きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

       
 
 
 
「モンガラ カワハギ」
新井克彦画
 
 

2004.7.31(土)

 昨日は午後から東京に出張していました。15時から19時まで会議は延々と続いて、最後には疲れてしまいましたけど、夕空はきれいでしたね。台風10号の影響で暗い雲があって、その間から青空と夕焼け雲が見えていました。大都市の意外な夕空にうっとりとしてしまいました。カメラを持っていけば良かったなぁ。

 今日は私の誕生日で、55歳になりました。明日からは定年まで4年ン十ヶ月≠ニいう逆算が始まります(^^;
 このトシになると誕生日だから何やする、なんてことはなくて、家でのんびりと過しました。じっくりと『文藝春秋』8月号を読みました。軽い読み物が多いので脳の疲れが取れるようです。
 こういう日に頼まれた原稿を書き進めておけばいいんですけどね。8月20日と10月10日締切のエッセイが1本ずつ。うーん、まだ余裕がある(^^;



  詩誌『すてむ』29号
    stem 29.JPG    
 
 
 
 
2004.7.25
東京都大田区
甲田四郎氏方・すてむの会 発行
500円
 

    くり返す    甲田四郎

   覚えないからくり返すのだが
   ネクタイというものは
   何回締めれば締め方を覚えるものであるか
   と思うときがある
   そのネクタイを鏡に向かって締めて
   背広を着て靴をはいて鞄を下げて
   階段を下りたら帽子を忘れていた
   階段を上って靴を脱ぎ帽子をかぶってまた靴をはき
   階段を下りたら傘を忘れていた
   階段を上って下駄箱にあったのを鞄に入れ
   階段を下りたらサンダルをはいていた
   階段を上りながら笑いがこみあげてきた
   靴をはいたら首筋に汗をかいている
   出かける前にくたびれちゃった

   家の前の広場の樹が葉を揺すり
   陽を泡立てているキラキラを眺めれば
    <こめわたる光追い追い 遙かなる言葉くり返す>
   五十年前高校の先生が見せてくれた自作の
   詩の断片を思い出す
   先生のはにかみも
    <遙かなる言葉> て何ですか
   とまた訊いてみたい
   いつかどこかで聞いたような言葉だったけれど
   先生たちの青春は戦争だった
   これは青春の前に見た夢なんだと聞いたけれど
   ああ それもいつかどこかで聞いたようだ
    <くり返す> てなんべんくり返すんですか
   と訊いてみたい
   学習できない魚が何万年も釣られ続けるように
   私はネクタイの締め方が覚えられない
   言葉を間違って覚えているのではないか
   ひょっとそんな気がする
   自分のために言葉なんかくり返さない
   くり返すのは <遙かなる問い> だよ
   と先生が言うような気がする

 「出かける前にくたびれちゃった」というのは笑い話で済まされるかもしれませんが、「学習できない魚が何万年も釣られ続けるように/私はネクタイの締め方が覚えられない/言葉を間違って覚えているのではないか」というフレーズは考えさせられますね。結局、私たちは何も「学習できない」でいるのかもしれません。だから「くり返すのは <遙かなる問い> 」ばかりになるのでしょうか。日常と歴史、人間の根源を見据えた見事な作品だと思いました。




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