きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり

       
 
 
 
「モンガラ カワハギ」
新井克彦画
 
 

2004.8.14(土)

 高校のクラス会に出席してきました。昨年暮にやったばかりなんで、モノ好きな連中だなと思いましたけど、もちろん喜んで出席。呑める機会は逃さない(^^;
 今回は二人の担任の先生も出席してくれて、札幌からの出席者もあったり、同じクラスではなかったけど同学年のバスケット部の連中も合同したりで、かなりの大人数になりました。幹事さん、ご苦労さまでした。

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 実は私、高校1年の途中まではバスケット部に所属していたんです。中学とは違う厳しい練習に耐えられずに退部しました。ですから、それは私のトラウマですから隠しておきたかったのですけど、合流した旧バスケット部の連中はしっかり覚えていましたね。嫌なヤツらだ(^^;

 クラスで気の合っていた男に、現在は小中高一貫校の美術教師をやっている絵描きがいて、彼のアトリエが会場の近くでしたから、二次会の前に皆で寄ってみました。なかなかいい絵が揃っていたけど、どうも一般的だなと思っていたところ、中の一点は抜群。「バベルの塔」と名付けているようですが、塔を囲む人物の描き方、塔に塗り込められている人物という発想・描き方が新鮮に感じました。もちろん本人の気に入っている作品だそうです。ただし、思った通り同級生たちからは不評でした(^^;

 今回札幌から駆けつけてくれた女性は、前回のクラス会で私が会いたいと言ったから来たそうです(私本人は忘れている(^^;)。高校のときは別に恋人でも何でもなかったけど、妙に気が合っていつも話をしていました。何を話したか忘れているので聞いてみましたら、文学のことだったそうです。きっと、おもしろくない男だったのだろうなぁ(^^;





  個人詩誌『粋青』38号
    suisei 38.JPG    
 
 
 
 
2004.8
大阪府岸和田市
粋青舎・後山光行氏 発行
非売品
 

    秋を迎えて(1)

   暑い夏が終わろうとしている
   私もこの夏を最後に
   何年も着た背広を
   脱ごうとしている
   例年より暑く感じた夏に
   最後だと決めて
   背広を着て過ごしている
   重い荷物も
   相変わらず持ち歩いている
   いろいろな
   生活の区切りがあるけれど
   生きることに区切りはない
   子供等が離れていき
   住み慣れた家がひろくなる
   私も 家も
   気付かないところに
   補修が必要になったりして
   風が冷たく感じられる
   風が逃げていく
   ながい間にかいた汗が
   心の奥のほうにたまって
   ちいさな池をつくっている
   わずかにおこる波紋が
   全てを
   なつかしい記憶に塗り替えて
   再生してくれる

 作者は私より1年先輩になりますが「私もこの夏を最後に/何年も着た背広を/脱ごうとしている」のは事実かどうか判りません。作品の上でのこととして鑑賞しています。「いろいろな/生活の区切りがあるけれど/生きることに区切りはない」というのはいいフレーズですね。確かにその通りだと思います。「私も 家も/気付かないところに/補修が必要になったりして」いるのは私も実感しています。最終の「ながい間にかいた汗が」「わずかにおこる波紋」によって「なつかしい記憶に塗り替えて/再生してくれる」というのも、実感はありませんが判るような気がします。そろそろ定年を考えなければいけない時期に差しかかった私には身につまされる作品でした。
 なおタイトルの(1)は原文では○の中に1となっています。機種依存文字ですので変更してあります。ご了承ください。



  詩誌『山形詩人』46号
    yamagata shijin 46.JPG    
 
 
 
 
2004.8.20
山形県西村山郡河北町
高橋英司氏編集・木村迪夫氏 発行
500円
 

    或る診察室風景    阿部宗一郎

   では次の方どうぞ

   それではあなたの検査の結果がでまし
   たのでお話しいたします
   病名は 最近あなたのような若い方に
   多発している病気ですが パラサイト
   症候群の感染とその合併症というもの
   でした この病気の汚染源はほとんど
   の場合パパママが持っているウイルス
   でしてね 戦後ダンカイ世代のパパマ
   マ達が アメリカからきた粉ミルクの
   中の異分子を消化できず 同時に北の
   国からきて吹き荒れた赤い風にも犯さ
   れて 草食民族だった日本人固有の人
   格を核分裂させたウイルスなんですよ
   このウイルスの特徴はですね 肉体と
   本能の欲望だけは世界水準なみに発育
   させるのですが 人格やタマシイやコ
   コロザシなど 人間に宿る神の領域だ
   けは幼児期のままという いわゆるコ
   ドナ症状 コドモのままのオトナをつ
   くり出すのです やっかいな病気なの
   ですよ

   そのうえなおやっかいなことに この
   まま症状が進行しますと モラトリア
   ム症という合併症が脳を犯しましてね
   幼児期では不登校やひきこもりに 成
   人期にはフリーター宣言などに走って
   全体という構造の中の個として適応で
   きなくなってしまうのですよ モラト
   リアムとはもともと経済学上の用語で
   支払猶予ということなんだけどね 人
   間のモラトリアムは人生の経過時間を
   自分勝手に猶予して オトナになりた
   がらなくなるのです 四十過ぎたらオ
   トナになりますなどと言い出すので
   近頃は人間の症状にも用いられるよう
   になったのですよ この症状が重くな
   ると ぜんたいはすべて個に奉仕する
   ためにあるなどと バーチャルリアリ
   ティの幻覚を泳ぐ夢遊病の症状を見せ
   てきて ふたりのために世界はあるの
   なんて歌い出したり 楽に生きたいけ
   どがんばりたくはないなどと言い出し
   ます

   真冬 国道113号線を山形から鶴岡
   への進路をとると 月山第一トンネル
   を過ぎ 湯殿山口あたりから 右も左
   も雪だけの山々に 耐えて生きる人間
   のシンボルともとれるぶなの木立ちが
   ひろがります そしてその中に 異様
   なもじゃもじゃの鳥の巣状のものを見
   つけます ぶなの木一本に七つ八つさ
   らには二十もと 全山数万のヤドリギ
   のしがみついている姿です ぶなの木
   をパパママにして寄生するいわゆる宿
   り木パラサイトの大群生です

   夏 ぶな林に生気みなぎり 国土が緑
   したたる時代では ぜんたいの中に隠
   れて白日に晒され目立つことはないが
   いつか時代が冬に変わり 豊饒の大国
   で日出ずる筈のこの国に日没がおとず
   れ 日没していたあの大国に日が昇る
   ときが来るその日 このヤドリギ症候
   群はどうやって冬を越し生きのびるの
   でしょうね

   さてその治療の方法ですけどね タマ
   シイもココロザシもカミまでも エコ
   ノミックアニマルに銭で売り渡したこ
   の国この家庭の環境では 治癒が難し
   いのです 新しい人格の芽が生えてく
   るには ダンカイ世代とそのウイルス
   感染者の君達が 極寒期のどん底 マ
   イナス絶対ゼロ度の環境で ウイルス
   が一度壊滅してからでないと不可能な
   のです おそらくそれには百年ぐらい
   かかると考えられています それまで
   生きるほかに方法はないのです これ
   があなたの検査の結果です

   では診断書を書いておきましょうね

 世相を見事に表現したおもしろい作品だと思います。「肉体と/本能の欲望だけは世界水準なみに発育/させるのですが 人格やタマシイやコ/コロザシなど 人間に宿る神の領域だ/けは幼児期のまま」、「ぜんたいはすべて個に奉仕する/ためにある」、「楽に生きたいけ/どがんばりたくはない」などの言葉は痛烈ですね。
 第4連からはより具体的になって「国土が緑/したたる時代では ぜんたいの中に隠/れて白日に晒され目立つことはない」という詩句は言いえて妙だと思います。第6連の「ダンカイ世代とそのウイルス/感染者の君達が 極寒期のどん底 マ/イナス絶対ゼロ度の環境で ウイルス/が一度壊滅してからでないと不可能な/のです」と言われると、いかに私たち「ダンカイ世代」が致命的な欠陥を持っているかが判ります。おもしろいけど警句として素直に受け止めたい作品です。



  個人詩誌『伏流水通信』12号
    fukuryusui tsushin 12.JPG    
 
 
 
 
2004.8.10
横浜市磯子区
うめだけんさく氏 発行
非売品
 

    満月    うめだけんさく

   満月を 闇に放り投げ
   夜道を急ぐ
   冬の風が 体に刺さり
   心が うねっている

   荒い息が
   胸に逆流して
   溺れてしまいそうだ
   糞いまいましいが ひたすら歩く

   冬の風をもろにうけ
   突き刺さるが 歩く歩く
   闇の彼方に 投げた月が
   小癪にも皓々と冴えている

 月は比較的良いイメージで捉えられていますから「満月を 闇に放り投げ」たという最初に行には驚かされました。最終連では「闇の彼方に 投げた月が/小癪にも皓々と冴えている」と重ねて言っているのですから、よほど「糞いまいましい」ことがあったのかなと推察しています。「心が うねっている」というフレーズも佳い表現だと思いますし、一般の感覚を逆手にとったおもしろい作品だと思いました。



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