きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2003.1.15()

 本来なら成人の日の祝日なんですが、今年は13日でしたね。長い慣習で休んでばかりいた日ですから、出勤すると不思議な感覚にとらわれました。まあ、3連休だったから文句も言えないわけで、どちらが良いと簡単に言えませんけど…。そんなことが時々頭をかすめながら一日が過ぎていきました。



竹内正企氏詩集『満天星』
tsutsuji
2002.12.1 大阪府豊能郡能勢町 詩画工房刊
2100円+税

 杉丸太

杉が植樹されて三十年ぐらい
一度も間伐されず たてのばされている
枯れ枝が幹からブラシ状に出て 空がない
欝蒼とした木下闇をつくっている
梟か蝙蝠の住みかだろう
地面は草も生えす聞砂漠だ
先端の梢だけが緑で 光を求めて伸びていく
緑の部分が少ないだけ根張りがない
背伸び競争に負けると下木になって立枯れる
勝ち残った木も細長くて節だらけ
錢にならぬものは捨てぼかされた
輸入材に負けてしまった杉丸太
今さらどうにもならぬモヤシ木だ
植林ばかり励めて緑をつくったが
材木をつくれなかった。

やがて酸性風雪雨で森林ごと崩壊する。

 著者は琵琶湖の湖畔で農業を営んでいるようです。他の作品からもともとは林業もやっていたことが窺えて、紹介した作品はその一環だろうと思います。戦後、すぐに建築材になるということから杉の植林が奨励されましたが、結果は「植林ばかり励めて緑をつくったが/材木をつくれなかった」ことになったわけです。
 森の様子が的確に表現されていて、さすがは林業を知っている人だなと思いました。それだからこそ「やがて酸性風雪雨で森林ごと崩壊する」という最終連が出てくるのでしょう。詩人が見た日本の森、教えられることの多い詩集です。



詩誌『あにまる・ラヴ』10号
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2003.1.20 神戸市北区
あにまる・ラヴ舎 笹野裕子氏発行 500円

 花火/魚村晋太郎

海苔の佃煮をサランラップに包んで
それを舐めながら公園で罐チューハイを飲む
アイスクリームのうすい木の匙

この公園には鳩が多くゐて
普段弁当を食べるときなどは
沢山の鳩が足元まで寄せてきて、とても
嫌な気持ちになる

 弁当を分けてやるのが嫌といふより
私のささやかな食事が
大勢の鳩たちの期待を一身にあつめてゐることに
耐ヘられないのだ

でも今日は
サランラップに包んできた
ひと掬ひの海苔の佃煮を舐めながら
罐チューハイを飲んでゐるだけなので
寄つてきた鳩たちも
何となく待つてはゐるものの
何を期待したらいいのかわかつてゐない

さうだ、鳩たちにとつても
今日は何を期待したらいいのかわからない
といふ自覚をもつことは
きつと大切なことだとおもふ

時折雀も来るが
雀たちの脳昧噌は小さくて
待つことに慣れてゐない

今、ここにあなたが来たら
私は佃島の話をするだらう
十七世紀に築かれた
江戸湾に浮かぶ小さな人工の島のことを

ふたりでその島に住んで
隅田川の花火を眺めるんだ、と
海苔の佃煮を包んだ
サランラツプを丸めて
上着のポケットに隠しながら

 今号のゲストの作品です。旧仮名を遣っていますから年配の方かなと思いましたが、プロフィールを見ると結構若いんですね。まだ30代の方のようです。旧仮名を頑固に遣っている方、例えば作家の丸谷才一氏などにはそれなりの言い分があって、文法的には旧仮名の方が正しいのだそうです。作者もそんな思いがあって遣っているのかもしれません。
 紹介した作品はタイトルがビシッと決まっていて、さすがは旧仮名を遣おうとする人だなと思います。見てくれの恰好良さだけを狙って旧仮名を遣っているわけではないと読み取れます。場面の設定も転換も無理がなく、「海苔の佃煮をサランラップに包んで/それを舐めながら公園で罐チューハイを飲む」という姿も微笑ましくて、硬軟を知り尽くした人のように思いました。おもしろい詩人を知って、何やら得をした気分です。



個人詩誌『点景』27号
tenkei_27
2003.1 川崎市川崎区
卜部昭二氏発行 非売品

 竹/卜部昭二

崖下の竹林から
ひときは競い伸び上ってきた一本
どうした重いザンバラ髪垂れ
懊悩の姿態は
竹よ天に無限の可能を求めたのか
なるほどおまえの頭上に壁などない
あった壁はおまえの中に
自己の分量を越えた欲望の壁
それが挫折を招いたのだ

 「竹」の生態をうまく人間社会に重ね合せた佳作だと思います。「どうした重いザンバラ髪垂れ」という表現も素晴らしいし、それが「自己の分量を越えた欲望の壁」へとつながっていくことに無理もありませんし、かと言って変に教訓的でもない。小品ですが卜部昭二という詩人の感性を見事に現した作品だと思いました。



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