きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2002.11.9()

 日本詩人クラブ11月例会が神楽坂エミールで開催されました。日本詩人クラブ新人賞受賞者による恒例の「私の詩の現在」は、第5回受賞者・徳島の清水恵子さんにご講演願いました。対論は「新鋭詩人による現代詩展望」と題して、橋浦洋志氏・白井知子氏による「科学・環境・人類をめぐって」と川中子義勝・網谷厚子氏による「命・地球・未来をめぐって」。コーディネーターはいずれも森田進氏。

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コーディネーター・森田氏   橋浦氏        白井氏

 短い時間の中で2つのテーマを扱いましたから、ちょっと無理があったかもしれませんが、それなりに深まった対論になったと思います。詳細は1月31日発行の「詩界通信」13号に載せますから、そちらをご覧になってください。



個人誌Moderato18号
moderate_18
2002.11.25 和歌山県和歌山市
出発社・岡崎葉氏発行 年間購読料1000円

 晩夏/いちかわ かずみ

椰子の木の街路樹はどこまでも続いている
亜熱帯の風が葉先を揺らしている
台風が近づいているせいだろう
海は白い波頭が目立つ
それでも
輝きはエメラルドだ
コバルトブルーの空が見たかったが
今の青さは季節の終わりを感じさせる
灼熱の夏に会いに来たけれど
少し遅かったようだ

地面にしがみつくような
大地をわしづかみにするような
阿檀の木の気根を見た
ホテルの庭でも
街路樹でも
当たり前のように伸びていた
気の毒なのはホテルの椰子の木
巻きつけられた
イルミネーションのせいで
消灯までは眠れないだろう

沖縄の空も東京の空も
今日は私の頭上で同じ色をしている
でも
「さあ頑張るぞ」と思う沖縄
「暑いだろうなあ」と溜息をつく東京
止まったままのようでも
わずかに進んでいる日常

強い風が吹くと季節は呼び寄せられる

 「イルミネーションのせいで/消灯までは眠れないだろう」というフレーズに惹かれました。樹木に対する作者の愛情を感じます。第3連では「わずかに進んでいる日常」というフレーズに、作者の敏感さを感じます。最終連もいいですね。言語感覚の確かさを感じました。「晩夏」というタイトルとマッチした佳作だと思いました。



詩誌『燦α』詞華集VOL.2
san alpha 2002
2002.10.1 埼玉県さいたま市
燦詩文会・二瓶徹氏発行 500円

 春風/さたけまさこ

二才になろうとしている姪が
わたしの手を取り
庭を歩く

いぬふぐり ハコベ
水仙 椿 つくし たんぽぽ
庭は春の贈り物で益れ
彼女の手のぬくもりが
わたしの指に伝わってくる

風もあたたかい
彼女のやわらかな髪が風にゆれ
とことこと歩く姿が愛らしい

わたしは年をとった
あんなに近かった地面から遠くなり
空には近くなったけれども

少しさみしいが
ちよっぴりうれしいのだ
かわいい花を避
(よ)けて歩ける
そんな自分が

今ならば
今ならばわたしにもと思う

春風よ
再びこの胸の中に

 人間の身体的な成長を「あんなに近かった地面から遠くなり/空には近くなった」としているのがいいですね。「かわいい花を避けて歩ける/そんな自分」というフレーズでは、精神面での成長を知ることができます。「姪」を通しての成長の過程を語る佳作だと思います。



詩誌『燦α』18号
san_alpha_18
2002.12.16 埼玉県さいたま市
燦詩文会・二瓶徹氏発行 非売品

 ゆうぐれ/ぷらちな銀魚

西の空が
薄紅色に染まる

籾がらを焼く香りが
辺りにただよい
懐かしさが胸に広がる

紅葉の山は陰のように
黒みをおびて横たわり
この盆地を抱いている

幼い日
こんなタ暮れの中
弟と一番星を捜しながら
家路を急いだ

東の空を振り返ると
そこには
あの日より
少し
寂しげに輝く
一等星

夕焼けが消え
闇が広がった盆地に
籾がらを焼く朱い火が
ちらちらと
ひとつふたつ見え
想い出のような煙りが
いつまでも
立ちこめていた

 穏やかな中にも郷愁を感じさせる作品だと思います。「あの日より/少し/寂しげに輝く/一等星」というフレーズに作者の力量を感じます。二度出てくる「盆地」もイメージの助けになり奏効していると思います。構成もきちんとしていて、さすがは巻頭詩だと感心しました。



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