きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

  kumogakure  
 
 
「クモガクレ」
Calumia godeffroyi
カワアナゴ科

2003.2.16()

 日曜日。一日中、本を読んで、HPにアップして、と考えていたのですが午後から出勤しました。関連会社に報告する書類が間に合わず、休日出勤で対応しようとしたものです。相手先に出張するのは4日後ですから、時間の余裕はあるんですが、集めるデータが膨大になりそうなので早めにやっておこう、、、うん、我ながら前向きだなぁ^_^;
 16時には終って、引き続いて読書、読書。充実した一日でした。



  相馬大氏詩集『相馬大詩集』
  soma dai shisyu    
 
 
 
新・日本現代詩文庫11
2003.2.25
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
1400円+税
 

 既刊詩集6冊と未刊詩集から抜粋した作品集です。50年を越える詩歴をこの一冊で展望できると思います。1996年刊行の『ものに影』は私もいただいていますが、それ以外は未見でしたので著者の全体像を知る上では非常に参考になりました。
 紹介したい作品はたくさんあるのですが、ここでは独特の詩集とも言うべき『ものに影』の中の作品をいくつか転載してみましょう。

    

   いずれは
   登れぬ
   坂に
   影が
   つづく


    冬日


   あまりにも
   あわくて
   地面に
   までは
   とどかない


    元旦

   くらい
   ところを

   親子の
   話がゆく


    

   飛んで
   いって

   草に
   なって
   しまった


    

   はげまし
   あって

   みんなで
   枯れて
   ゆく

 一冊をまるまる写し取りそうになりますから、この辺でやめますけど、深く心に染みる作品群だと思います。俳句に近いかもしれませんが、私はまったく違うと思います。文をどこで改行するか、どこで1行空けるかは詩であるからこそ出来るのだと言えるでしょう。それが影≠表出させているのではないでしょうか。この手法については研究の必要があるかもしれませんね。

 紹介した作品の中で、私は「元旦」が一番好きです。除夜の鐘を突きに行った帰りなのでしょうか、あるいは初日の出を見に行く途中なのでしょうか、路地の暗がりから親子らしい会話が聞こえてきます。真夜中に新年を迎えた親子、子は小学生かもしれませんね。今年一年の希望を語っているのかもしれません。そんな光景がパーッと眼に浮かんできます。著者の人間を見る眼のやさしさ、確かさが感じられる作品です。



  桜庭英子氏詩集『薔薇を焚く』
  bara wo taku    
 
 
 
 
2003.3.3
東京都東村山市
書肆青樹社刊
2400円+税
 

    風の空

   空はきりりと晴れ渡っていた
   吹き晒しの店先で
   タイヤを外し
   ぐいっとチューフブを取り出す
   水を漲ったバケツにすこしづつ浸しながら
   客の古い自転車の傷口を丹念に捜す父の
   屈んでいる背中の軋み

   店の奥にはようやく揃えたばかりの
   新車がわずかに五、六台
   ななめに並べて飾られ
   銀輪が希望のように ひときわ光っていた
   けれども
   日光連山のきびしい夜を渡って
   北関東に空っ風が吹き荒れると
   滲みて痛むのはパンクした穴よりも深い
   戦争でやられた父の傷口だった

   その傷跡も癒えないうちに
   新たにやってきた癌を道連れに
   錆びかけたベルの余韻をかすかに残して
   旅立った父
   風が磨いた昭和の空のなかヘ
   みるみる遠ぎかっていった

   たましいとは記憶なのだろうか
   木枯らしの吹きすさぶ午後
   遠くふるさとの空を見晴かすとき
   浮雲となった父に
   いまでも ふと出会ったりする

 「たましいとは記憶なのだろうか」というフレーズに、思わず◎を点けてしまいました。そうなのかもしれませんね。魂とは記憶だ、と言われると納得してしまいます。名台詞と言えましょう。
 父上の人間像もよく描けていると思います。言葉は何ひとつ発していませんが、描かれた行動でお人柄を知ることができます。第1連は見事に具象化していると言えるでしょう。
 著者の第6詩集ですが、ますます円熟してきたことを感じさせる詩集でした。



  文芸誌シェニーユ16集
  sheniyu 16    
 
 
 
 
2003.1.31
広島県安芸郡府中町
蟲の会・大久保玲子氏 発行
500円
 

    川よとわに美しく その二    米田栄作

   川は敗れなかった
   川は崩れなかった

   色冴えてきた水嵩
   それゆえ 雲々は
   日毎 水浴びにやってくる

   水底の焼木一本
   それゆえ 私の子は
   夜ごと ぶらんこを夢みるだろうか

   朝夕 鐘よ鳴りわたれ
   彩いろに美しく 水は
   永遠に漂うものを

   川は焼けなかった
   川は失われなかった

 長津功三良さんの連載「私の現代詩(三)」は、交流のあった右原厖・米田栄作・北川冬彦の3詩人についての論考です。いずれも故人です。
 紹介した作品は広島の原爆で愛息を失った詩人のもので、1951年刊行の詩集から採ったようです。「戦争中は迎合を拒否し詩作から遠ざかる」と長津さんは書いています。「川は敗れなかった/川は崩れなかった」「川は焼けなかった/川は失われなかった」という繰返しに詩人の深い思いを感じ取ることができます。

 右原厖・北川冬彦は著名ですから私でも知っていますが、正直なところ米田栄作という詩人は知りませんでした。作品はこれ一篇を読んだだけですけど、良い詩人だったなと思います。そういう詩人を紹介する長津さんのお仕事に敬意を表したいと思います。




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