きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

  mongara kawahagi.jpg  
 
 
モンガラカワハギ
新井克彦画
 

2004.2.26(木)

 私が職場懇親会の幹事長になって初めてのイベントが無事に終りました。異動者の歓迎会です。歓迎会というのは、恒例では異動一ヵ月後ぐらいなんですが、今回は10日目。仕事は遅いけど呑み会の計画は早いという私の持ち味がいかんなく発揮されたと思います(^^;
 幹事連中も乗っていて、2回のゲームの合間にやっと呑めるという有様。私はひたすら呑む方が好きなんですけど、まあ、しょうがない。二次会にも付き合ってしまいました。12時前には帰れたかな? 記憶にありません。
 異動者はとんでもない職場に来てしまったと思ったかもしれません。まあ、諦めてください(^^;



  詩とエッセイ誌『千年樹』17号
    sennenjyu 17.JPG    
 
 
 
 
2004.2.22
長崎県諌早市
岡 耕秋氏 発行
500円
 

    言葉    鶴若寿夫

   言葉にはいつも意味などというものがあるので
   ぼくはつい裏切ってしまう
   意味さえなければ
   心を裏切ることもなかったのに
   でも本当は違うことをぼくも知っている
   物陰で笑うように
   ぼくも知っている

 「言葉にはいつも意味などというものがあるので」という最初のフレーズにハッとしました。改めて「言葉」って何だろうと思って辞書で調べてみました(広辞苑第四版電子版)。

(1)意味を表すために、口で言ったり字に書いたりするもの。語。言語。竹取「うち泣きて書く―は」。「やさしい―に言い替える」「日本の―」
(2)物の言いかた。口ぶり。語気。浄、凱陣八島「少し―の弱りたる折を見て」。「―を和らげる」
(3)言語による表現。古今序「その心あまりて―足らず」。「―を飾る」「あいさつの―」
(4)言葉のあや。事実以上に誇張した表現。狂、箕被(ミカズキ)「塵を結んでと言うたは―でござる」
(5)文芸表現としての言語。詩歌、特に和歌など。「―の道」
(6)謡い物・語り物で、ふしのつかない部分。また、歌集などで、歌以外の散文の部分。
(7)物語などで、地の文に対して会話の部分。

 ザッとこれだけの事柄が出てきましたけど、やはり「意味」からは逃げられないようですね。その上で「ぼくはつい裏切ってしまう」のですから、紹介した作品は『(5)文芸表現としての言語。』そのものであります。
 作品の眼目は「でも本当は違うことをぼくも知っている」というフレーズでしょう。「意味」のある「言葉」を操る詩人の本質を突いているフレーズだと思います。小品ですが怖い作品です。



  詩誌『やまどり』30号
    yamadori 30.JPG    
 
 
 
 
2004.2.28
神奈川県伊勢原市
丹沢大山詩の会・中平征夫氏 発行
非売品
 

    科白くずし    川堺としあき

   寒くって日が落るのが早くって
   小便が近くって立ち上るのが辛くって
   何も出来なくなって何もしたくなくなって
   物ばかりたべたくなって茶をほしくって
   誰かを呼びたくて咳きこんだりして
   あなたは側にいなくて哀れだったりして
   万年床が臭くてそこが天国だったりして
   痴呆てないと云ってそれを忘れてしまって
   あれやこれや欲しいものをねだって
   いらないものばかりに囲まれて身軽だったり
   だから飛べると怒鳴ってみたり
   怒ってしまっておさまりがつかなくなって
   夕食を抜いたが夜中にひもじくて泣いて
   今度は喰って喰って地獄におちた
   相手にされないくらいなら消えてしまおう
   それさえできない力なしって悲劇だねえ
   だから黙っていると死んでいるみたい
   にいっとおあいそ笑いが嫌がられてしまう
   死に態ならそのままじいっとしていると
   叱られながらあの世にごろっと寝返って
   みんながひと安心の苦労も世話もかからない
   そんなことを思っていると
   する側もされる側も荒れの天気が多すぎて
   おんぶにだっこをしてもらっているついでで
   若い頃はと口に出しふり返りふり返りして
   復活とか振り出しに戻るとか子供がえりとか
   もう一度やりなおせたら
   躰がかっかっとしてくる夕日をあびて
   血圧をはかりましょう
   体温をはかりましょう
   今日はお顔色もよくってお日柄もよくって
   無性に背筋が寒くつて日の暮れが早まって
           2003.12.28

 おもしろい作品ですが、タイトルが気になります。あまり使われない言葉ですので、まず「科白」の意味を辞書(広辞苑第四版電子版)で調べてみました。

(1)芝居で、俳優が劇中の人物として述べることば。
(2)きまり文句。儀礼的な口上。浮世風呂四「紺屋の明後日(アサツテ)、作者の明晩、久しい―と合点して」
(3)苦情を言うこと。言い分を述べること。談判。浄、女腹切「お花はこちの奉公人、親仁との―ならどこぞ外でしたがよい」
(4)支払をすること。伎、五大力恋緘「今夜中に―して下さんせにやなりませぬ」
(5)ことば。言いぐさ。「その―を聞いて腹が立った」

「くずし」は次のようになっています。

(1)くずすこと。また、くずしたもの。
(2)字画や模様などを簡略な形にすること。また、そのもの。「銀杏(イチヨウ)―」
(3)本来の調子をかえて謡い、または弾くこと。「木遣(キヤリ)―」

 「科白くずし」そのものは辞書にありませんので、この二つの組合せから考えなければいけません。作品の文意から考えると(3)+(2)かなと思います。言いたいことを簡略化して言う、言いたいことの半分も言ってないけど、というような意味だと思います。
 そんなつもりで拝読するとおもしろさはますます深まりますね。作品の主人公は老人という設定でしょうが、「万年床が臭くてそこが天国だったりして」「いらないものばかりに囲まれて身軽だったり」などは年齢に関係ないと思います。老人という設定で作品は成功していますが、人間というものの根本を考えさせられる作品と云えましょう。



  季刊詩誌『火山彈』65号
    kazandan 65.JPG    
 
 
 
 
2004.2.20
岩手県盛岡市
火山彈の会・内川吉男氏 発行
700円
 

    窯守りほとけ    藤森重紀

   父がしくじったはずなのに
   それでも
   あかりの消えない謎は
   終生闇夜とたたかう
   コエム爺さんがいたからだった
   好物の甘酒を届けに
   夕がた道を歩いていった

     コエム爺さん
     ああ、とわたしの名を呼ぶが
     しばらくつづいた夜なべのせいで
     まつ毛も目垢
(やに)で開かない
     両手にうけたどんぶりを
     拝むように飲み干した

   飯も食わない
   白髪が烟で黒くなる
   コエム爺さん
   火焼けの唇
(くち)がただれても
   「甘酒が薬でやんす」

     羽織袴のいでたちで
     火元にいるのが婿どのと
     あかりをめざして花嫁は
     夜道をまっすぐ来たという

   骨の髄までいぶしぬき
   嬶
(かかあ)の腹痛(はらいた)
   せがれの怪我も
   炎に焼
(く)べて歳をとり

   コエム爺さん
   クヌギの木魂
(こだま)に惚れこんだ
   火止めの秘儀をなしとげた
   溜った小便出し切った
   いつもの持ち場に跪く

   今朝だけひとつ
   違うとすれば
   米寿の皺に陽がさして
   おだやかすぎる寝顔となって
   息さえ忘れたことだった――。

      (コエム爺さん よつたび)

       *コエム爺さん
        本名 津田幸延
        「こうえん爺さん」では吐く音だけなので
        つまる音の「む」をはさみ
        こえんむさん、こえんむ爺さん
        コエム爺さんと呼ぶようになったという
        終戦直後、私の家の畑を借りて
        以来、出入りするようになった
        どこの生まれかわからない
        どこの村にも住んでいた
        物知りで山雀とりの名人という
        あの老爺のひとりだった
        何にでも効く漢方薬を持っていたが
        不摂生を重ねていた、と聞く。

 「コエム爺さん」とはおもしろい名前だと思いましたが、理由が判りました。発音から読みが変る好例と云えましょう。それにしても「コエム爺さん」という人間が良く描けている作品だと思います。最終連の「おだやかすぎる寝顔となって/息さえ忘れたことだった――。」というフレーズで、タイトルの「ほとけ」の意味も判ります。
 「窯」はおそらく炭焼き窯でしょう。日本の原風景とも謂えるひとつの時代と人間を見事に描ききった作品だと思いました。




   back(2月の部屋へ戻る)

   
home