きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

  kumogakure  
 
 
「クモガクレ」
Calumia godeffroyi
カワアナゴ科

2003.4.12()

 日本詩人クラブの第36回日本詩人クラブ賞贈呈式が、東京・神楽坂エミールで開かれました。本当は第13回日本詩人クラブ新人賞、第3回日本詩人クラブ詩界賞も合わせて贈呈されるはずだったんですけど、既報の通り新人賞・詩界賞は該当作なし。ちょっと寂しいかな、と思っていましたけどまあまあでしたね。ちなみに昨年は3賞贈呈できて、参加者120名ほど、今年は78名でした。単純計算だと40名でもおかしくなかったんですけどね^_^;

    030412

 写真は受賞者の井奥行彦氏。ご存知の方も多いと思いますが、奥様は著名な詩人のなんば・みちこ氏です。当然ご同伴なさっていました。奥様ご一緒の写真は詩人クラブHPに載せてあります。同じ写真を使ってもしょうがないんで、こちらは井奥さんだけにしました。井奥さんは作品にお人柄が現れているように、もの静かな、立派な紳士です。そのお人柄もあって、詩人クラブ賞だけだったんですが大勢お集まりいただいたのだと思います。良い人に受けとってもらって、詩人クラブとしても良かったんじゃないでしょうか。



  詩歌文芸誌GANYMEDE27号
  ganymede 27    
 
 
 
 
2003.4.1
東京都練馬区
銅林社 発行
2100円
 

    かえる女房    小林尹夫

   へびは人の腕のようには巻きつかない
   力強くしめるだけ
   その時ひやっとしているだろうか
   ぬるっとしているだろうか
   私はまだ知らない

   理科の実験でだったか
   かえるの解剖をしたのは

   かえるの腹の中は人間によく似ているという理由で
   かえるを解剖した
   かえるが分かれば人間が分かるのか
   白いあご白い腹白いふともも
   かわいい

   あのねっとりした肌
   私はかえるは嫌いだ

   へびはかえるが大好きらしい
   食べやすいからか
   おいしいからか

   私はへびも嫌いだ
   あのねっとりした目

   へびはかずらのようには巻きつかない
   おどろいて
   時にはへびも落ちる

   ところでかえると人間の立場が逆転したとする
   かえるは人間を解剖するだろう
   理科教室で
   人間はかえるに似ているという理由で
   生徒たちは「かわいそう」と言いながら
   人間の腹にメスを入れる
   人間が分かればかえるが分かるのか
   白いあご白い腹白いふともも
   かわいい

   かえる嫌いな私はすでに立場が逆転しているのかもしれない
   へび嫌いな私はすでにのまれているのかも知れない

   夜中にふと目を開けると
   女房の腕が私をしめていた
   たるんだかえるの腹がぐずぐず音を立てていた

 第8連はギョッとしますね。「人間が分かればかえるが分かるのか/白いあご白い腹白いふともも/かわいい」というフレーズは、第3連のフレーズとまったく同じですから、その怖さが強調されます。うまい作り方だと思います。人間のエゴをさらけ出した作品と言えるでしょう。
 最終連もすごいです。タイトルと呼応して作品に広がりを与える効果が大きいと思いました。



  詩とエッセイ誌『焔』64号
  honoho_64    
 
 
 
 
2003.3.31
横浜市西区
福田正夫詩の会 発行
1000円
 

    僕たちはばかになったんか    植木肖太郎

   一本5万円のワインを
   フランス料理屋で味わう
   僕には 昔
   浅草で飲んだ電気ブランの
   原料が何かは分からないが
   あの味のほうが好きだ

   本格的なワインだとか
   高級で値段ばかりが高い地酒
   いったい日本人は
   何を夢見て生きてきたのか

   碌な福祉施設もなく
   老人から医療費も介護保険も奪う国民性
   ホームレスの解決も出来ない
   神戸の何年も前の大地震の後始末さえ
   個人の力任せ 弱者を取り残している

   若者は携帯電話の食い物にされて
   大事な操さえ料金に代えている女の子
   大人の失業者は家も棄て
   いや 生命さえ絶っているのに

   資本主義の一番悪いところを
   僕たちは学んでしまった
   自由を得たか
   自分だけの勝手な自由を得たか

   トンテンカン トンテンカン
   劣悪な労働条件のなかで
   明日を夢みて 一杯の焼酎と安い焼き鳥
   油まみれだった日本中の労働者が
   みなとみらいの高層ビルに巻き込まれて
   偉いサラリーマンになった途端
   首切はリストラと呼ばれ
   仲間の団結も 向上心も 財布の中身と相談
   僕たちはばかになったんか

 忘れていたことに気付かされたようで、ちょっとショックを受けました。「本格的なワインだとか/高級で値段ばかりが高い地酒」を私も好きなのは事実です。もちろん安く手に入れる工夫はしていますが…。「自分だけの勝手な自由を得たか」と言われると反論の余地はありません。「偉いサラリーマンになっ」て「首切はリストラと呼」び、「仲間の団結も 向上心も 財布の中身と相談」しているのも事実でしょう。でも、私自身がリストラの対象でもあるはずです。

 作者のおっしゃる現状は、基本的にはやはり政治の問題です。そこでいつも、こう思うのです。この国の政治家を選んだのは
(表面的には)米国でもロシアでもない、私たちです。だから総て受け入れざるを得ない。(もちろん私は与党には一度も投票したことはありませんが…)。本当に「僕たちはばかになったんか」。重いテーマです。



  詩誌『野ばら』32号
  nobara_32    
 
 
 
 
2003.3.30
東京都八王子市
<野ばらの会> 竹内美智代氏 発行
500円
 

    心配ないよ    矢口志津江

   初めての子を産むとき 不安がる私に
   たいていの女が経験することだ と父

   三歳になってもよくしゃべれない息子に悩んでいた頃
   二十歳
(はたち)になればまともになるよ と矢

   運転免許を取りたてで 怖がる私に
   初めは前だけよく見て走ればよい と弟

   励ますとか慰めるとかではない
   男たちの当たり前の言葉に救われてきた

   大丈夫 心配ないから
   男たちからもらったなにげない言葉を

   いま 臨月の娘に伝えている
   求職中の息子に伝えている

 この作品にはホッとさせられました。ジェンダーフリーなどと叫ばれて、男が男であることをなるべく意識しないで暮すことが求められているように思います。それはそれで正しいことなのですが、どうも萎縮していく自分を感じているこの頃です。この作品の「心配ないよ」という言葉は、男女に関係なく、事実、作者も「伝えている」わけですけど、それでも「男たちからもらったなにげない言葉」というフレーズには「救われ」た気がします。小さく男としての意識を持って生きたいと感じた作品です。



  季刊詩と童謡誌『ぎんなん』44号
  ginnan_44    
 
 
 
 
2003.4.1
大阪府豊中市
ぎんなんの会・島田陽子氏 発行
400円
 

    ユウちゃん    柿本香苗

   同じクラスのユウちゃんは何も話さないし
   教室にねころんだり
   体育館にねころんだりする
   ユウちやんは ちんぷんかんぷん

   きょう
   ふざけていっしよにねころんでみた
   そして天井をじっと見た
   ちがう世界にきたみたいで ふしぎ

   こんどは砂場にねころんでいると
   風がふわっとふいてきて
   葉っぱが サワサワ 音たてた
   ユウちゃんは ふふっとわらうんだ

   そうか
   ユウちゃんは わかるんだ
   葉っぱのことばが わかるんだ
   びっくりして うれしくなったよ ふしぎ

 「ちんぷんかんぷん」の「ユウちやん」と「ふざけていっしよにねころんでみ」て、「ユウちゃんは わかるんだ」ということに気付いた作品ですが、大事なことを教えていると思います。自分の価値観や世の中の一般的な価値観とは違う世界も存在するということ。当り前のことなんですけど、意外とそうではないんですね。特に会社組織などを考えると…。こういう視点も持った、バランスのとれた人間になってみたいものです。



  詩誌『展』59号
  ten 59    
2003.3
東京都杉並区
菊池敏子氏 発行
非売品
 

    朝の食卓    山田隆昭

   夜明けはまず
   山のてっぺんにやってくる
   闇を脱ぐようにゆっくりと
   麓まで陽に包まれる
   鳥たちは空腹に追いたてられて
   いっせいに飛んでゆく
   尖った小さな島の朝の海岸は
   みんな生きるのに忙しい
   海に突き出たボードウォークから覗き見れば
   小魚たちが波に弄ばれながら
   いのちの争奪をくりひろげている

   水際へ――
   素足の脛に波がくる
   水が引いてゆくと足の下の砂が抉られて
   危うく倒れそうになる
   海流がぼくを狙っているのだ
   立ち直って振り向けば
   烏が防風林の上でこちらを見ている
   次から次へ腹を充たしては
   死んでゆくものたち
   無駄な食事など ひとつとしてない

   散歩の時間は終りだ
   食べるための体の準備はできた
   味噌汁のなかにワカメが沈んでいる
   煮干しが横たわる
   納豆も丹念に掻きまぜた
   さあ こころして
   海と大地をかっこむぞ

 第1連、第2連は旅先での朝の風景ですね。私も作者と何度か旅行していますが、常に「散歩の時間」を持っている方です。私は怠惰に朝の時間を過すほうなのでご一緒したことはあまりありませんが、「海に突き出たボードウォークから覗き見」したりしていたんですね。そして「食べるための体の準備」をやっていたんですね。

 最終連の「さあ こころして/海と大地をかっこむぞ」というフレーズは見事だと思います。自然への感謝の気持を感じ、作者の若々しさを感じさせる部分です。




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