きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2002.6.28(
)

 新製品開発にからんで、15時から17時まで関連会社の技術者を迎えて打合せをしました。それは予定通り順調に終ったんですが、お客さんを送り出したあと、研究者から残るように言われてしまいました。うちの社内メンバーだけで急遽打合せをしたいと言うのです。えっ! そんなこと聞いてないよと抗議しましたけど、駄目。結局19時まで連続4時間の打合せになってしまいました。
 まあ、意義のある会議だったら良かったけど、突然はやめてほしいものです。夜の予定がなかったから良かったものの、予定のある日なら困りものです。そうなったら結局は仕事の方を優先しますけど、気分は最低だろうな。良いアイディアも浮かばなくなるというものです。でもまあ、億の単位の儲けになるから、やっぱり必死になるかな^_^;



総合文藝誌『金澤文學』18号
kanazawa bungaku 18
2002.7.20 石川県金沢市
金沢文学会・千葉龍氏発行  1500円

 天使のポケット T/池田星爾

夜の九時になると
船は浮力を切り離されて沈み始める
安らぎと不安、孤独と希望の深海へ
魚達は海底で息を潜める
くしゃみの泡が一つ
水圧の澱みを破ってはじける

いざり魚がトイレにゆく
その脇を白いイルカが追い越した
長いリノリュームの床の上を
両脇のポケットを手で仰えながら
呼んでいる患者
(ひと)の元へ翔けてゆく
右のポケットには聴心器
左には足音が仕舞ってある
飛び出さないように気配りながら
廊下の曲がり角で
ちらっと翼を翻して
   (有松中央病院にて)

 「池田星爾小詩集」として収められている8編の中の1編です。入院中のことと思いますが、観察力のある作品だなと思いました。私も怪我で何度か入院した経験がありますけど「船は浮力を切り離されて沈み始める」というのはまさにその通りで、うまい表現です。「いざり魚」「白いイルカ」もよく解りますね。白衣を翻して急ぎ足に歩く医師の姿もよくとらえられていて、緊張感が伝わってきます。何気ない一瞬を詩人の眼で切り取った佳作と言えましょう。



詩誌『都大路』31号
miyako oji 31
2002.6.25 京都市伏見区
「都大路の会」末川茂氏発行 500円

 サポートセンター/中野輝秋

パソコンが悲鳴をあげ
すっかり固まってしまった
これは <フリーズ> という状態で
素人には手に負えないものらしい
仕方なく
サポートセンターに問い合わせると
----フリーズですね と
復唱され
----電源をお切り下さい と
引導を渡された

突然 姿さんが倒れ
救急病院に但ぎ込まれると
医師は定められた手順で脈をとり
眼孔に光をあて終え
----お気の毒ですが と
婆さんの八十七年に
幕を引いた

たしか パソコンを買ったときに付いてくる
分厚いマニュアルのどこかのページに
『フリーズ時の対処法』とあって
  システムが停止した場合は
  無闇に触れずに至急
  サポートセンターにお電話下さい
と書かれていたが
受話器の向こうから返ってくる言葉は
穏やかな死の与え方だけであった

 「サポートセンター」も「医師」も「穏やかな死の与え方」しか言わないという作品ですが、言外に抗議の意図を感じるのは読み過ぎでしょうか。「パソコン」と「婆さん」を同列に扱うことはできませんけど、「----電源をお切り下さい と/引導を渡」すサポートセンターと「婆さんの八十七年に/幕を引」く医師も根は同じではないか、と作者は言っているように思えてなりません。
 「サポートセンター」がサポートの役割をしていないことへの憤りが発端となった作品でしょうが、現在の社会の矛盾を突いた作品であるとも思いました。



美濃千鶴氏詩集『人柱』
hitobashira
1989.7.1 大阪府交野市
交野が原発行所刊  800円

 汚点

電車の窓に
汗のひきはじめた顔を押しつけると
ガラスにあぶらがついた
冷房が水分を奪い
全力で走った汚れだけが
残ったのか
罪のように
ぬぐおうとしても
鈍く光ってせせら笑うばかりで

見知らぬ人々の
手の 鼻の
額の 頬の
あぶらが
私の、俺の
今日の汚点ですと
ガラスに陳列されている

無色透明のガラスだから
見えるだけなのだ
どれだけ多くの
見えない場所に
避け得ない汚れをなすりつけて
人は生きていることだろう


汗と湯気と石けんが
すえた臭いとなって
浴室に広がる

あの電車は私の汚点をのせたまま
まだ走っているのだろうか
ふいに天井へむけて
シャワーを浴びせると
ほこりまみれの雫が
白い裸体の上に
日本列島を描いた

 著者の第一詩集です。何と19歳のときというのですから驚きます。19歳で立派な本になっている詩集を出版し、しかも立派な詩になっている。紹介した作品をご覧いただければそれは理解してもらえると思います。着眼点のおもしろさ、展開の見事さ、最終連のまとめ方など19歳でここまでやれるとは…。
 年齢にこだわる必要はまったくないんですけど、ついつい自分の19歳と比べてしまいますね。私も19歳のときは生涯詩らしきものを書いていこうと決めていましたが、ここまで完成された作品は作り得ませんでした。私の仲間たちも同じです。もっと幼いものしか書けなかったなあ。「どれだけ多くの/見えない場所に/避け得ない汚れをなすりつけて/人は生きていることだろう」というような、いわば哲学的な発想までには至りませんでしたね。
 著者はこの後10年間で計3冊の詩集を出して現在に至っています。3冊の詩集を拝見して成長の軌跡を辿ることができました。これからの日本の詩壇を背負っていく詩人と言っても過言ではないでしょう。その出発点とも言うべき詩集です。



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