きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
     
 
 
 
「モンガラ カワハギ」
新井克彦画
 
 

2004.10.24(日)

 午前中は会社に出て、午後から秦野市の紙芝居カフェ「アリキアの街」に行ってきました。風間翔さんの朗読が予定されていました。

041024.JPG   演目は宮部みゆきの作品から「ミステリーは如何?」。
終電で帰ってきたサラリーマンがタクシーを待つという設定で、ちょっと怖かったですね。もちろん部屋は暗くして、効果音に車の騒音が入って…。
久しぶりに朗読らしい朗読を聴いたように思いますが、なかなか好いものです。詩の朗読も、いいものはいいけど、そういう機会には滅多に巡り合うものではありません。そこへいくと散文の世界はハズレが少ないように思います。もちろん演者の力量があってのことです。今回は当然、楽しませてもらいました。




齋藤氏詩集『夕映えの定期便』
    yubae no teikibin.JPG    
 
 
 
 
2004.10.30
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2100円+税
 

    夕映えの定期便

   総ガラスの二階縁側の椅子に腰掛け
   屋根越しに夕日に映える雲を眺める
   定刻 西に向かう旅客機がある
   飛行機雲が茜に尾を曳いて空を飾る

   井戸を汲むポンプの音に庭を眺める
   老妻が体を庇い花の芽に水をやっている
   春はそこまで来ているのだが
   花粉症の私にはつらい明日が待っている
   
ろふう
   露風を知らない人たちに親しまれて
   タベを告げる「赤とんぼ」の曲が流れる
   小川も林もないこの小住宅の密集地
   今年も蝉は電柱で短い命を閉じるだろう

   雲に覆われ機影が見えない小雨の日など
   寒々と満蒙の空に仰いだ月を想う
   世紀を越えた引揚げ難民の生き残り
   孤独な爆音に我が身をいとう暮れ方がある

   片肺飛行も限界にきて なお生きて
   私は今日も西に向かう定期便の孤影を追う
   世に残す命の軌跡のあともなく
   アジア大陸に小さな機影を消すのだろうか
                     
あかとんぼ
     (註)露風…詩人三木露風 童謡「赤蜻蛉」の作詩者
        引揚げ難民…敗戦で外地から難民として帰国した人々

 詩集のタイトルポエムです。静かな日々の中にも「老妻が体を庇い」、「花粉症の私にはつらい明日が待っている」。さらに「片肺飛行も限界にきて」いるという深刻さがあるのですが、悲惨な感じはしません。著者の人徳というものでしょうか。
 「夕映えの定期便」は、実は私の家からも見えます。時々気付いて「飛行機雲が茜に尾を曳いて空を飾」っているのを見るのですが、同じ「西に向かう旅客機」を見ていたかもしれないと思うと、感無量のものがありますね。著者が撮影したという現在の韓国の郊外写真とともに、落ち着いた好い詩集だと思いました。




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