きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2002.9.7(
)

 日本詩人クラブの現代詩研究会が神楽坂エミールで開かれました。今回は女性詩人についてのシンポジュウムで、米澤順子・慶光院芙沙子・滝口雅子が取り上げられました。パネリストは原田道子、北岡淳子、白井知子の各氏、コーディネーターは三田洋氏でした。

020907

 取り上げられた3人は、パネリストの好みのようで特に関連はありません。時代もちょっとずつ違っていて、二人がすでに亡くなっています。作風も違いますから、共通点を探すのは難しいことだったろうと思います。女性詩という観点で論じられたのですが、やはりバラバラという印象はありましたね。でも、それはそれとして論じてみようではないか、と事前の打合せがあったようですから、問題ということにはならないでしょう。
 個人個人の女性詩人としては魅力ある人たちだったのではないかと思います。特に慶光院芙沙子は日本詩人クラブの会員でもありましたから、その面でも興味深かったです。作品としておもしろいのは滝口雅子かな。「男について」という有名な詩があるんですけど、私も久しぶりに見ました。機会があったらぜひ見てほしいですね。



詩誌『馴鹿』31号
tonakai 31
2002.8.31 栃木県宇都宮市
我妻洋氏発行 500円

 見えない聞こえない。だから……/和氣康之

カブールには行ったことのない
ニュースキャスターが
美しい声で
現地の取材記者とやりとりしている

わたしは画面に見とれている
かえってくる応えに
瞬時の永い空白があって
今をとおいものにしている

ガレキを這う風のにおいはしない
焼けただれた砂の悲鳴はとどかない
どれが天使の祈りか
どれがサタンの囁きか
ほんとうのところ判らない
そもそも〈正義〉とは……

ニュースキャスターの
美しい声がやむと
画面には
子をかばう猿が立ちふさがり
世界遺産の森ふかく
間引きの銃声がひびく

 以前は海外との電話は間延びしたものでした。海底ケーブルを延々と伝わってくる音声には遅れがあって、それを計算しないと会話が成立たないという状態でしたね。今から20年ほど前の話です。現在では衛星通信が発達したせいか、そういうことはほとんどなくなって、国内と通話しているような感覚になっていると思います。最近、業務で海外と通話することがなくなりましたので、自信を持って言うことはできないのですが、10年ほど前に個人輸入をやっていた頃はかなり改善されていましたから、たぶん間違いないと思います。
 そんな現在でも、確かに「瞬時の永い空白があ」りますね。「カブール」を始めとする開発途上国が多いように思います。文明の格差を「今をとおいものにしている」というフレーズにも感じます。うまい表現をしているなと思いました。
 やはり圧巻は最終連ですね。「間引きの銃声がひびく」というフレーズにも心を動かされますが、「カブール」に立ちかえると、アフガンの戦争≠サのものも「間引き」ではないのかとも考えさせられます。「カブール」という一文字でしか表現していませんが、それは時代と場所、背景をすべて表現し切っていると思います。感情を抑制し、見事に構成された作品だと思いました。



鬼の会会報『鬼』363号
oni 363
2002.10.1 奈良県奈良市
鬼仙洞盧山・中村光行氏発行 年会費8000円

 目隠しした鬼瓦
 近鉄の長谷寺駅を降りますと、初瀬川ぞいに長谷寺の参道があるのです。川が寺にむかって大きく左折し、参道も同じように左折して、正面に仁王門が見えます。曲がる直前の右側に、法起院があるのです。この寺は長谷寺伝説の徳道上人が隠棲した寺ですが、ここの鬼瓦には、目隠しをしてあります。鬼面瓦に睨まれる家は出世せぬゆえ、鐘馗瓦を置く例はあるものの、鬼に目隠しはありません。
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 連載「鬼のしきたり」の一文です。『鬼』誌を読み始めて鬼瓦にも興味を持つようになったのですが、目隠しをした鬼瓦というのはまったく知りませんでした。それも「鬼面瓦に睨まれる家は出世せぬ」という理由とは驚きです。外敵から守るための鬼瓦が家の出世を妨げるという発想もユニークですが、それに目隠しをするというのは、とてもおもしろいと思いました。人間の思考のフレキシブル性をも感じさせる文章です。



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