きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

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モンガラカワハギ
新井克彦画
 

2004.3.23(火)

 昼休みに第一生命のセールスレディーから「サラリーマン川柳」のコピーをもらいました。ノミネートされた100首のうち好きなものを選べというものでしたが、投票はしないで読んで楽しみました。残念なことに一度読んで捨ててしまったので、ここで紹介することはできませんが、まあ、おもしろかったですね。リストラとマニュフェクト、禁煙に関するものが多かったように記憶しています。でも、思わず笑いころげるというのは無かったですね。小粒になったのかな? 川柳の門外漢が言えることではありませんけど、そんなことを感じました。いずれ本になるでしょうから、今度は真面目に読んでみようと思っています。



  詩誌『そんじゅり』31号
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2004.3.31
横浜市磯子区
春井昌子氏 発行
非売品
 

    秋の午後は    坂本絢世

   秋の午後は軽い
   コスモスの花、自由にお取りください
    などと言われて
   手紙一通も書き上げられなかった半日

   耳鳴りのように
   遠くで響いていた太鼓の音も止み
   小さな秋祭にもや終わったらしい
   鼻筋に白をひとはき
   長いまつげのあどけない神様たち
    引いていった子供みこし
   綿菓子の匂いを残して
   どこへ帰っていったのだろうか

   いくつもの秋を経て沈黙する足許の石
   いきいきと芽ぐむときを約束して
   名前も知らない草花が色褪せてゆく
   豊満な花梨の実は
   下弦の月の下で笑い
   秋の午後の構図は
   薄い翼をたたむ。

 「秋の午後は軽い」というこのフレーズだけでも魅力的な作品です。最終の「秋の午後の構図は/薄い翼をたたむ。」というフレーズもいいですね。「手紙一通も書き上げられなかった半日」「いくつもの秋を経て沈黙する足許の石」などのフレーズにも惹かれます。美しい「秋の午後」をうたった佳品だと思いました。



  詩はがき『散葉集』7号
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2004.4.1
広島市佐伯区
楽詩舎・津田てるお氏 発行
非売品
 

    祝いにきた人    津田てるお

   その葉書きを 手にとって
   その宛名を眼にした時
   さすがに 胸がキュンとした
   わが息子の名 であったから…

    なにしろ 十数年ぶり 父も忘れ
    彼の存在はとうに消えたはず だったのに

   (心がしばらく乱れた 春の嵐のように)
   しかし それはナント
   郵便局からの口座残高のお知らせ
   <現在高 414円>

   <これまで10年近く
    預け入れや払い戻しなどの ご利用がありません。…>
   イヤハヤ 郵便局も味なことをする

   彼の妹が
   (しばらく)外国生活をスル
   その 別れを惜しんでか 祝ってか
   あまりにタイミングがよすぎて
   かえって マイナスの不安もよぎったが
   (無事を祈って 駆けつけてくれた)んだ と

    あわてて 仏壇を奇麗にし 花をいれ
    供物をささげ 燈びと線香つけて チーン…

   妹は明日 朝 飛行機に乗る

 作品から「わが息子」が「仏壇」の中にいることは判ると思いますが、他の作品では20歳で亡くなったと書かれていました。もちろん詩作品ですから現実ととらえる必要はないのですが、ここは素直にそう受け止めた方が鑑賞の深みが増すと思います。
 「彼の妹が/(しばらく)外国生活をスル」直前に「わが息子の名」で来た「郵便局からの口座残高のお知らせ」。それは「祝いにきた人」なのだと納得する「父」の思いに胸が熱くなります。乾いた表現を装いながら、その奥のWetな部分を感じた作品です。



  会報『千葉県詩人クラブ会報』185号
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2004.3.20
千葉市花見川区
中谷順子氏 発行
非売品
 

    茶の湯    尾田愛子

   茶会からもどった娘は上気したほほで
   居間にすっと座った
   うぐいすの色無地に
   うつりのよい刺繍の帯
   「ごあいさつしてみて」
   和服は素直な作法の型を見せた
   茶会の余いんが格調を生んでいる

   毎日はスーツに梳いた髪 肩にずしり
   のショルダーで男と同じ職場で働く
   一日を仕事にかける苛酷の連続
   ほっとしたのは駆け込み寺の
   茶の湯のけいこだった
   甲冑をぬいで 姫に戻る
   松籟を呼ぶ茶の席で
   さわさわと緑の茶の香りを

   つややかな娘の映像がフッ消えた
   うっとりした母の目を削ぐように
   娘はいなくなってしまった
   今頃は、衣ずれの帯を ほどいているのだろう
   また明日への甲冑を着るために

 「会員の近刊詩集から」というコーナーで尾田愛子氏の詩集『着せかける』が紹介されていました。上の詩はその詩集の中の作品です。「娘」を見る「母」の視線がいいですね。「姫」と形容すると普通はちょっと嫌味になってしまうのですが、ここにそれは感じません。普段は「毎日はスーツに梳いた髪 肩にずしり/のショルダーで男と同じ職場で働く」女性であることが読者にも納得できるからだと思います。「一日を仕事にかける苛酷の連続」の中で「甲冑をぬいで 姫に戻る」ことに安堵感さえ覚えます。母娘の深い絆を感じさせる作品だと思いました。




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