きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
「モンガラ カワハギ」 | ||||
新井克彦画 | ||||
2004.10.2(土)
楽しみにしていた栃木県詩人協会主催の「詩友たちとのバスツアー」に行ってきました。宇都宮駅に午前8時半集合でしたから、小田原を一番早い新幹線でも6時43分発。5時起きしてギリギリでした。
宇都宮からは貸切バスで、最近話題になっていて、私も行ってみたいと思っていた福島県の「諸橋近代美術館」に向いました。天気も良かったし最高でしたよ。好きなダリの彫刻と絵を堪能しました。セザンヌやルノアール、ローランサンなども多少はありましたけど、8割はダリと思っていていいでしょうね。おそらく国内最多ではないかと思います。
諸橋近代美術館を背景に。参加者は18名。 25人乗りのバスでしたから、人数としては最適でした。 東京近辺から秋元炯さん、水島美津江さん、そして私が加わりました。 行きは詩の朗読をやったり真面目な歌を歌ったり…。 でも、帰りは大カラオケ大会。みんな歌がうまかったなぁ。 ずいぶんと通っているんでしょうねぇ(^^; バスの中で歴史占いというのを幹事の神山暁美さんがやってくれて、 これがバカ受け。生年月日から歴史上の人物になぞらえた性格判断で、 私はなぜか織田信長。 とにかく新しいモノ好き。最先端という言葉に弱い。先見の明を 発揮して新機軸を打ち出すアイディアマンだが、反面、新しいもの なら何でもいいのか、という批判も受けがち うーん、合ってる(^^; 幹事の綾部健二さん、神山暁美さん、ありがとうございました! |
宇都宮に戻ったら綾部さん、神山さん、水島さんの4人で夕食を共にしました。県外組の二人のために東横インにホテルを取っていてくれたのですが、もちろん部屋は別々。君子は危うきに近寄らず、です(^^;;;
呑んで食べて、3時間ほど過したでしょうか、宇都宮のお二人が帰ったあとは、綾部さんご推薦のパブに水島さんと二人でしけこんでカラオケ三昧。女性3人組の客とも仲良くなって、宇都宮の夜は更けたのでありました。そうそう、店は半年前に綾部さんに連れて行ってもらったのですが、ママさんは私を覚えていてくれました。これも感激だったことを付け加えておきます。
○綾部健二氏詩集『工程』 | ||||
1980.12.15 | ||||
東京都文京区 | ||||
芸風書院刊 | ||||
1500円 | ||||
初飛行
整備された滑走路を
一直線に
純白のおまえが 駈けてゆく
離陸――
地平線が眼下に沈みはじめると
おまえは
おもわず 尾翼をふるわせる
――初飛行
純白のおまえは
俺たち飛行機野郎の 空へのメッセージだ!
空の青さへの 挑戦だ!
午後の陽に映える
機械仕かけの 白鳥よ
おまえは
おまえを創った 男たちの
熱い心を知っているか
からだ
アルミ合金の しなやかな機体と
たくましい双発の おまえ
おまえは
さまざまな工作機械と
おまえを愛してやまない 男たちの
熱い心から生まれたのだ
さあ 飛ぶがいい
機械仕かけの白鳥よ
現代のイカルスよ
青空に 希望の半径を描くがいい!
遠い眼差しの
(かつての少年飛行兵の)
初老のテストパイロットは
すべて おまえの鼓動を
みずからの鼓動にしている――
――初飛行
純白のおまえは
俺たちの 空への讃歌だ!
空の広さへの 感嘆符だ!
大地からの自由!
大空への自由!
俺たちはおまえに
熱い拍手を贈ろう――
(新型機の初飛行に寄せて)
その綾部健二さんから第二詩集をいただきました。著者20代後半の作品が収められています。この詩集には、文学的には「冬の断層」、タイトルにもなった「工程」など優れた作品が多いのですが、あえて「初飛行」を紹介してみました。おそらくこの分野を紹介する人はいないと思いますので…。
綾部健二さんは現在、出向して筑波の宇宙開発研究開発機構に勤務していますが、もともとは零戦を造った中島飛行機の後継会社・富士重工の社員です。根っからの「飛行機野郎」というわけですね。その「おまえを創った 男たちの/熱い心」「おまえを愛してやまない 男たちの/熱い心」がよく出ている作品だと思うのです。
このHPでは何度も書いていますから、またかよ!と思う人が多いかもしれませんが、私事をご海容ください。私は1978年にハンググライダーを始めました。ほとんど、スカイスポーツの草分けです。その後、中断があって1989年にパラグライダーで空の遊びを再開しています。それも6年ほどでやめて現在に至っていますから大きなことは言えないのですが、「空の青さへの 挑戦だ!」「青空に 希望の半径を描くがいい!」というフレーズには共感するのです。
「おまえは/おもわず 尾翼をふるわせる」「すべて おまえの鼓動を/みずからの鼓動にしている――」というフレーズは、布でできた航空機を操るだけの私たちが呼んでいた実機≠ナしか味わえないものでしょうが、気体に対する愛着という面では共有するものがあると思います。若き詩人にして「飛行機野郎」の綾部さんの一時代を見せてくれた作品と云えましょう。
○会報『栃木県現代詩人会会報』50号 | ||||
2004.9.20 | ||||
栃木県宇都宮市 | ||||
我妻 洋氏方事務局・栃木県現代詩人会 発行 | ||||
非売品 | ||||
約束 岩下 夏
死んだひとがあらわれた
そのひとはとても幸せそうで
しなびた私は 忘れていた重大ななにかを思い知った
死んだひとは 瞳の真ん中にきちんと私を置いた
語尾はとても明確
内容はよくわからなかったけど
大切な時間をなくしそうだったので
負けずに瞳の真ん中にそのひとをしっかりと固定して
心をこめてうなずいた
たそがれの時間
水辺の空気は切なさの濃度を高くした
それをひた隠して風は軽やかに過ぎていく
ふたりで交わした約束
守られないことが約束されている約束で
笑顔も 幸福感も かつてほしかったものは
惜しげもなく溢れだしては零れた
ドアが閉まる
鍵はおりた
滑りこんだのはどちらだったのだろう
死んだひとは消えていた
私はどこでもない場所で 立ちすくんでいた
余韻にひたりこみながら
名前をもてない世界で
はらっと見つけた 忘れていた大切なことについて
やっと考えはじめていた
こちらも「詩友たちとのバスツアー」の際にいただきました。総会や新人賞の選考、前年度に出版された会員の詩集紹介、会員のエッセイなど12頁にわたる充実した誌面です。
紹介した詩は、本年度の新人賞を受賞した岩下夏氏詩集『さまよい雀』のなかの1篇です。「死んだひとは 瞳の真ん中にきちんと私を置いた」「負けずに瞳の真ん中にそのひとをしっかりと固定して」などのフレーズで著者の姿勢を見ることができます。「守られないことが約束されている約束」は、この作品の底流として流れているフレーズで、うまい言い回しだなと感心しました。
力のある新人も現れて、ますます会が隆盛になるだろうと感じた会報です。
○隔月刊詩誌『叢生』134号 | ||||
2004.10.1 | ||||
大阪府豊中市 | ||||
叢生詩社・島田陽子氏 発行 | ||||
400円 | ||||
蝉 島田陽子
水桶の中に蝉がいた(らしい)
知らずにつっこんだ柄杓が掬いあげた
死んでいるのか 生きているのか
そばの花ニラに柄杓をそっと傾けると
あ 一本の葉につかまった
しばらくして見るとまだとまっている
夜になって朝になって もういなかった
飛んでいったのか 花ニラの根元に落ちたのか
確かめなかった
私は私の出来ることをした
(出来ること 出来ないこと
この世にはその二つしかない)
高層住宅九階の白壁にしがみつき
シャーシャーとやかましく啼く続けた蝉よ
ベランダの隅の水桶に落ちはしたが
その場所を選ぶ理由がお前にはあったのだろう
出来ること 出来ないこと
折々に振りわけながら歩いている
シャーシャーと啼き立てはしないが
声にならない声で精いっぱい啼きながら
「(出来ること 出来ないこと/この世にはその二つしかない)」というのは重い言葉です。「私は私の出来ることをした」例として「蝉」が出てくるのですが、結局は「出来ること 出来ないこと」を「折々に振りわけながら歩いている」にすぎない、「声にならない声で精いっぱい啼」いているにすぎない、という作者の思いが痛いほど伝わってきます。「蝉」を題材にして私も書いたことがありますし、比較的多く採り上げられている対象ですが、このような作品には初めて出会いました。いつまでも心に残る名作です。
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