きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

  kumogakure  
 
 
「クモガクレ」
Calumia godeffroyi
カワアナゴ科

2003.7.19(土)

 渋谷の「レンタルスペース渋谷サンクス」という処で小さな朗読会をやりました。幹事は水島美津江、山田隆昭、豊岡史朗、中田紀子の各氏と私。発端はいつも一緒に呑んでいる仲間のひとりが、朗読会ってやったことないからやってみたい、と言い出したことに発しています。私も一口乗って、大げさなことは嫌いだけど20名程度の小さな会なら、と幹事を引き受けました。ですから案内状も40通ほどしか出さなかったんですけど、23名も集まってくれてびっくり。中には遠く北海道から来てくれたり、そんなに遠いというわけではないけど栃木県・茨城県からも来てくれて大感激でした。
 コンセプトは朗読したい人はする、聴くだけの人もOK。で、朗読者は18名。16時から21時という長時間でしたが、朗読は18時ちょっと過ぎまで、後は幹事の女性陣手造りのつまみで呑むだけという会でしたから、まあ、楽しんでもらえたかな。

    030719

 写真は北海道・恵庭市から参加の村田譲さん。迫力のある朗読でド肝を抜かれました。総じて男性陣は迫力があったなぁ。堀口精一郎さんの語り口、山岡遊さんの迫真、山田隆昭さんのパフォーマンスと、幹事の立場を忘れて楽しんじゃいましたね。
 またやるの?という声もありましたけど、今のところなんにも考えていません。詩人の朗読というのは基本的に好きじゃないけど、今回のメンバーぐらい質が高かったらやってもいいかな、とも思っています。でも、やるんだったら詩を書いていない人たちも交えてやってみたい。

 お出でいただいた皆さん、気持良く朗読を引き受けてくれた皆さん、幹事の皆さん、お疲れさまでした、ありがとうございました。機会があったらまた呑もう、、、じゃない、朗読しましょう!



  綾部健二氏詩集『ストライプ』
    stripe    
 
 
 
 
2001.8.22
栃木県宇都宮市
ARORI詩社刊
1000円+税
 

    指と紙飛行機

   開け放した窓のむこうから
   子供たちの声が行わけの詩のように立ちあがってくる

   微風は吹いていないようだ
   僕が一日の間に吐き出した言葉の数々
   それらの中に風の扉を開く鍵はなかった

   真夏の虚空へ
   たとえ満足のいくものでなくても
   君の心の重力を少しでも軽減できるなら
   言葉たちも無為にさまようことはないのに

   束の間の空白に文字をしるす僕の指
   こぼれ落ちていく言葉の素顔
   寡黙でいることのやわらかなひととき

   ふと気が付くと僕の指は紙を折っている
   一篇の詩に等しいサイズで紙飛行機を折っている
   広告紙でも便箋でも上質なケント紙でも
   地球に存在する紙なら何でもいいのだ
   どんな言葉にもだまされない折るという事実のために

   人の指ではすくいとれないもの
   君の心の重力にむかって
   精一杯の無言を折り込んだ
   わずか十数秒の不規則な浮遊……

   紙飛行機の飛翔は一篇の詩に似ている

 上記朗読会に参加し、朗読もしてくれた著者よりいただきました。紹介した詩は詩集冒頭の作品です。洗練された言葉で、詩の王道を往く作品と言ったら言い過ぎでしょうか。「子供たちの声が行わけの詩のように立ちあがってくる」「紙飛行機の飛翔は一篇の詩に似ている」というフレーズには、まいりました。思わず○印を付けてしまいましたよ。
 「僕が一日の間に吐き出した言葉の数々/それらの中に風の扉を開く鍵はなかった」というフレーズを見ると、言葉への不信のようにも受け取れますけど、そうではないと思います。「精一杯の無言を折り込」むこと自体もまた、言葉への回帰ではないかと思うのです。安心して読める詩集と言ったらヘンですけど、そんな安定感を感じた詩集です。



  詩誌GRAIL2003春号
    grail 2003    
 
 
 
 
2003.3.15
東京都三鷹市
龍生塾 発行
800円
 

    十二月のひまわりを追って    山岡 遊

   泡を祭り
   枯渇を祭り
   鮮血を祭り
   淘汰を撒き散らす
   地球という書物の
   片隅
   泳ぐ鴨の顔がゆがむ
   芝川を遡る

   色とりどりの塵が散乱する土手には
   放置された車が十台
   すべてナンバー・プレートは外されている
   十日前訪れた時には三台だった
   捨て石の時代は
   動いている
   覗けば車中で歌う
   塩、胡椒、灰色の毛布 フライパン
   燻る
(くすぶ)る命の煙

   山積みのCD・ラジカセ
   山積みの自転車の隙間から
   不意に痩せた白犬が
   戦闘体制で吠えたて
   後ずさる
   サイド・ミラーから凝視する髭面にサングラスの男
   ひとつ ふたつ みっつ
   国内難民のまなざしが
   盗人を見るように
   わたしを 囲み
   射る

   時のたてがみが ゆれて
   寒風の指先が
   空説を弾いた
   ただ漠然と
   わたしは願う
   祖先は
   二万年前にやってきた
   マンモス・ハンターであってほしいと

   十二月十二日 午前
   冬のひまわりを
   今
   根元からへし折る
   一輪は
   季節はずれの
   わたしのうた
   一輪は
   やや
   藍色の川面にむかって傾く
   マンモスの脳のかたち

   二十一世紀 神経戦
   降りそそぐ情報は
   氷河をかたち創り
   その傾斜でミューズの多くは凍死を始める
   磨かなくてはならない
   かつて
   ベイスボール・プレーヤーが
   人知れず
   膝にはさんだバットを
   生乾きの牛骨で磨いたように
   奇跡の第一条件
   まずは
   反射神経のインティファーダを
   きり、きり、と
   くやし声をあげる
   マンモスの骨で

 「十二月のひまわり」「祖先は/二万年前にやってきた/マンモス・ハンターであってほしい」という設定がおもしろい作品だと思いました。詩としての軸足もその二つにあると思います。「冬のひまわりを」「根元からへし折る」、その「一輪は」「わたしのうた」であり、もう「一輪は」「マンモスの脳のかたち」だという規定もおもしろいですね。「その傾斜でミューズの多くは凍死を始める」というフレーズは現代への警鐘でしょうか。一般的なものの見方からちょっと外れた視線、そこに魅力がある作品だと思いました。




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