きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

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「クモガクレ」
Calumia godeffroyi
カワアナゴ科
 

2004.5.24(月)

 久しぶりに製造課での試作に立ち会いました。2年前までは技術課勤務でしたから、製造試作というのは仕事の大部分を占めていましたけど、今の品質保証課に異動になってからは初めてだろうと思います。技術課時代に開発した技術がお蔵入りになっていたんですが、この度めでたく脚光を浴びて、新しい担当者に技術移転しようということになったものです。
 3年も動かしていなかった設備ですけど、昔のメモと記憶を頼りにやってみました。うまくいきましたよ。ホッとしましたね。技術の伝承も無事に済んでメデタシメデタシなんですが、やっぱり技術開発の仕事っておもしろいなと改めて思います。昔の夢を追っていてもしょうがなくて、今の仕事に邁進するしかないんですけどね…。今の仕事は決して嫌いなわけではないけど、サラリーマンの忸怩たるところです。



  詩誌『サライ』創刊号
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2004.4.25
栃木県宇都宮市
サライ Poem & Speech・金敷善由氏 発行
非売品
 

    サライ芸術論    金敷善由

   もがくこともさからうことも宥されない。見渡す限りの大草原そこ
   は、旧ソ連ボルガ川下流の東岸にあるキブチャク汗国の首都の遺跡
   よ。13、14世紀に繁栄したバトウの建設したサライは、その河口近
   くに又、ベルゲの建設した新サライも、そのやや上流に位置する。
   なぜか「薩来」とも書く。薄闇のなかで狂おしく渦巻く雲と吹きつ
   のる風の裂け目の中でひしめきながら魂は血に染まり、そのとき樹
   と樹は揺れながらするどくこすれていたのである。加えてキブチャ
   ク一帯の空には真っ黒い烏の群れが北へ北へと飛翔していた。鳥た
   ちの啼き声は不気味な音楽のようでもあり、また冥界からの声のよ
   うでもあった。いずれにしてもサライは百年ものその周到な闇の時
   代を経て、人類の根底に受精したものが一挙に火の粉となり、上空
   に高く燃え広がっていったのである。人はその事を進化と呼ぼうか
   はたまた、眼が大きく瞬き彫りの深くなった男と女の顔立ちのなか
   に、つまりは変身とみるかは自由であろう。
   イラクからまんべんなく悩まされるテロの情報を今日も書斎で聞き
   取り、ぼくは一生懸命、また可笑しいくらいにサライの命運を知ろ
   うとしていた。

 2月に創刊が予告された詩誌『サライ』の創刊号がとうとう出ました。まずはおめでとうございますと申し上げます。
 紹介した作品は発行者・金敷善由氏による『サライ』の語源と、その思いが表出したものと云えましょう。格調のある文体がこの詩誌の性格を物語っていると思います。冒頭の「もがくこともさからうことも宥されない」という詩句に並々ならぬ決意を感じ取ることも可能でしょう。「その事を進化と呼ぼうか」「変身とみるかは」はまさに「自由」でしょうが、前者ととらえたいと思います。
 今後のご発展を願っています。



  個人詩誌『伏流水通信』11号
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2004.5.25
横浜市磯子区
うめだけんさく氏 発行
非売品
 

    黒い犬    長島三芳

   黒い小犬は追っても追っても
   あとからついてきた
   肋骨までも透けて見える
   痩せこけた黒い犬であった。

   橋の上で
   今日工場でもらった
   パンの残りの一切れを投げてやった
   ふりむくと私も犬も
   腹の空いた生き物であった。

   夕暮れの一めんの焼野原
   途中で行きかう人間は
   家を焼かれた人たちばかりであった
   どの顔を覗いても口を聞かず
   この國の敗戦の中で
   みんな心の中まで空っぽにして沈黙していた。

   黄金町まできて
   橋の上からふりかえると
   私を追ってきた黒い小犬は
   もう見えなかった
   私は夕焼けの焼け野原で灰色の心で
   海の方へ歩いていった。

       −反戦・終戦のヨコハマにて

 敗戦直後の「ヨコハマ」での一光景ですが、当時の「みんな心の中まで空っぽにして沈黙していた」心境が痛いほど伝わってくる作品です。「黒い小犬」の象徴性が良く描けていると思います。私が生れたのは敗戦から4年後ですから、もちろん敗戦当時のことはまったく知りませんけど、そこに置かれた詩人の精神が伝わってくるのは、書物で多少の知識があるとは云え、作品の力に負うところが多いと思います。こういう形で民族の知識、民族の血として伝承していくことは必要なことでしょう。「灰色の心」が再来しないことを願いながら拝読した作品です。




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