きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
     
 
 
 
「モンガラ カワハギ」
新井克彦画
 
 

2004.9.11(土)

 久しぶりに日本詩人クラブの例会に出てみました。日本ペンクラブの電子文藝館委員会でご一緒している、西垣通東大教授の講演があったからです。演題は「情報氾濫下の文学・生き方」。コンピュータの研究者としてどんな発言をするのか楽しみにしていましたが、期待は裏切られませんでしたね。19世紀までの古典物理学を覆した20世紀の量子力学の話は説得力がありましたし、言語的には情報≠ニは本来軍事用語で、敵情報告から来ていることなど、非常に示唆に富むものでした。

  040911.JPG   父上は日本詩人クラブの会員でもあった、詩人・俳人の西垣脩氏。
俳句の17文字をバラバラに見せられても元の俳句が判ってしまったそうで、
そんな父上とは文学面では太刀打ちできないからと理系の道に進まれたそうです。
でも、血は争えないもので、理系の研究の傍ら、
近未来小説『刺客(テロリスト)の青い花』、歴史小説『1492年のマリア』、
今年は7月に『アメリカの階梯』を出したそうです。
有り余る才能に瞠目しましたね。
女子学生のファンも多いようで、会場にたくさん来ていました。
それにしても、このお顔、この髪で私より一つ上とは……。
恐れ入りました!
(苦労が無い、わけじゃないと思います(^^; )











  詩誌『燦α』29号
    san alpha 29.JPG    
 
 
 
 
2004.10.16
さいたま市北区
燦 詩文会・二瓶 徹氏 発行
非売品
 

    空に残る月    つきの 慧

   そして 朝が来る
   宙ぶらりんのまま
   また今日が始まる

   寂しさとか切なさとか哀しみとか みんな
   ありきたりなものばかりね
   けど その ありきたりなもので
   人生の半分は できてる

   コーラの一気飲み
   炭酸にむせて
   一人で泣き笑いした
   白い冷蔵庫の前

   窓を開けて深呼吸する
   涼やかな風を胸に
   穏やかに絶望していく
   静かな静かな時間

   まだ笑える
   それでも きっと たぶん

   そっと 見上げれば
   明けはじめた蒼
(あお)

   薄く光っている

   空に残る月

 「薄く光って」「空に残る月」が「穏やかに絶望していく/静かな静かな時間」の象徴として遣われていますが、なかなかいい視点だと思います。「ありきたりなもので/人生の半分は できてる」という思想が根底にあるわけですけど、「一人で泣き笑いした」ことも「まだ笑える」範囲だと捉えているようで、基本的には前向きなんでしょうね。だから「宙ぶらりん」がいつまでも続く人とは思えません。いずれ「穏やかに絶望していく」時間が無くなると思った作品です。



  田川紀久雄氏詩集田川紀久雄全詩集1
    tagawa kikuo zenshisyu 1.JPG    
 
 
 
 
2004.10.10
東京都足立区
漉林書房刊
3500円+税
 

    

   炎が渦を巻き天に舞い上がります 男はじっとその炎の先端を見つ
   
めながら何か物思いに耽っている様子です 男の手は女の女陰(ぼぼ)の上
   に置かれています 女も男の火柱をしっかりにぎりしめたまま見動
   きもいたしません 先程までの激しく愛しあった快惚状態が嘘のよ
   うに 周囲の静寂の中に消されていってしまったのです 薪の爆ぜ
   る音が炎の音と共に時々男と女の耳に入るだけです 黒姫山の上に
   三日月が登り 番神堂の灯明が薄らと見渡せます
   ――いつまでもこうしていたいのう
   と男はぽつんと呟やくのです
   ――はい 私もいつまでもこうしていとうございます
   男はゆっくりと女の方に體を寄せます そしてゆっくりと女を抱き
   寄せるのです

    わが身 浄める はらい川
     明けたよ 夜があけたよ 寺の鐘うつ坊
      主や
     お前のおかげで 夜があけたよ
                 <三階節より>

   
男は唄いながら乳首に頬を零せつけ 右手で女陰(ぼぼ)をゆっくりとやさ
   しく撫ぜさわるのです
   ――ああ いいよ ああ いいよ
   と女は経文を唱えるかのように何度となく呟やくのでございます
   濡れる雫の中に男は顔を埋め両手で女の腰を強く押えこむのです
   炎の渦まく音だけが男と女の動くリズムに合わせて聴えてくるので
   す 男は家族を捨てて こうして女を抱きしめていると 生きるそ
   
のもの炎(いのち)だけが男の鰻の中に燃え上がってくるのです いつまでも
   
 この炎を求めて生きたいのです 激しく燃え上る炎(いのち)の中で命のい
   とをしさを感じとっているのでございます

 全詩集はこのあと何冊か続くようです。第1巻では第1詩集から第7詩集までが載せられていました。気になっていた第1詩集の『火事ですよ』が読めたことが幸いでした。
 紹介した詩は第7詩集の『炎』の巻頭作品です。田川詩の世界には伊勢物語、瞽女の世界、秩父困民党、施設に滞在する妹さんを扱ったものなど、非常に幅広いものがあるのが今回よく判ったのですが、もうひとつの世界は愛欲でしょう。かなりストレートな表現ですが、そこにはイヤラシサはありません。何に対しても真正面に真剣に向き合っている姿勢が読み取れるからだと思います。そんな思いでこの作品を紹介した次第です。もちろん作品は創った世界ですけど、真摯な姿が見えていると思います。

 「」は、いわゆるオドリですが、現在のインターネット上の日本語はそこまで整備されていません。止む無く近い画像で表現しました。ご了承ください。




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