きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2002.9.3(
)

 家内の叔父が亡くなって、通夜に行ってきました。享年75歳、ちょっと早いという気がしますが、与えられた命ならやむを得ないのかもしれません。日頃から目立たない人でしたので、通夜も淋しいものになるのではないかと予想していたのですが、驚くほどの人が来てくれました。ざっと見て200人ほどでしょうか。家内は、面倒見がよくて誰にでも好かれる人だったからでしょうと言っていましたから、その通りなのかもしれません。
 さらに驚いたことに、弊社の某部長が受付の後で金勘定をしていました。おそらく組内の関係なのかなと思いましたが、部下を怒鳴り散らすことで有名な部長が、真剣に金勘定をしている姿に一種の感動さえ覚えました。弊社工場の部長と言えば、300〜400人の部下を有する、ちょっとした会社の社長にも匹敵する権力を持っています。やろうと思えば部下を差し向けて代理とすることも出来るだろうに、それをせず、自ら千円札を一枚一枚数えている姿に、日頃の言動とは違う面を見た思いがしました。部下から鬼のように嫌われる彼の、本当の姿なのかもしれません。翻って弊社の経営陣への信頼も篤くした通夜でした。



新・現代詩文庫7『小島禄琅詩集』
kojima rokurou shisyu
2002.9.22 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊
1400円+税

 著者は1937年20歳頃から詩作を始め、24歳で『春の蛇』、32歳で『母の居なくなった家』(共著)という詩集を出しています。しかし1957年40歳のときに「職務上、監督責任が加重し、体力的に職務と文学活動の両立が至難となったため」文学活動を休止しました。そして1984年67歳で地方公務員退職後の民間団体も退職して、文学活動を再開したという異色の詩人と言えましょう。30年近いブランクをあえて受入れる、かつ、そのブランクを乗り越えて再開できるという信念に圧倒されました。事実、溜りに溜った詩心を吐き出すかのように1990年には『海を越えた蝶』(少年詩集)、『運河沿いの道』を続けて刊行し、1992年には『地球が好きだ』(童謡詩集)、1994年『指』と旺盛な刊行を成し遂げています。

 母の居なくなった家

低い小さな屋根は花ばかりになった菜の花の中にあった
その花群ではいちにち蜜蜂のうなりの絶えることがなかった
ゆるい南の風に送られて
ときどき蝶もやってきた
そして狭い庭先では
わずかばかりの乾物が風にひるがえった

ゆうぐれ
母は花菜のあたりへ出て
食器をきゅっきゅっと洗った
厨房からは
味噌汁の親しい匂いや
ときにはいわしを燒く匂いもした

おそはるがきて
母の額は妙に蒼白く沈んでみえた
その肩には
重い何かが懸っているようだった

あれから菜花は幾度も咲き
蝶も飛んできたが
いつからか家には母が居なくなった
だが ゆうぐれの厨房には
むかしのままにほのかな野莱の匂いがただよい
ひっそりと動いていた母の肩が
いまもありありと残っている
あちらむきのその背に
あたたかい味噌汁の香りなどしみつかせた
一つの影が----

 紹介した作品は第二詩集『母の居なくなった家』の標題作です。著者18歳で亡くした母上への思いが、切々と伝わってくる作品だと思います。「味噌汁の親しい匂い」というフレーズに、生涯変らない著者の原点を見た思いがしました。家族、友人を主にうたいあげた作品が多く、長いブランクの必要性、それを乗り越えられる力の源を訴えてくる文庫とも言えましょう。小島禄琅研究必携の書と思います。



詩誌『帆翔』27号
hansyou 27
2002.8.30 東京都小平市
《帆翔の会》岩井昭児氏発行 非売品

 命/大岳美帆

雨上がりの草むらに
顔を突っ込んだ飼い犬が
その頭に可愛いアクセサリーを
くっつけてきた
五ミリにも満たない
乳白色の赤ちゃんカタツムリ
米粒ほど小さなくせに
ちゃんとカタツムリの姿をして
犬の短い被毛にしがみついている

カタツムリの子は
しばらく犬の頭を飾っていた
同じミニサイズでも
マダニの赤ちゃんがつこうものなら
即座に振り払われるものを

小さな命
何の役割を負って生まれてきたのか
生かされるものと
振り払われるものと

 犬好きや猫好きには「同じミニサイズでも/マダニの赤ちゃんがつこうものなら/即座に振り払われる」ということは理解できると思います。我が家にも室内犬がいて、状況はまったく同じです。ただ違うのは「何の役割を負って生まれてきたのか」とまでは思わないことです。そこにこの作品の深さがあると思いました。「何の役割」かは神のみぞ知るということでしょうが、詩人として、人間としてそこまで考え至っている作者に敬服しました。



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