きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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愛嬢(愛婆?) 百個(モモコ)、
   初体験の朝陽輝く雪原を往く!
2005.2.27
自宅庭にて
 

2005.3.22(火)

 今日の15時までに宅配便に乗せなければいけない書面があって、昨日は休日出勤しました。部下の女性には先週から書いてもらっていましたので、昨日ふたりで取り組めば15時頃には終るだろうと思っていたのですが、とんでもない、18時を過ぎても終わりませんでした。今日も二人掛りで昼メシもそこそこに14時まで。何とか間に合いましたけどシンドかったなぁ。
 辛いのは、そういう時間指定の仕事をしていると他に手をつけられないことです。昨日は世間が休日でしたので外部からの連絡は無かったのですが、今日はその反動でしょうか、電話もメールもどっさり。最低限のことだけをやって19時前に帰ってきました。この分だと今度の土日も出勤しないとしょうがないなと思っています。どちらか1日は休むようにしますけどね。

 そんな生活もあと4年。定年が待ち遠しいです(^^;




飯嶋武太郎氏訳詩集きのう おととい 遠い日に
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「基鼎詩集          
2005.2.1          
東京都豊島区          
東京文芸館刊          
2000円+税          
           

    お金 T

   お金とは
   世宗大王の顔が描いてある紙っぺらだが
   多ければ多いほど木の幹がぱりぱりするもの
   お金とは なければお腹がすいて
   この世のすべてが面白く無くなること
   お金によって人間の価値が二束三文
   あるいは金の値打ちに変わるということ
   お金とは 誠に素晴らしいもの
   泣いていた子もぴたりと泣きやむ薬のようなもの
   お金とは 出来ないことでもどうにでもなる
   縄が綱にもなる魔法のようなもの
   お金とは 楽しいもの
   無い者を助けるときや義援金を出すときは
   愛国者気分となりマスコミに名前が出るもの
   お金とは 献金が多くなれば汝矣登へ行く道が舗装され
   全国区の一議席も手に入るというもの
   それで秘書の補佐官ぞろぞろつき従い官僚の話しを聞いて
   誰でもそれなりに立派になれるということ
   お金とは 集めても集めても限りなく欲深くなるもの
   銀行預金の利子は無きに等しいものだから
   投機と銭投げ遊びが流行る情の中
   そして賄賂の恥部があばかれると
   ある高いところから押し出される
   糞の棒切れになって潰れるというもの
   お金とは 心をときめかせるもの
   夢を育み力を手にし 時には空さえ小さく見せるもの
   お金とは 王子様をつくるもの
   江南のルームサロンに見事に根づいたなら
   公主、仙女、春香が服を脱ぎすて群れて押し寄せてきて
   兄さん、兄さんになる
   お金とは 人を若がえさせるもの
   いい人参、若鹿の角、インド産のコブラ オットセイの睾丸
   ミミズ、アリをムシャムシヤ食べてスタミナをつけるもの
   もぐさ灸 ラドン灸 全身マッサージ
   しこしこ按摩されてもったいぶったゲップをし
   こんな楽しいことは百年過ぎたって
   こんな世の中ほったらかしてくたばるなんて
   ばかだと言うこと
   お金は 人の心を揺さぶるもの
   人が作ったものでも人を動かせる
   あまりにも倫理に背くもの
   お金によって近くにも遠くにもなり
   猜疑し、憎み、愛し、死に行く
   ああ 厳粛なもの
   お金とは 汚いもの
   単にお金によって人格が無視され
   胆のうもはらわたも腐らせ人を哀れにするもの
   媚を売るかお世辞をいうか
   こん畜生と限りなく辛く疲れさせるもの
   お金は この国の女たちを
   二色の糸で足をセクシーに見せる
   お化けの浮遊のようなもの
   観光韓国の仁川空港にこの足が列を作って立てば
   モーゼの奇跡が蘇える

   お金とは この世をおさらばする時
   残念だが全部を捨てていってしまうもの
   それでも多いというのは良いものだ
   歳をとっても何でも自在にできるから

   ああ 金よ

 著者は京畿道出身で、韓国経済日報社会部長・アジアンタイム編集理事などを勤めて、現在、慶熙大学経営大学院講師。国際ペンクラブ韓国本部会員でもあるようです。顔写真が載っていましたが、おだやかなお人柄という印象を受けました。
 訳者は拙HPで何度も紹介していますからご存知の方も多いと思いますが、千葉県総合畜産研究センター主席研究員で日本詩人クラブ会員。独学でハングルを勉強して、韓国の文芸作品を紹介する日韓文学交流誌『むくげ通信』を発行していることでも有名ですね。

 紹介した作品は誰にでも経験のあることを巧くまとめていて、国を問わず、どこでも同じようなんだなと改めて思います。詩としては「観光韓国の仁川空港にこの足が列を作って立てば/モーゼの奇跡が蘇える」などのフレーズがおもしろいと思いました。まさに「ああ 金よ」ですね。



山佐木進氏詩集『風土記』
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2005.3.3
千葉県茂原市
草原舎刊
2000円+税
 

    朝のスケッチ

   刃物トギ
   の看板のある坂道をくだり
   竹林づたいの小さな曲がり道で
   風船のようにはしゃいでいる
   小学生たちと出会った

   筑波山の女の峰が
   しのび足で素足を洗いにくる夜明けの利根川
   河原に捨てられている洗濯機が
   朝のひかりを洗っている

   明け方のひかりが
   遠い雲の稜線を金いろに輝かせている
   小さな街は
   まだ眠りから覚めきっていない
   静けさだけが
   電信柱に小鳥のようにうずくまっている

   ほろにがい議論のはての朝
   ひとつまみの塩を
   花柄の小皿に入れて
   あなたは手渡してくれた
   その塩のひともりを人差指にのせ
   わたしはゆっくり歯をみがいた

 久しぶりにさわやかな作品に出合いました。思わず、あちこちのフレーズに○印を付けてしまいました。「風船のようにはしゃいでいる/小学生たち」、「筑波山の女の峰が/しのび足で素足を洗いにくる夜明けの利根川」、「河原に捨てられている洗濯機が/朝のひかりを洗っている」、「静けさだけが/電信柱に小鳥のようにうずくまっている」、どこを採っても申し分のないフレーズです。最終連も佳いですね。「ほろにがい議論のはての朝」に「ひとつまみの塩」で「ゆっくり歯をみが」く、こんな「朝のスケッチ」をいつかは描いてみたいものです。



詩誌GRAIL4号
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2005.3.20
川崎市麻生区
佐伯多美子氏編集・龍生塾発行
800円
 

    詩、も、また、    佐伯多美子

   石で、ある。
   中に死産した胎児を抱く石である。

   石に、
   針金を巻きつけ、手元を鈎型にして、
   引っ掛けていく、

   壁に、テレビに、空気清浄機に、
   空に、
   猫に、

   いくつもの石が引っ掛けられて、
   その、表情を変え、
   壁はタブローになり、テレビが伝える戦火は礫になって眼を撃ち、
   空は、異次元のえいえんになる。

   ――無機質にえいえんを語るのが石の資質である。

   えいえん、と、いう、宙は、凝縮した今日にある。
   即、
   今日を、
   生きのびたものは、えいえんを生きる。
   猫も、後退りしながら、えいえんを生きる。

   石は、晒されて黙する。
   春夏秋冬の摂理に身を、晒す。
   空、
   一滴の、セルリアンブルーの涙。

   ありのままの、空。
   石。

   詩、も、また、
   晒されて、
   限りなく、
   無、
   に、近づく、

   悲鳴を、
   聴く。

 タイトルから冒頭にかけての「詩、も、また、」「中に死産した胎児を抱く石である。」という詩句に魅かれました。主題は「石」ですが、石に内包された詩を想像して拝読しました。「晒されて黙する」石と同じように、「晒されて、/限りなく、/無、/に、近づく」詩も同質であるという見方は斬新だと思います。最終連も佳いですね。「悲鳴を、/聴く」のは、結局のところ石にとっても詩にとっても宿命なのかもしれません。句読点の多い、独特の技法も奏功している作品だと思いました。



詩誌『濤』6号
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2005.3.28
千葉県山武郡成東町
いちぢ・よしあき氏方 濤の会 発行
500円
 

    唇    森 徳治

     (アメリカ原住民の
      老いた婦人の写真から)

   あなたの顔は
   夥しい皺に包まれていて
   眼の下鼻の下の皺と
   顎の皺は
   河に入る支流となって
   一文字に結ばれた唇に切れ込んでいる
   あなたの顔の
   深い皺と光と翳に
   緊張をあたえているその唇は
   今まで何を語ってきたろうか
   いや唇は今も語っている
   耐えてきた無数の氷雨の道のことを
   適えられなかった夢をたたみこみ
   出会ったもののすべての記憶を
   飲み込んだその唇を含めて
   あなたの顔は大地に似ている
   太陽の慈しみを湛えた黒い目
   聖なる自然の
   威厳を映した頬
   盛り上がる意志を語って鼻筋
   その顔の中に
   運命を切ったように伸びる
   引き締まった一筋の線
   生命の時間を
   鋭い矢に表して
   はめ込んだような
   あなたの唇よ

 「アメリカ原住民の/老いた婦人の写真」というのは私も見たことがあるのですが、この作品のように微に入り細に入りというわけにはいきませんでした。その経験から作者の観察力には瞠目しています。その観察力あっての表現力だろうと思います。「あなたの顔は大地に似ている」というのは、その象徴ですが、佳い言葉だと思います。そして最終の部分は圧巻ですね。「生命の時間を/鋭い矢に表して/はめ込んだような/あなたの唇よ」というフレーズに、作者が「アメリカ原住民の/老いた婦人」を敬愛していることが端的に示されていると思います。写真を通してさえ人間観察が出来ることを教えてくれた作品です。

 なお原文での2行目は「夥しいの皺に」となっていましたが、誤植と思って勝手に訂正してあります。ご了承ください。




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