きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

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モンガラカワハギ
新井克彦画
 

2004.2.22(日)

 一日中いただいた本を読んで過しました。至福の時間です。今月中に渡さなければいけない詩原稿が二つあるんですけど、やはり本の方へ関心が行ってしまいますね。本を読みながら自分の詩も考える、本当に贅沢な時間だと思います。



  アンソロジー『新・現代詩 詩人集2004』
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2004.3.1
横浜市港南区
知加書房刊
2500円+税
 

    ダイナモと香水    松尾茂夫

   サラリーマンになったばかりの
   ぼくの初仕事はアフガニスタンヘ
   ダイナモと香水を輸出する手続きだった
   ダイナモはメーカー品だったが
   香水は <東京の夜> という無印良品
(プライベートブランド)
   お好み次第で <ニューヨークの朝> にもできた

   インボイスやパッキングリストや
   原産地証明書やアンチ・イスラエル証明書を
   うすい航空便用箋にカーボン紙を何枚もかさねて
   アンダーウッド製タイプライターのキーをつよく弾いた
   だからオリジナルの用紙はところどころ
   aやoのかたちに破けていた

   あのとき届いたダイナモを使って作業した男たち
   着飾った衣装に <東京の夜> をふりかけた女たち
   四十年あまり経ったいま
   どれくらい生き残っているだろう
   映像のなかの
   裸足で走っている子どもたち
   片足で跳ねている子どもたち
   彼らの ぼくの孫たちだ

   <建築しブチ壊し建築し
   煤煙の下で挨いっぱいの口で
   白い歯をむき出して笑っている> アメリカ
   今度は地雷を敷きつめた荒野や廃墟に
   過剰在庫の爆弾を空から撒き散らし
   おまけに食料まで投げ落とす傲慢

   かつて瓦礫の町で
   ぼくはヤンキーと叫んで礫を投げ
   おなじ手でガムやチョコレートをもらった
   あの屈辱の甘さは忘れない
   いま空缶でパラボラアンテナをつくっている
   アフガンの子どもたち
   屈辱も腹の足しにして
   ぼくの齢
(とし)まで生きるだろうか

                   *サンドバーグ「シカゴ」の一節

 このアンソロジーは、このHPでも紹介している『新・現代詩』の1号から12号までの掲載作品の再録だそうです。道理で記憶している作品が多いはずだと思いました。
 今回紹介した松尾茂夫氏の「ダイナモと香水」はこのHPでは紹介していませんが、最新詩集の『デンキブランでみた夢』に載っていたと記憶しています。私より一回り上の年代の詩人です。作品の時代背景を記憶の底から辛うじて引っ張り出すことができます。私が「ガムやチョコレートをもらった」のは1950年代終りです。もう「屈辱の甘さ」は無かったのですが無性に恥ずかしかったことを覚えています。
 「おまけに食料まで投げ落とす傲慢」はいつまで続くのでしょうか。「アフガンの子どもたち」はいつまで「生きるだろうか」ということを考えさせられる作品です。彼らを「ぼくの孫たちだ」と言い切る作者に敬服した作品でもありました。



  阿部宗一郎氏詩集『神ニモマケズ』
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2004.2.10
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
1800円+税
 

    神ニモマケズ

   神ニモマケズ
   仏ニモマケズ
   神ノ懲罰ヲクダラナイト貶シ
   仏ノ慈愛ヲツマラナイト嘲ル
   身ヲ修メルコトハ自虐卜軽蔑シ
   徳ヲ行ナウコトハ虚飾と拒否スル
   アラユルコトノ勘定ニ必ズ自分ヲ入レ
   天ハ自分ノ上ニ人ヲ造ラナイトウソブク
   神ガ造ッタ格差ハ人権侵害卜訴エ
   自分ノコトニダケハイツモ平等ヲ主張シ
   自分ノトキニダケハスベテ自由ダト吠エル
   博愛ニハナルベク遠廻リシテ近寄ラズ
   イツモ二重人格ヲ見事二演ジキル
   学歴トイウ虚構ノ樓閣ノ裏口ニハ
   黄金ノ鍵ヲ差シコンデ宮仕エトナリ
   休マズ遅レズ働カズソシテ潰レズ
   能力ガ有ロウト無カロウト仕事ノ出来不出来ニ関ワリナク
   モグリコンデ仕舞エバコッチノモノダト言イ
   コトガアレバ集団デ権利ヲフリカザシモミ消ス
   アルマジキ身内ノ醜イコトガラハ
   無事大過ナキ勲章ノ日マデミンナデ庇ウ
   東ニ溺レテ死ニソウナ企業ガアッテモ
   ウシロカラ法ノ綱ヲ引ッカケテ足ヲ引ッパリ
   西ニ殺サレタモノノ家族ガ居レバ
   死ンダモノニ人権ハ無イト言イ
   殺シタモノノ人権ヲ尊重シ擁護セヨト言ウ
   南ニ死ニカケテイルモノガ居テモ
   資格ガ無イモノガ助ケテハイケナイト言イ
   北ニヒトリデハ暮ラセヌ呆ケタ老人ガ居テモ
   恍惚ハ病気デハナイカラト入院ヲ門前払イスル
   ヒトキレノパンモ無イ難民ノ飢餓ノ画面ガ終レバ
   鮨ノ大食イ競争ノバカ騒ギガ映シダサレル
   他国ノ戦車ガコノ国ニ進撃シテ来テモ
   ワガ国ノ戦車ハ持主ハ許可ナク私有地ヲ通レナイ
   自分ノ国ガ亡ビ国土ガ無クナロウト
   自分ノ生命財産サエ残レバソレデイイト言ウ
   国ノオ金ニハ蛆虫ノヨウニタカリナガラ
   税ノガレノタメニハアラユル努力ヲオシマナイ
   自分ノ贅沢卜享楽ノタメニハ
   六百兆円モノ負債ヲ子ヤ孫ニ残シテモ
   スコシノココロノ痛ミモオボエナイ
   世界中カラエコノミックアニマルト言ワレ
   カツテ経済大国ジャパン有リキト
   過去形デ書カレツツアルコトニ気付コウトモシナイ
   ソウイウモノニワタシハナッタ

 詩集冒頭の作品で、かつタイトルポエムです。もちろん宮澤賢治の「雨ニモマケズ」のパロディーですが、強烈ですね。私も高校生の頃に文芸部の仲間とパクリを創ったことがありますが、ここまで深くはありませんでした。今にして思うと世の中がよく見えていなかったから底の浅いものにしかならなかったのだろうと思います。そんな自分の体験と照し合せてみて、いかに深く人間を観察することが大事かがこの作品を通しても感じます。
 この次に載せられている「平成教育直語草案」も教育勅語≠フパロディーです。私は戦後生れなので直接教育勅語に接したことはありませんが、こちらも強烈に「平成教育」を皮肉っていて痛快です。読んでいて楽しくなります。でも全体に気骨を感じる詩集なのです。ユニークな視点の中に、深く硬質な正統性を感じます。今年のお薦めの1冊となるでしょう。




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