。しかし、この作品を拝見して、そんな私の思い以上に感じ方が違うということを教わりました。山田さんは第47回のH氏賞詩人ですから、詩人の中でも特別感覚が鋭いのかもしれません。
「大気は肉厚」「鳥の羽ばたきも重い」「すべてのものがずり落ちそうだ」「湿り気を含んだ空気に支配されて」「歩くたび 道に足跡が残る」。春を表現するのに、よくもまあ、これだけ並べられるものだと感心してしまいます。私ならもったいなくて、これで5〜6編の詩をみみっちく作りますね^_^; その辺が違うんだろうなと思います。際限なく出てくる言葉に、敬服と言うよりは完敗ですね。
おそらく主題は「花に鎚ってきみに逢いにゆく」「この季節に完全犯罪をもくろむな」あたりにあるのだろうと邪推しています。巧妙に隠している作品なのかもしれません。まだまだ足元にも及ばないなあ、勉強させていただきます。
○詩誌『』13号 |
2002.4.1
埼玉県所沢市 書肆芳芬舎・中原道夫氏発行 500円 |
須走バス停留所にて/忍城春宣
バスが雪にはまってちっとも来ない
須走坂下のバス停留所で
幼児が祖母に話の続きをせがんでいる
昔話を小出しにしながら
老女は道路をのぞいては
時刻表を確かめている
真向かいの万屋(よろずや)の煙出し口から
七草粥のにおいが立ちのぼる
軒先の雪の積もった犬小屋の屋根のうえで
柴犬が重い灰色の空にむかって
気怠(けだる)そうな遠吠えを繰り返している
吹雪のなかを肩をすぼめながら
家々から松飾りや注連(しめ)飾りを集める子どもたち
集め際にいただいた駄賃を手際よく
係の下級生が小袋にしまいんでいる
この少年だけが独楽鼠(コマネズミ)のようにはしゃいでいる
「須走」とは静岡県駿東郡小山町内の地名で、富士登山口の一つになっている町です。私事ですが、私の実家は小山町に現在もあって、千冊ほどの私の書籍も置いてあります。小中学生の頃には自転車に乗って、須走にもよく遊びに行ったものです。ですから「須走バス停留所」の情景はよく理解できます。
まあ、作品鑑賞の上でそんなことはどうでもいいこどですけど…。
よく観察しているなと思います。第2連などは「老女」の心理が手に取るように判りますね。そして最終連の「この少年」。ドンド焼きの祝儀集めでしょうか。おそらく子供会の行事でしょう。それを見ている作者のあたたかい眼差しを感じます。雪の降っている日ながら、詩人の観察を通じて、私たちにも市民のおだやかな生活を感じさせてくれる作品だと思います。
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