きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
     
 
 
 
「モンガラ カワハギ」
新井克彦画
 
 

2004.10.31(日)

 10月も今日でオシマイですが、特に記すること無し。終日、家に居ていただいた本を読んでいました。おだやかな一日。こういう日は気持が好いものですね。




高橋芳子氏詩集『心のノート』
    kokoro no note.JPG    
 
 
 
 
2004.10.30
東京都文京区
詩学社刊
1500円+税
 

    夢のまた夢

   鉢植のパンジーとシクラメン
   を見ているうちに
   私はうたた寝をしてしまった
   夢の中に無数の亀裂が
   口を開けていて索漠とした世界に
   私を引きずりこもうとしていた

   あの声はどこかできいたことのある声
   記憶の淵をさまよいながら
   私は懸命になって
   その人をさがしていた

   何故かそこでは太陽は輝いているのに
   動物達も植物も
   みんな死んでいるのだった
   そして風まで私をなぶって
   しゆうしゆう音をたてながら
   逃げようとする私に
   追い打ちをかけるのだった

   これは私の死後の世界かと
   首をまわして後を見ると
   もうすでに私のための献花が
   沢山並べられていて
   読経がきこえるのだった
   私は夢の中で もう一つの
   夢を見ているのではないかと思った
   そして地獄とも極楽ともいえない
   世界ですすり泣く声が
   聞こえてきた
   それは泣いている私の声だった
   やがて私は涙の量だけ軽くなって
   目が覚めた

 自分の死を夢に見るという、しかもやけに現実感のある詩篇で、おもしろいなと思いました。「すすり泣く声」が実は「泣いている私の声だった」と気付くところも効果を高めていると思います。最終の「やがて私は涙の量だけ軽くなって/目が覚めた」というフレーズは見事です。その「軽くなっ」た分だけ著者は何かをフッ切れたのかもしれませんね。
 死後の世界や亡くなった人たちが多く出てくる詩集ですが、暗さはありません。むしろ爽やかささえ感じます。著者のお人柄だと思います。



詩とエッセイ誌『沙漠』235号
    sabaku 235.JPG    
 
2004.9.25
北九州市小倉北区
沙漠詩人集団事務局・餘戸義雄氏 発行
300円
 

    じょもじょもぼちぼち    原田暎子

   追いこされぎわに
   いかがお過ごしで、と
   声をかけると
   おっと、と泳ぐような仕草で立ち止まる
   そのままの姿勢で 顔だけでこちらをふり返って
   そちらこそ、と鋭い目をむける
   だがすぐさま、にんまりと三日月型の目になる
   まあなんとかぼちぼち そう じょもじょもぼちぼちです
   と、答える。(ええっ、じよもじょも?)
   どうもどうもぼちぼち と言おうとしたのに。
   そのあとも
   じょもじょもぼちぼちじょもじょもぼちぼち が
   連発してとまらない
   相変わらずのお宅さんですねえ、と透かすような目つきで
   もう行こうとする風がとれるので、あっ、どうぞ、と
   慌てて手で動作する、と びゅうん、
   と去ってしまった
   取り残された
   真っ昼間の白瓜屋の店先で
   のったりのったり氾濫している
   じょもじょもぼちぼちじょもじょもぼちぼち

 作中人物の人間像が巧く描けている作品だと思います。「おっと、と泳ぐような仕草で立ち止まる/そのままの姿勢で 顔だけでこちらをふり返って/そちらこそ、と鋭い目をむける/だがすぐさま、にんまりと三日月型の目になる」のは男性でしょうか。「相変わらずのお宅さんですねえ、と透かすような目つきで/もう行こうとする風がとれる」というのもうまい表現だと思います。
 そして、何と云っても「じょもじょもぼちぼちじょもじょもぼちぼち が/連発してとまらない」主人公がおもしろい。言葉もおもしろいけど「連発してとまらない」のが可笑しくて、思わず笑いをこらえてしまいました。街角でちょっとすれ違っただけの風景ですが、こうも人間を描けるのかと感心した作品です。




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