きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2003.1.4()

 終日いただいた本を読んで、HPにアップして過しました。至福の時間です。こういう時間を1ヵ月でも持てれば、言うことはありませんね。



葵生川玲氏詩集『葵生川玲詩集成』
現代詩ベストセレクト(1)
aoigawa rei shisyusei
2003.1.26 東京都北区 視点社刊 3000円+税

 背番号論



590292445
この番号は何だと思いますか
535354338
この番号は?
743652265
ではこの番号は?

区役所から郵送されてきて始めて知った
家族の背番号なのです
最初のが僕
次のが妻
最後のが一歳の息子

区役所は整理番号と言っていますが
一体何を整理するのでしょうか
人間を種類分けするのでしょうか
例えば
ランクA・Bとか
色分類とかするのでしょうか

いまコンピューターは
フル回転で記憶しています
番号ズレの考えている
小生意気な思想や性癖
学歴や特技
宗教や職業
病歴や家庭環境
その他もろもろのデーター



地球一九××年
多分 僕は生きているでしょう
平均寿命とやらによれば

そして 顔写真と番号のついたカードを
持って歩るくことになるでしょう
大事そうに
妻も息子もそうなるでしょう
他の人もすべて

カードが無ければ外に出られないのです
無いものすベてが
犯罪者と見なされるのだから

コンピューターの許可が出ない者に

人口が増え過ぎ間引くときも
手間はかかりません
戦争が始まっても
もう逃げ隠れはできません
抹消するのは
機能だけで生きているコンピューター

抹消されそうな者は
せっせと巨大な機械を磨いて
ご気嫌を取らなければ生き残れないでしょう

勿論のこと
カードを考え出した者らは
特例番号カードを持って何処へでも
フリーパスだ

 1975年『ないないづくしの詩』、1979年『冬の棘』、1982年『夕陽屋』、1987年『苦艾異聞』、1992年『時間論など』、1999年『初めての空』などの既刊詩集、そして未刊詩集『モナルカ』のほとんど全編を収めた「詩集成」と言えましょう。1頁2段組、236頁に渡る大冊です。
 紹介した作品は第一詩集に収められていました。作品を読んで、これは2002年、2003年のことではないかと錯覚した人も多いのではないでしょうか。もちろん今から28年前、1975年の詩集の話なのです。作品の成立を考えると30年前と言っても良いかもしれません。実はその頃から画策していたのですね、住基ネット。30年前の危惧が現実になった今、この作品の持つ意味は多いと思います。
 一番紹介したかった作品は第五詩集『時間論など』に収録されている「場所」という詩です。2段組で8頁に渡る長編詩ですから、ここでの紹介は控えましたけど機会があれば読んでほしい作品です。靖国神社を真正面からとらえた詩で、行ったことのない私はかなりの衝撃を受けました。なぜ靖国神社が軍国神社なのか、なぜ韓国や中国の人達が反発するのか、なぜ大方の日本人は内実を知ろうともしないのか、それらの回答が文学という形で示されていると思います。著者は多くを語らず、事実を淡々と述べています。そこから読者が何をつかみとるか、それが提示されている作品と言えましょう。
 葵生川玲という詩人を知る上では恰好の一冊です。ご一読を薦めます。



詩誌『飛揚』36号
hiyou 36
2003.1.7 東京都北区
葵生川玲氏発行 500円

 死ねない兵士/みもとけいこ

一九四五年七月十五日知覧から特攻兵として
飛び立ったハルおじさんは敵艦ミッドウエー
の側面に見事激突して死んだ

一九四五年終戦の一ヵ月前敵機を偵察中だっ
たハルおじさんは そのまま知覧には帰って
来なかった

  <海軍の整備兵だったのに どうして飛
  行機に乗っとったんかいのう>

ハハの話は聞くたび違う ハハの記憶は急速
に歪んでゆき 捩じれた空をあてどなく飛び
つづけるハルおじさん 戦争が終わったとい
う知らせがハルおじさんに届いただろうか

  <まだまだジャングルのなかに終わらな
  い戦争を戦いつづけている兵士がいる>

ハルおじさんの戦争はまだ終わっていなかっ


二○○一年九月十一日 朝 突然ハルおじさ
んが操縦する旅客機がニューヨーク上空に現
れたのだ

大きく飛行コースを離れた旅客機 その時す
ぐに私にはわかった あれはハルおじさんだ
と ハルおじさんが 何をしようとしている
のかも

  <おじさん そこは海じゃない それは
  ミッドウエーじやない>

いや やはりあれは戦艦ミッドウエーだった
のだ あの時崩れ落ちた《世界貿易センター
ビル》という名前の船

  <あの船を静めよ あの船が私たちをさ
  らに貧しくさせる>

生きる場所は地上にはない 恐怖心は痺れて
しまい 《任務》だけが心を 地上にはない
明日へと導く

二○○一年九月十一日の死者のリストに ハ
ルおじさんの名前はなかった それでも死ね
なかったおじさん ハルおじさんまた ハハ
の記憶の歪んだ時空を旧式の戦闘機に乗った
まま彷徨い続ける ハルおじさんの戦争は終
わらない

世界は疑心に満ちていて ハルおじさんは今
も敵機を偵察中だ 《任務》を察知するやい
なや 自らを <弾> にして飛び込むのだ

最後の兵士が帰還するまで

 今号の特集は「新しい戦争」です。やはり9.11をモチーフにした作品が多くありましたが、紹介した作品はその中でも視点が違っていて、特筆すべきものだと思いました。「ハルおじさん」の存在感が生々しいし、いわば狂言まわしの「ハハ」の置き方も見事だと思います。もちろん現実とは違いますが、ああ、9.11というのはそうものだったのだ、という納得ができる作品です。生身の人間ではなく、人類の歴史の結末、人間の遺伝子の活動の結果として9.11が起きたのだと納得できるのです。世に9.11を題材とした作品は多くありますが、このような視点は初めてだろうと思います。



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