きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

  kumogakure  
 
 
「クモガクレ」
Calumia godeffroyi
カワアナゴ科

2003.5.19()

 午後から日本ペンクラブ電子メディア委員会が予定されていましたので、休暇をとりました。4月4日以来の休暇でしたから、午前中はHPのアップが捗りました。
 電子メディア委員会は今日から新しい体制です。従来は電子メディア委員会の中に本来の電子メディアを研究する会と電子文藝館が一緒になっていましたけど、今回からはっきりと分けられました。秦委員長は従来通り両方を統括しますが、委員は二つに別れます。で、私は電子文藝館委員ということになりました。必要があれば合同の委員会ももたれるようですけど、基本的には別活動になります。

 ずいぶんと新委員が増えました。従来は
18名で両方をやっていたのですが、今回から電子文藝館委員だけで22名。新人は11名ですから、ちょうど半分になりますね。今回から歌人の女性が加わってくれて、短詩型文学関係者は、私を含めて2名になりました。うれしいことです。

 そういう訳で、電子文藝館専任となりましたので、原稿を集めます。詩人の会員の皆様には、寄稿のお願いをしていきます。
10〜20編程度で、全体の行数が100行程度は載せられます。電子化されていることが前提になりますけど、このHPをご覧の会員なら問題はないでしょう。個別にあたりますが、よろしくお願いします。



  鈴木満氏著『季語巡礼』
  kigo jynrei    
 
 
 
 
2003.5.28
茨城県水戸市
かいつぶり社刊
1900円+税
 

 俳句・短歌というのはまったくの門外漢でして、その季語にまつわるエッセイというので、ちょっと途惑ったというのが正直なところですが、読み出したら止められなくなりました。それというのも「はじめに」というところで次のように書かれていたからです。

    たまたま、私は二十代で俳句・短歌をはじめ、三十代以降は短歌も作ったが、ウエ
   イトは詩に移って、いまは連句を試みたりしている。『季語巡礼』を読んでくれるの
   は大方、俳人であろうと思うが、その方々がこれを機会に、他の短詩型文学にも関心
   を持ってくれればというのが、本書をまとめたねらいでもあった。

 鈴木満という方は著名な詩人でもありますし、そういう人が俳人に対して「他の短詩型文学にも関心を持ってくれれば」という思いで書かれたエッセイなら、これは私が読んでも判るのではないかと思ったのです。案の定、俳句・短歌の話だけでなく近代詩・現代詩もちゃんと載せてあって、それらと季語との関りを懇切に解説してありました。詩らしきものを書いている身としては、逆に季語の奥深さを教えられたと思います。

 俳誌『かいつぶり』に毎月、7年間も連載したものだそうで、その圧倒的な分量にも驚かされましたね。1編が
400字詰原稿用紙で約6枚。それが84篇ありますから原稿用紙500枚以上ということになります。全360頁ほどの本ですから、さすがに読みではありました。しかし、ご自身の生活雑感も交えてのエッセイですので、評論集のような変な威圧感はありません。気楽に楽しんで、いつの間にか季語も理解していく、そんな本だと思います。俳人の皆様にも参考になるでしょうが、むしろ詩人に読んでほしいと思いましたね。季語ひとつをとっても俳人の皆様は仔細に考えています。それが強く印象に残るエッセイ集でした。



  間中春枝氏詩集『石の声 W』
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大宮詩人会叢書第四期29
2003.2.20
埼玉県さいたま市
大宮詩人会叢書刊行会 発行
1300円
 

    包まれている

   ふりかえると
   金色の海に
   舟は白く
   もろく
   巻貝のように浮かんでいた

   男はじっと舟をみつめ
   みつめている男を
   女は見守っていた

   二人の間の長い年月が
   やわらかに燃えたち
   それぞれの胸の奥をてらし出した

   きりたつ崖が後にあった

   海と
   舟と
   崖と
   そして二人を
   沈んでいく太陽が包んでいた

 「男」と「女」は「二人の間の長い年月が」とありますから、夫婦と考えてよさそうです。そうすると、この作品は夫婦の道のりを振りかえった詩と云えるでしょう。二人を乗せた「舟は白く/もろく/巻貝のように浮かんで」来たのだと判ります。「男はじっと舟をみつめ/みつめている男を」さらに「女は見守って」きた、そしていつも危険な「きりたつ崖が後にあった」。そういう人生だったけど、今は「二人を/沈んでいく太陽が包んでい」る、と読み取ることができると思います。なかなかまとまった綺麗な作品だと云えましょう。

 他に「寒い」「薔薇」「幼年」「手品」「病室にて」などの作品も印象に残ります。たった
16編しか載せていない詩集ですが、秀作が多いと思います。人生の機微を知り尽くした詩人の詩集と云えましょう。



  詩誌『海嶺』20号
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2003.5.10
埼玉県さいたま市
海嶺の会・杜みち子氏 発行
300円
 

    娘宿    桜井さざえ

   めずらしくよろず屋の窓が開けられて
   光と風がよじれたカーテンを揺らし
   座ったままのおばあさんの髪をふわふわ解き
   「娘宿で一番の別嬪さんの幼馴染みよ」
   商品と商品の間にちんまり腰かけ
   眩しげに小首を傾げて

   室尾にしか存在しない娘宿について
   根堀り葉掘り聞く私に
   おばあさんは幼馴染みを呼んで待っていてくれた
   此処は東と西に分かれて
   祭りだの節句に三味線を弾いて競いあう
   宿娘も東西にあってしのぎを削った
   小学校を出る頃には達者に三味線を弾き
   娘宿の仲間入り
   男たちに三味線を弾いてもてなし
   歌って踊って男は応える
   芸のない男は下駄を揃えたり 下働き

   おばあさんは三味線弾けないから
   もっぱら男と歌って踊って
   年頃になれば誰でも親元は窮屈
   娘宿は若者を迷わせない大人たちの知恵

   別嬪さんはようもてるけど
   器量悪は寝間がひろうて嘆くのよ
   横に寝る男がいないから
   おばあさんは 私も寝間が広い方だった
   並んで寝ても男は手は出さないしきたり
   女にはアトツギが控えている
   親に頼まれている女友達のこと
   男は真っ直ぐ身じろぎもしないで寝るから
   肩が凝って辛い 歌って踊れば発散するが

   おばあさんは肩をゆすってけらけら笑い
   おばあちゃんはおちよぼ口でホッホと笑う
   泣いて暮らすも笑って暮らすも一生
   笑って暮らせと真顔で論す
   ありがとうおばあさん バナナ買っていくわ
   黒く変化した一房のバナナがばらばら落ちる
   「皮を剥げば白いよ 悪い所よけて食べや」
   丁寧に食べ方教えてくれる

   陽がとっぷり暮れて
   湾内は満潮 波がたぷたぷ岸辺を洗っている

 「室尾」は広島県・倉橋島の地名で、作者の生地のようです。生地を題材にした詩を多く発表してきた作者が、取材に訪れた際の作品だと思います。それにしても「娘宿」とはおもしろい風習があったものですね。「娘宿は若者を迷わせない大人たちの知恵」というのですから、昔はおおらかで、かつ、大人が本当に若者のことを考えていたんだなと感心しました。作者の、生地への思いもよく伝わってきます。

 わが身を振りかえると「芸のない男は下駄を揃えたり 下働き」かな? やっぱり。まあ、いつの世にもそういう男はいるもので…。




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