きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

  kumogakure  
 
 
「クモガクレ」
Calumia godeffroyi
カワアナゴ科

2003.12.23(火)

 天皇誕生日で休日。終日いただいた本を拝読し、HPにアップを繰返していました。たくさん読みたいと思っているんですが、1日に10冊がやっとですね。あと2冊、3冊と読みたいんですが、頭が追い着いていきません。10冊に近くなるとボーッとして集中力が無くなります。この辺が頭のいい連中とは違うんでしょうね。この壁を乗越えられるかどうか、今後の課題だと思っています。



  詩と批評誌POETICA36号
    poetica 36.JPG    
 
 
 
 
2003.11.20
東京都豊島区
中島 登氏 発行
500円
 

    秋雨の谷間をぬって    中島 登

   わたしは高層ビルの谷間を走っている
   秋雨がフロントガラスを洗っている
   人間の蟻たちの群れが
   黒々とヘッドライトの前を横切る

   集中することは怖い
   富が集中することは恐ろしい

   権力が集中することは危険だ
   貧しさが集中すると何かがおこりそうだ

   いまわたしたちは不確実な霧のなかにいる
   一メートル先に何があるか
   一瞬さきに何がおこるか予測できない

   深い恐怖の電流が背筋を走る
   おまえは言葉の奢りに酔っていないか
   徘徊する無数のハイエナたち

   髭を生やした猿真似の演技者たち
   「ああ 肉は重し」
   巷のすべての書は腐敗しはじめている

   人間が集中することは怖い
   贋ものが横行することは怖い
   まやかしが罷り通ることは恐ろしい

   雨はいっこうに止むけはいはない
   わたしは駐車場を探しあぐねて
   虚構の街の栄華の影をさ迷い続けている

   羊の群れも驢馬の群れも離れ離れになって
   やがて視界から消えてゆくだろう
   わたしは濡れて濡れて硬直して敷石に立ちすくんでいる

 「権力が集中することは危険だ/貧しさが集中すると何かがおこりそうだ」というフレーズに注目しました。「貧しさ」とは経済的なこともあるでしょうが精神的なことも言っているように思います。「おまえは言葉の奢りに酔っていないか」というフレーズも近い意味にとらえることができます。言葉の「富」が奢りになる、という読み方もできるでしょう。表面的には流れているように見えますが、以上の点で引っかかり、そこで一歩深く考えることができました。なかなか「怖い」作品だと思います。



  森井香衣氏詩画集『瑠璃光』
    rurikoh.JPG    
工藤甲人絵
2003.12.15
東京都千代田区
小学館スクウェア 発売
1200円+税
 

    はてしない夜へ

   見渡す限りの夜空を
   せつない時間とみるのなら
   一億光年のむこうに
   すでに
   消滅した星がある
   夜露にぬれてわたしがいるのも
   一瞬にして 美しい
   虚空の映像

   昨日と今日を
   つなぎとめるものは何もない
   光の粒子に
   輝いてはきえる生の
   愛しさだけがみえてくる
   豊潤な海の蜜月に
   みちる潮とひく潮の
   さざめきに

   地球をとびかう
   蝶の群れに
   幻想をかぎわける触覚が
   あるのなら
   美しい夢を
   見ることもできる
   ひたすらに
   時空をこえて

 日本画の大家・工藤甲人画伯の絵に、新進の詩人・森井香衣さんの詩が添えられるという贅沢な詩画集です。紹介した作品には「蝶の階段」という絵が組み合わされていました。雪景色の丘の上に黒蝶が佇んでいる幻想的な作品です。
 「蝶の群れに/幻想をかぎわける触覚が/あるのなら」というフレーズは、絵が先行していたのかもしれません。第1連を見ると、この詩人の寄って立つ位置が判るような気がします。この地球にとどまらない自由な精神を感じます。
 日本画の繊細な印象と、現代詩の底知れない精神が新たな次元を創り出している詩画集だと思いました。



  詩誌COAL SACK47号
    coal sack 47.JPG    
 
 
 
 
2003.12.25
千葉県柏市
コールサック社・鈴木比佐雄氏 発行
500円
 

    山小屋風の詩の館にて    鈴木比佐雄

   今日は とても美しいものを見たな
   私の敬愛する詩人の手書き原稿、
   詩集、詩誌、蔵書類が
   山小屋風の図書館に
   すっぽり収まっていた
   北の大地には
   その詩人の価値を知る「野の遺賢」がいた
   裏庭の野葡萄から絞った
   奥様の手作り葡萄酒で乾杯した
   こんなに濃くて本物の葡萄酒を飲んだのは
   生まれてはじめてだ
   詩人の父は昭和の初め鰊を追って
   内灘からこの地を訪れていた漁師であった
   21世紀 息子の詩人は詩の種を蒔いた
   今は網走湖畔にハマナスの咲く秋
   冬には流氷が押し寄せる酷寒の地で
   詩人の詩魂は眠り熟成されるだろう
   いつの日か春から夏に
   この地の水芭蕉のように群れ咲くだろう
   今日は 本当に美しい仕事を見たな

 作者による「戦後詩を後世に残す人…井谷英世さんの挑戦 戦後詩資料館・浜田知章山人舎文庫の開設」というエッセイに添えられていた作品です。井谷英世さんという方は「なぜ詩人は無償なこのような詩作活動をするのか、その謎のような行為に惹かれて詩集を読み、集め始めた」方だそうです。そして北海道網走の自宅敷地内に「戦後詩資料館」を造ったそうです。そこを訪れた作者の感動が紹介した詩になったものです。
 このエッセイは私も感動しました。詩人では、例えば群馬の富沢智さんのように「榛名まほろば」という現代詩資料館を造った人はいます。しかし、詩人ではない人がまったくの個人的な力で資料館を造ったということを聞いたことがありません。そういう人がいるというだけでどれだけ励まされるかわかりませんね。「今日は とても美しいものを見たな」「今日は 本当に美しい仕事を見たな」と強調する作者に共感しています。




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